第12話 河童の悩み 後編
「よく学校の7不思議とか言うしね」
「大体、人が集まる所には妖怪も集まるんですよ」
「じゃあ、田舎より都会の方が妖怪って多いんだ」
「多分そうだと思いますよ」
この2人、結構相性が良いのかも。鍵待ちの間二人の会話は途切れる事がなかった。
「有難うございます」
私は職員室から何とか理由をつけて理科準備室の鍵を借りて来た。私が鍵を借りるのを怪しがる先生もいたけど、雰囲気を察した武田先生が助け舟を出してくれて事なきを得たのだ。
うんうん、やっぱり先生を味方にしていると色々といい事あるね!
「借りて来たよー」
「良し!開けよう」
カチャ。
「あっ」
ガタガタッ!
鍵を開けて扉を開いた私達に目の前に現れたのは人体模型だった。指輪がなかったらただの人形にしか見えなかったはずのその人体模型が、今私達の目の前で動いている。
私達と目が合った人体模型は焦って目が泳いでいた。
「おお……定番の妖怪だ……って、妖怪?」
「あれ……?」
動く人体模型を目にしても動じない私達。もう妖怪にも慣れちゃった。
「ごめんなさい!」
「いいよいいよ、雨降らしのせいじゃないから」
雨降らしは自分が感じたのが人体模型の事だと思ってひたすら謝っていた。そんなの別に気にしなくていいのに。
そのやりとりを見た人体模型は、自分が動く姿を見られて戸惑っているみたいだった。
「お前ら……俺が分かるのか」
「ごめんなさい、人違いでした」
「まぁ待て待て!話を聞こうじゃないか」
一応謝って部屋を出ようとすると、人体模型が私達を引き止めた。この妖怪(?)も気付かれて嬉しいタイプなのかな?
仕方ないので事の経緯を彼にも説明する事に。
「えー、実はですね……」
私の説明をじいっと黙って聞いている人体模型。それはまるでこの話にすごく関心を持っているみたいだった。
もしかしたらこの人、河童について何か知っているのかも。
「なるほどねぇ……それで河童のせがれを探していると」
「あの……何か心当たりがあったら……」
私がそう言うと、人体模型はおもむろに振り返って誰かに向かって声をかけていた。
「おーい、どうするよ?」
「えっ?」
人体模型に声に応じて姿を表したのは、見た目6歳くらいの全身緑色で頭にお皿を載せたくちばし姿の可愛らしい男の子。その姿はまさしく私達が探している河童の息子さんだった。
えっ?一体これはどう言う事?
「実はな……」
私達が事態を飲み込めないでいると、人体模型がいきなり話し始めた。彼の話によると事の顛末はこう言う事らしい。
・ある雨の日、外の世界に憧れていた河童の息子が池を出て辺りを歩きまわる。
・それで成り行きでこの学校へと辿り着く。
・色々と学校をを探索している内に迷子になってしまった。
・そこでこの人体模型が彼を保護して今に至る。
人体模型も本当はこの子を元の池に戻したかったが、自分も学校から出るは事出来なくてその手段がなくてちょっと困っていた。
「とまぁ……こんなところだ」
人体模型はドヤ顔で私達にそう語った。つまりは私達の登場は渡りに船ってところなのかな?探していた河童の息子さんはまだ幼く、これなら色々歩きまわっても仕方がないなって感じだった。
「あの……僕……あの……」
河童の息子さん――河童ちゃんは申し訳無さそうに私達を見ている。私はその様子が可愛くてメロメロになってしまった。
ショ、ショタを嫌いな女子なんていませんっ!
「や、気にしないで……そうそう、お父さん心配してたよ」
「父様……」
河童ちゃんは父親の様子を知って表情が曇る。これなら後ひと押しすればどうにかなりそう。
「どうする?池に帰る?」
「あの……良かったら、連れて行ってくれませんか……?」
キューン!
河童ちゃんのその懇願する表情に、私はキュンって胸を締め付けられた。かわいい!河童ちゃんかわいい!持って帰って抱きしめながら眠りたい!
……って、そんな訳にもいかによね。うん、分かってる。
「えっと……」
「何か切っ掛けが欲しかったんだろうよ。どうする?」
「まぁ、乗りかかった船だし?」
人体模型に見送られながら私達は河童ちゃんを連れて学校を後にした。校舎を出られない雨降らしは校舎の玄関から手を振って見送ってくれた。
そうして無事私達は河童ちゃん探索と言う難ミッションを無事やり遂げたのだった。
終わってみれば結構楽勝だったけど――。
「おお!有難う!この御礼は何と言ったらいいか」
私達が池に着くと、河童のお父さんが待ちきれない様子で出迎えてくれた。河童ちゃんは父親の姿を確認するやいなや、抱きついて自身の身勝手を謝罪していた。
「父様、勝手に外に出てごめんなさい!」
「いいんじゃ!いいんじゃよー!」
およよ、河童の父さん、甘々だった。普通にしていれば見た目は結構威厳があるのに、今の彼は顔がクシャクシャで子煩悩お父さんと言った感じだった。
その様子を見て私達も思わずほっこりとしていた。
おっと、ずっと和んでばかりもいられないか。私達の目的も果たさないとね、うん。
再会を喜んでいる河童親子のこの愛情空間を断ち切るのはちょっと気が引けたけど、私は河童父さんに話しかけた。
「それであの……天狗の事についてですね……」
「そう急くな!まずは宴じゃ!お前らも来い!」
「え……いやその……うわあああ……!」
無事息子を連れて来た私達を気に入ったのか、河童父さんは私達を客人として池の中に呼び込んでそのまま無理やり宴に参加させられてしまった。
池の中の河童空間は水に濡れない不思議な空間で、そこには河童のお仲間が沢山いた。
そこで飲めや歌えの大宴会が開かれて、結局何だかんだ私達も楽しんでしまった。出された妖怪食べ物や妖怪飲み物も指輪の力のせいかどれも美味しくて、とてもいい時間を過ごせたのだった。
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