第10話 雨降らしの古い知り合い 後編
「ウチはあんな家系だからさ……古文書関係の事なら多少融通は利くんだ」
「実は結構お坊ちゃんだったり?」
「そこは想像に任せておくよ」
いや、絶対お金持ちだよ。きっと旧家のお坊ちゃんなんだ。この答えによって私の中でキリト=お坊ちゃん説が成立した。
この人脈を活かせば将来何かの役に立つかも……やったw
そんな会話をしている内に例の池に辿り着いた。やっぱり学校の側だからあっと言う間だ。きっと10分も歩いてないね。
この溜池、どう見ても何の変哲もないありふれた農業用の溜池にしか見えないんだけどなぁ。
そう言えば私も昔この池の側で遊んだ事がある。その頃は別に何の違和感も感じなかったんだけど……。
「どう見てもここ、普通の池だよね」
「指輪をすれば無条件で見える……なんて都合のいい話でもなかったか」
池に着いた私達は取り敢えずどこかに妖怪がいないか池の周りを探しまわった。雨降らしの時みたいに見えるようになればすぐに見つかるかと簡単に思っていたら、あっさりとその当ては外れてしまった。
じいっと池を眺めていても埒が明かないので、次は池に向けて声を掛けてみる事にする。誰もいない池に向かって声を出すのは恥ずかしかったけど、ちょうど誰も通らない時間帯だったのでそこは助かった。
「おーい!聞こえますかー!私達、天狗のお宝について知りたいんですけどー!」
「あのー!雨降らしさんから聞いて来ましたー!」
私とキリトが交互に池に向かって割と大きな声で話しかける。
けれど池の方からの反応は相変わらずで何も確認は出来なかった。
「……やっぱり好きな物を用意して来た方が良かったんじゃない?」
「一応きゅうりは持って来たけどね、一本」
雨降らしに聞いていたその妖怪の好物のひとつ、きゅうり。キリト、いつの間に用意していたんだろう。
今度はこれを餌に呼びかけてみるかな……?
私がきゅうり作戦を思いついたその時、急に池の様子がおかしくなって来た。何かが池の底から上がってくる、そんな予感がギュンギュンしていた。
ゴボゴボゴボゴボ……。
突然池の真ん中からものすごい勢いで泡が浮き上がって来た。これは池の底から何かが浮上してきているね、間違いない!
「な、何っ?」
「何じゃお主ら……やかましい!静かにせんか!」
きゅうりを見せたおかげなのか、ついにその妖怪が私達の目の前に現れた。やっぱ物で釣るって正解だね!
「あ、お初にお目にかかります……河童さん……ですよね」
「ほう、ワシが見えるとは珍しい……何の用じゃ?」
そう、雨降らしが言っていた天狗に詳しい妖怪って河童なんだ。水辺の妖怪で河童ってある意味定番だよね。
河童は自分の存在が見える人間に対して何ら怯える事もなく、堂々とした態度で私達に話しかけて来た。流石河童!人間なんて別にどうとも思っていない!そこにシビれ……はしないけど。
体格も立派で精悍な顔つきのこの河童は、まるでこの池の主のような堂々とした風格を持っていた。
「あの……雨降らしさんから聞いて来ました。天狗の事に詳しいとか」
「雨降らしじゃと!あの裏切り者!あいつの知り合いと言うなら話は終わりじゃ、帰れ帰れ!」
あちゃー、雨降らしの話を出した途端、急に機嫌が悪くなったよ。これはちょっと失敗だったなあ。
何とかここから上手く挽回しないと……折角ここまで来たのに無駄足になっちゃう。
「そこを何とか!俺達も困ってるんです」
「知らん!とっとと帰れ!」
キリトのフォローも失敗したとなると、ここはもうこれしかないよね。
「ほら、きゅうりきゅうり!」
私はキリトにその手にしているキュウリを差し出すように急かした。彼は私に急かされて慌てて河童にキュウリを差し出す。
「あ、このきゅうりで……」
「ふん!ムシャ……こんなもので……ムシャ……誤魔化されんぞ……」
(その割に全部食べてるんだけど……)
キリトからきゅうりを差し出された河童はあっと言う間にそれを食べてしまった。河童がきゅうり好きって言う伝説は本当だったんだなぁ。
一本全部綺麗に食べ終わった河童はおもむろに自分達の事情を話し始める。
「大体ワシは今それどころじゃないんじゃ」
「何か問題でも?」
「そうじゃ……大変な事になっておるんじゃ」
どうも私達が来たこの時、河童にとって何か困った事情が発生したらしい。な、何てタイミングが悪いんだ……。
あ、でもこれって考えようによってはチャンスかも知れない。ここで私達が問題を解決すれば信用を得て欲しい情報も聞き出せるに違いないよ!
私はその可能性に賭けて思い切ってこの河童に話しかけた。
「あの……その問題、無事解決したら話を聞いてくれますか?」
「お前らが何の役に立つ?」
「意外と役に立つかも知れませんよ?」
さすが河童、私達をすぐには信用しない。……って言うか雨降らしが特別なだけで、これが普通の反応だよね。
でも河童の方も私達が普通の人間じゃない事に期待したのか、態度を少し変えて来た。
「まぁ……今は誰の助けでも欲しい時じゃが……」
「取り敢えず話してみてください」
「うぅむ……実はな……」
こうして私達はなし崩し的に河童の悩みの解決に手を貸す事になってしまった。自分から話を切り出したとは言え……どうか難しい問題じゃありませんように……。
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