第3話 天狗のお宝 後編

「見た目から何かスポーツやってるっぽいけど?」


「前は……サッカーやってたんだけど」


「ほうほう」


 キリトの体が鍛えられてるっぽい理由はサッカー部かぁ。言われてみれば何かそれっぽい感じだ、うん。

 私はその話を聞いて改めて彼の体を眺めていた。


「古文書の解読にハマっちゃって」


「え?まさかそれで部活やめちゃった?」


「悪いかよ!」


 この私の反応が図星だったのかキリトは怒ってしまった。

 でも普通に考えてやっぱり……ねぇ。


「もったいなーい」


「これは俺の一族の問題なんだよ!」


「何か根が深そうだね」


 きっとキリトの家は由緒ある古い家柄なんだろうな。だから古文書なんてものもあるんだろうし、きっと裏にはドロドロの歴史とかもあるんだろう。そう言うしがらみのない家に生まれた私は幸せだねぇ。


「ちひろは関係ないんだから気にしなくていいよ」


「うん。分かった」


 キリトの複雑な家庭の事情も少しは気はなるけど、そう言うのに立ち入らないのはマナーだよね。大体、深く切り込んであんまり面倒くさい問題に巻き込まれてもこっちが困るし。

 仕方がないので、次の話題が見つかるまで私はお宝探索の方に注意を向ける事にした。


「えーっと……ここまで来たらっと……」


「しかしよく夢の内容を詳細に覚えてるな……」


 私が話題を探していると今度はキリトの方から話を振って来た。まぁ夢の話を信じてこう言う行動を取るってちょっと普通じゃないもんね。

 よし、今度は私が自分の夢について語ってあげようじゃないの。


「ああ、予知夢を見た時は夢の内容をずっと覚えてるのよ……それと忘れないようにノートにも書き留めてるから」


「考えたら凄い才能だよそれ」


 夢の話……キリトはやっぱり信じてくれているのかな?普通この手の話って疑われると思っていたから、信じてくれるとやっぱりちょっと嬉しい。


「でしょ♪でも周りには秘密にしてる……頼られても困るしね。この事話したの家族以外じゃキリトが初めてかも」


「なんだよそれ……」


 初めてって言葉に顔を赤らめて反応するキリト。何こいつ、意外とかわいいじゃないの。

 いつの間にか私はキリトを結構気に入っていた。そんな彼の反応が面白くて私はつい道を行き過ぎてしまった。


「おっと……行き過ぎた……確かここから抜け道があって……」


 草で塞がれたその道を後を両手でかき分けて進んでいくと、夢で見た内容通りに目の前に抜け道が現れた。うふふ……全く私の夢は完璧過ぎる……!


「本当にお前の夢の通りになってんな……」


 私の後をついて来ながらキリトはしきりに感心していた。私はその彼の反応を嬉しい気持ちで聞いていた。

 しばらく抜け道を歩いていると、やがて視界が広がって草の生えていない広い場所が現れた。


「出た!」


「嘘だろ?俺もこの山は何度も歩きまわったけど、こんな場所知らないぞ……」


 キリトはそう言ってぽかんとしている。私はそんな彼を相手にせずにそのまま歩いて先へと進んでいった。目の前に広がる景色は予知で見た夢の景色と全く一緒だ。

 本当、私の見る予知夢は外れないわ。


 開けた場所を歩いていくと、その先は眼下の景色を見下ろせる丘になっていた。


「おほ~こりゃいい眺めだわ~♪」


 私はしばらくその場所からの美しいパノラマを堪能していた。適当に田舎で適当に都会のその景色は、街と緑がいい具合に調和していて中々に見応えのあるいいものだった。

 勿論このままこの景色がお宝、何てベタな展開であるはずがない。私は街を見渡しながらもこの丘の周囲を細かく見定めていた。


 そんな私の目に映ったのは丘の外れにあった小さな祠。夢のお告げが正しければあの祠にお宝が隠されている――はず――。

 私が祠に近付くと、それに気付いたキリトがその動きを制止した。


「何?」


「これは我が一族のお宝だ!部外者には渡せない!」


「何言ってんの!まだ分からないでしょ!」


「とにかくここから先はダメだ!そもそもこの山は……」


 祠を見つけたあたりから急にキリトが面倒くさい事を言い始めたので、私はそれを無視して祠の小さな扉を開けた。

 見た目からしてかなり古そうな祠のはずなのに、その扉は簡単に開ける事が出来た。


 キィ……


「開けちゃった♪」


「お前ーっ!」


 祠の扉を開けた途端、キリトが怒り始める。こっちはあんたのお家の事情なんて知らないって言うの。

 この彼の態度にちょっとムカついたから私もキリトに言ってやった。


「何よ!誰のおかげでここに来れたと思ってるのよ!」


「う……」


 私がそう言うとキリトは黙ってしまった。彼の妨害がなくなった所で、私は祠の中に注目する。夢の通りならこの中にお宝が――。


「おお……!」


 祠の中に何か入っているのを確認して、私は思わず声を上げてしまった。

 その中に入っていたのは2つの指輪だった。

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