天狗のお宝
第2話 天狗のお宝 前編
「悪かったよ……言い方が悪かったのは謝る」
「へぇ……」
私の態度で自分に非があるのが分かったのか少年は謝って来た。よく見ると彼、私と同じくらいの年格好だった。地元の子かな?
顔はまぁ普通だけど、体つきはスラっとしていてそれなりに鍛えている感じ。服装は上下黒いジャージで本人的にカッコいいつもりなんだろうか?
ただ、山歩きにはちょっと向いてない気がする。
で、彼の言う天狗のお宝って私がこれから私が見つけるお宝と同じものなのかな?色々気になった私は彼にちょっと興味を持ってしまった。
「で、天狗のお宝って何?」
「知らないのか?この山に登る奴はみんなお宝が目当てのはず……どこから来たんだ?」
「あらぁ?こんな山の中で新手のナンパ?」
「なっ!」
私の言葉に少年は顔を真赤にして反応する。からかうと結構面白い。それにしてもこの山はそんなに有名な山なんだ……。地元じゃないから知らなかった。
そんな有名な山って事はこの少年もそのお宝――天狗のお宝が目的って事なのね。
「ごめんごめん。私は谷口から来たのよ」
「わざわざ隣の市から?どこでこの山の事を?」
「ただの観光……って言っても信じてはくれなさそうね」
私の自虐的な発言通り、少年はどうやら私の話を信じていないっぽい。ま、私も他人からそう言われたらすぐには信用しないかもね。
だってこの山はわざわざ他所から登山を楽しむためにやって来るような山じゃないもの。
少年は私の顔をまじまじと見つめながら口を開いた。
「こんな地元の人間しか知らないような地味な山に、観光で登ってくる奴がいるはずがない……それも山の謂れも知らない人間が……」
少年はそう言って私を怪しんでいた。逆に言えば、この天狗の山は地元ではお宝があるってかなり有名な山なんだ。
しかもお宝を探す人が絶えないって事はつまり、信憑性もありつつ、お宝自体はまだ見つかっていないって言う事よね。
「話を戻すけど、あなたもそのお宝を狙っているのね?」
「あのお宝はそもそも我が一族の物だ。他の誰にも渡せるか!」
少年があまりにも真剣なので、私は彼についてもう少し詳しい事が知りたくなった。
私はこの山について夢で見た以外の事をあまりにも知らない。それに、伝説とか昔話とかそう言うの、結構好きなんだよね。
口ぶりから見てこの少年の一族って、何かこの山と深い関係があるみたいだけど……。
「私はちひろ。良かったらその話聞かせてくれない?私何も知らないのよ」
「知らない?じゃあ何の目的でこの山に……」
「夢を見たのよ……この山に何かがあるって」
「夢……?夢のお告げを信じてここに来た?」
私の言葉に少年は半信半疑のような顔をする。確かにそれが普通の反応だよねうん。だから私はこの夢の事をあんまり人に話した事はないんだ……あ、家族には言った事があるかな?
今回は状況が状況だから仕方ないよね。
「あなたが信じようが信じまいが勝手だけど、私の夢は当たるんだからね」
「俺はキリトだ。お前がそう言うならそうなんだろうな」
あら意外。この少年、キリトは私の話を信じてくれるっぽい?彼は意外とそう言う系統の話を受け入れられる性格なのかも。
私は彼が自分を受け入れてくれた事で気分が良くなって、最初の頃のムカムカした気持ちもなくなっていた。
「じゃあねキリト。私は先に行くから」
「だから待てって」
「今度は何!」
誤解が解けて気分が良くなっていた所で、またしても呼び止められて私はまた気分が悪くなってしまった。
これ以上一体何を話す事があるって言うの?
「一緒に行こう……」
「はぁ?」
キリトの口から出たのはまさかの同行のお誘いだった。私はその展開にちょっと理解が追いつかなかった。
彼は顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら話を続ける。
「実は迷っちゃったんだ……ちひろ……さん、道を知っているみたいだし」
え?何こいつ……結構可愛いじゃないの。私はキリトのその態度と言動にドジっ子属性を見て勝手に萌えていた。
「ちひろでいいよ……その手に持っている地図に書いてあるんじゃないの?」
「これは地図じゃない……。我が一族に伝わる古文書なんだ」
キリトはそう言ってその古文書を開いて私に見せてくれた。その古文書に書かれた文字は初めて見る形をしていて、当然ながら門外漢の私に読める訳がなかった。
「えっ?全然読めない……。これ読んでよくここまで辿りつけたね」
「俺も全部解読出来た訳じゃないんだ」
「でもいいの?私の目指すお宝とキリトの求めるものが違う場合もあるよ」
「その時はその時で別にいいよ。また別の日に探すから」
目的のためには見ず知らずの女の子にも助けを惜しまないその姿勢。きっとキリトにとってそのお宝は本当に特別なものなんだろうなあ。
私はその彼の熱意に敬意を評して、協力してやってもいいかな?なんて気持ちになっていた。
「じゃあ一緒に行く?」
「頼む」
私の提案にキリトは手を合わせて懇願する。その姿を見て私は何だか憎めないものを感じていた。
そんな訳で成り行きで私の旅に奇妙な同行者が出来てしまった。折角だからお宝の場所につくまで話し相手になってもらおうかな。
「ところでキリトはいくつのなの?私は15、高1だよ」
「俺も高1……16」
「そうなんだ!同級生かぁ~!偶然だね!」
見た目で同い年くらいかなって思っていたけどまさかの同級生。私はこの偶然にちょっと運命的なものを感じていた。
もしかしたらもっと共通点があったりするのかも。
「こう言う事ってよくやってるの?」
「こう言う事?」
「山歩き」
「いや……古文書をある程度解読出来たから、今日はそれが正しいか確かめに来たんだ」
「ふーん」
どうやら彼は古文書を解読出来たからこの山に確かめに来たらしい。それで迷ってるんだから世話ないなぁ。
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