河童の悩み
第11話 河童の悩み 前編
「実はのう……息子がこの間から姿を消してしまったのじゃ」
「家出とか?」
「息子は好奇心旺盛で勝手な事をしないように気をつけていたんじゃが」
河童はそう言って遠い目をしていた。どうやらちょっと目を離した隙に息子がいなくなってしまったらしい。
そう話す河童は人と同じように子を心配する親の顔をしていた。
「どこまで探したんですか?」
「この池の周りはあらかた探したから、少なくともそれより遠くにいるはずじゃ」
「分っかりました!迷子の河童探し!任せて!」
まぁここはひとつ、この頼みを聞いて信頼を勝ち取らないとね。このくらい威勢が良かったら河童も任せてくれるかなってそう言う作戦だよ!
「そこまで言うなら自信があるのじゃろうな……なら任すぞ」
これが上手く行ったのか、ただ妖怪が見えて空を飛べるだけのこの私達を河童は信用してくれたみたいだった。
うん、ここはなんとしても河童の息子さんを探し出さないと!
河童は息子の捜索を私達に任せた後また池の中に潜っていった。
さて、大口は叩いてみたけどこれからが大変だなぁ。
「とは言うものの……」
「手がかり何もないよね?」
事の成り行きを見守っていたキリトが私のこの行動にツッコミを入れる。そんな事言ったってあの場合、ああするしかないでしょ。
へーそれは大変ですねって他人事で返していたら話が終わっちゃうよ。
しかし……手がかり……手がかりねぇ……。私は空を見上げて捜索の事を考えていた。この辺りで河童の目撃情報なんて聞いた事がない……。近所の人に聞いても不審がられるだけだろうな。
見上げた空はカラスが飛んでいるばかり……。
「はぁ~、カラスと話が出来たらなぁ~」
空を脳天気に飛ぶカラスを見ていて私は無意識にそうつぶやいていた。
するとその声が聞こえたのかカラス達が私に向かって急降下して向かって来た。
(えっ?どう言う事?)
カラスはいたずらした相手を覚えていて攻撃してくるって言うけど……私あのカラス達に何もしてない!攻撃される理由なんて何一つないはずないよっ!
私は恐ろしい勢いで向かってくるカラス達に対して顔を手で覆って防御態勢を取った。
(くっ!来るなら来いっ!)
しかし急降下したカラス達が取った行動は信じられないものだった。
「何すか!」
「何か用すか!」
「何でも聞いて欲しいっす!」
私に向かって口々に話し始めるカラス達。その喋り方はまるで親分の命令に子分が答えるようなそんな雰囲気だった。ど、どう言う事よ、これーっ!
「ひぃー!カラスが喋ってるー!」
「カラスは天狗の眷属だからね……うん」
「何で冷静なのよーっ!」
その様子を見てキリトは平然としている。どうやらこうなる事はある程度想定済みだったらしい。そうならそうで前もって教えてよもーっ!
……話が出来ると言う事でこのカラス達にダメ元で話を振ってみる。これで何か情報が得られたらそれだけでもめっけもんだよね。
「河童の子供?」
「聞いた事ある?」
「あ……っ!」
おお、一羽、目撃情報あり?カラスって妖怪を見る事が出来るんだ……。
これは有力な手がかりをゲットですぞ♪
「見たの?教えて!」
私達はカラスの情報を得てその情報を元に行動を開始した。常に上空から地上を観察している好奇心の強いカラスだけに、この情報は信頼出来ると私は睨んでいた。
貴重な情報を教えてくれたカラス達は用が済むとまた空へと戻っていった。また何かあったら協力すると言う頼もしい言葉を残して。
うん、今後は何か困る度に君達に協力を求める事にするよ。有難う、翼を持つ同志達よ!私は去っていくカラスにしばらく手を振っていた。
「まさか学校に紛れ込んでいたとは……」
「灯台下暗しだな」
そう、カラスの情報が正しければ河童の息子はこの学校に潜んでいる。学校に入る河童の息子をカラスはじいっと空から見ていたんだ。
私は無意味に大規模な捜索をしなくて済んで良かったと心から思った。
しかし学校と言っても広いな――何か河童の行きそうな場所とか分かればいいんだけど。校内で妖怪が動けば生徒の中で噂とかになってもおかしくないのに。
大抵そう言う噂って、真偽は別にしてすぐに生徒内に広がるものだよね。私、いくらぼっちとは言えそう言う噂には敏感なつもりだったんだけど――。
「でも河童が何かしてたら噂として広がっていてもいいはず……」
「誰にも気付かれずにこっそり潜んでいるのかも」
「取り敢えず別れて情報収集しよう」
校舎に戻った私達は男女別で別れて情報収集する事にした。放課後になって部活以外で学校にいる生徒はあまり多くなかったけれど、その数少ない生徒達から私達は何か河童の手がかりはないかと聞き取り調査を続けた。
「目撃情報や不審な噂ひとつなしとか……」
「今はずっと指輪つけっぱだから偶然でも目にすれば見つけられるはずなのに……」
そう、結局この事で分かったのは少なくとも今残っている生徒間には目撃情報も噂も何もないと言う事だけ。そりゃ普段妖怪は目に見えないだろうけど、動きがあれば異常現象なんかが起こって噂とかにはなるはず。
これじゃあ、あのカラスの言っていた事も信用が難しくなって来たな。
でも、あのカラスが嘘を付いているとも思いたくないし……。
後、河童が好きそうな場所で人目につかないと言えば――。
「そうだ!プールだよ!河童と言えば水!」
キリトのその言葉に私達はプールへ向かう。
しかしそこはまだ5月中旬。現在のプールはとても河童が泳げる状態じゃなかった。
「うーん……さすがにこの時期にプールに水はないか」
「振り出しに戻った……」
「言い出したあんたが言うか……」
結局その後も探しまわって何の手がかりも見つからず、とりあえす私達は部室に戻る事に。部室では雨降らしが私達の帰りを待っていてくれていた。
何故だろう?この子の姿を見た途端に安心出来る自分がいる。それだけ私の中でこの子の存在が大きくなっているのかな。
雨降らしがニコニコと私を見つめているので、私は聞かれている訳でもないのに今までの事を雨降らしに話していた。それはまるで親しい友達に無意識に近況報告をするみたいに。
雨降らしも私の話をニコニコと黙って聞いてくれた。
「と言う訳でさ……もう学校にはいないかも」
「あの……」
「え……?」
「その子……知ってるかも」
と、灯台下暗しッ!妖怪の事は妖怪に聞けだったんだよ!ああ、雨降らしが知り合いで本当に良かった。
そんな訳で私達は雨降らしの情報を元に行動を開始した。
そうして行き着いた場所は……理科準備室の前だった。
「……ここ?」
「私も確認した訳じゃないんです……ただ、気配を感じて」
「行ってみよう!」
ガチャガチャ……。
「あれ?」
キリトが扉を開けようとしたら、鍵がかかっていて開かなかった。ま、普通に考えて用事がなきゃ鍵はかかってるよね、うん。
「職員室行って鍵借りてくる。待ってて」
転校したてでまだ学校に不慣れなキリトに任せる訳にもいかないので、ここは私が鍵を借りて来る事にする。お留守番状態になったキリトと雨降らしは折角なので2人で世間話をしていた。
「学校には他にも妖怪がいるのかな」
「ええ、いますよ」
キリトの質問に雨降らしはきっぱりと言い切った。妖怪本人がそう言ってるんだからこれは間違いないね。
じゃあ学校の怪談とか、よく言われるのはみんな本当の事だったのか。
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