第8話 妖怪が現れた 後編

「これ、夢見てるのかな」


「いや、きっとこれも天狗化の現れだよ……。多分身体が馴染めば指輪がなくても妖怪が見えるように……」


「ええー……」


 キリトのその説明に私はちょっと嫌な気持ちになった。その説、確かに筋は通っているけど、私は霊感体質なんてなりたくないんだけど……。

 今でもぼっちなのに、そんな特技が身についたらますます誰も近寄らなくなるよ……(汗)。


 私がうんざりしていると、今度はキリトがその子に質問をした。


「あの……妖怪さん、ちょっと質問いいかな?」


「何でしょう?」


「天狗のうちわの場所って知りません?」


 おおっ!早速さっき私が言っていた事を実践している。やっぱ餅は餅屋!妖怪の事は妖怪に聞けだよね!うん、これで道が開けるよ!


「さあ……?」


 って、期待を込めて返事を待っていたら返って来た答えがこれだよ!えぇ……妖怪なのに天狗のお宝について知らないの?使えない……(汗)。

 あ、でもこれは質問が悪いのかも。本人に心当たりがなくても、文書を読めば何か閃くものがあるかも知れない!


「そんな質問じゃダメでしょ……。貸してっ!」


「わっ……何をっ」


 私はキリトから文書を奪い取って、その子に該当する箇所を見せてみた。どうよ?これなら少しは何かが分かるんじゃない?


「ここに書いてあるここなんだけど、これが今のどこになるか分かる?」


「ごめんなさい……。天狗様の言葉は難しくてよく分からないです」


 ありゃ。この作戦でも無理か。

 しかし折角妖怪の知り合いが出来たんだから、何か利用――じゃない、何か分かる事はないかな。

 そうだ!本人がダメなら交友関係から攻めるって手があった!


「ダメかー……。じゃあさ、あなたの知り合いで天狗に詳しい人っている?何なら天狗本人でもいいんだけど」


「おいおい……」


 この話を聞いてキリトが冷静にツッコミを入れる。こいつ……ツッコミキャラか。


「天狗様に詳しい……それなら」


 おっ!脈あり。この子の知り合いに会えば何か新しい展開があるかも。じゃあ早速協力してもらっちゃおうかな?


「誰かいるのね!教えて!今すぐ教えて!」


「でもあんまり仲良くないから……。悪いけど紹介はちょっと」


 あらら……。妖怪内にも色々と事情があるんだねぇ。

 でもここでハイそうですかとは引き下がれないな。


「じゃあ、その人がどこにいるのか教えて!会いに行くから!後その人の見た目とか名前とか好きな物とか……」


「おいおいおい……」


 またここでキリトからの突っ込みが。何こいつ、さっきから突っ込みしかしてないな。


「好きな物をお土産に話を進めるのは交渉の基本でしょーよ」


「お、おう……」


 私の発言の意図を知ってキリトは引き気味に納得していた。何だろう……このやりとりで彼との距離がちょっと開いてしまったような気がするよ……。


「教えてもいいんですけど、ひとつお願いが……」


 私の質問にその子は交換条件を出して来た。え?ここに来てそんな展開になる訳?


「何?こっちは命がかかってるんだけど?」


「ひぃっ!」


 私がちょっと苛ついた反応してしまったせいでこの子を怯えさせてしまった。教えてくれるのって向こうの好意なのに、これはちょっとどうかしてたね。

 ああ……もしこれで話が進まなくなったらどうしよう……。


 そうしたらこのやりとりを見ていたキリトが助け舟を出してくれた。


「妖怪脅してどーすんだよ……。ゴメンな、悪気はないんだ」


「あ、はい……ごめんなさい」


 へぇ~、キリトも意外とやるじゃないの。これで機嫌を直してくれるかな?

 念の為にもうひと押ししておくか。


「そうそう、お願いなら彼が聞いてくれるから、何でも」


「おいおいおいおい………」


 そこでこのキリトの突っ込みである。おいの数がどんどん増えてる……。何かお約束みたいになっちゃったな。

 このやり取りを聞いてこの子はくすくすと笑った。機嫌直してくれたのかな?


「じゃあ、あの……お友達になってくれますか?」


 この子のお願いはこの手の物語での定番のアレだった。この子って妖怪って言うけど、見た目も性格も可愛いし仲良くなれそうな気はする。


「え……ああ。うん」


 キリトもその子のお願いに少し面食らいながら快く了承した。ま、こんな優しそうな妖怪だもの拒否する理由もないよね。


「本当!やった!有難う!」


 キリトの了承をもらってその子はすごく喜んでいた。その様子があまりにも可愛くて私もすぐ後に続く事に。


「友達くらいだったら私もいいよ!」


「やった!有難う!」


 この子の笑顔!プライスレスだわあ。

 でもちゃんと条件は忘れないようにしてもらわないとね。


「その代わり……。分かってるよね」


「分かってます……。実は話を聞いていて協力したいと思っていたんです」


「そ、そうなんだ……」


 この子ってもしかして結構世話焼きなのかな?そう言う子だと本当私達も助かるよ。


「でもどうして?」


「私はここでずっと屋上に来る人達を観察していました。今までにも色んな青春群像劇がありました」


「ふんふん」


 やっぱ屋上ってドラマが転がっているんだねぇ。この子は昔からそのドラマをじっと見ていたんだ。


「ここでどんな問題が発生しても、私にはどうする事も出来なくて……。だって、私は彼らには見えないし、関われないから」


「だろうねえ」


「でも今回は違う!私が関われるんですよ!だから今はやっと夢が叶った……そんな気がしているんです」


 ええ子や!この子妖怪だけどすごくいい子や!何でこんな子が妖怪なんてやってんの?

 と、ここまでやりとりして一番大事な事に気がついた。


「そう言えばまだ名前を聞いていなかったっけ?」


「そう言えばそうでしたね……。私の名前は雨降らしです」


 そう言う訳でぼっちの私にまた友達がひとり増えた。とは言っても、今度の友達は人間じゃないけど。

 折角だからこの子の事をもっともっと知りたいな。

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