第2話 俺、パンツの神様?

 「第三種善行により、神身移行となりますね」

 「はい?」


 ちょっと裏返った声が出る。意識を失った俺は、気付くと豪華な宮殿の前にいた。インドかどっかの宮殿もこんな形してたっけな。あれは墓だったか。そんなことを考えながら暫くぼーっと眺めていると、門番らしき人に中に入れと促され、門をくぐった。宮殿に入ってすぐの、これまた豪華なカウンターでドレスを着た綺麗なお姉さんに名前を聞かれ、戸惑いつつも名乗ると、この謎の返答である。変な汗の止まらない俺に対し、目の前のお姉さんは営業スマイルを崩さない。俺は仕切り直すように咳払いをしてから、もう一度聞き返した。


 「えっと……つまりどういうことです?」


 他人と会話するのは三日ぶりだな。少しだけ悲しい現実を思い出す。


 「気持ちの悪い天然パーマさんにもわかりやすく申し上げるなら、死ぬ前に良い行いをした為、もう一度チャンスを差し上げるということです」


 俺なんか機嫌悪くなるようなこといったかな?ていうか俺やっぱ死んだんだ。


 「チャンス……つまり生き返れるってことですかね……?」


 俺の問いかけに、お姉さんは笑顔のまま答える。


 「それはクソ天……チリチリ陰毛野郎の努力次第といったところでしょうか」

 「そこ言い換える必要あんのかよ!あごめんなさい真顔にならないで」


 俺のツッコミに気分を悪くしたのか、真顔になったお姉さんはやたら怖かった。やっぱ女性は笑顔が一番だね!


 「知ってますか?イケメンというのは一緒の空間にいるだけで人に幸福感を与えるそうですよ」


 真顔のまま、お姉さんが言い放った。


 「その逆は聞きたくない……ですね……!」

 好きで不細工に生まれた訳じゃないやい。


        *


 素敵な営業スマイルに戻ったお姉さんに連れられて、カウンターから大広間を抜け、更に宮殿の奥に入ったところにある、薄暗い部屋に来た。入口の辺りや廊下とは違い、この部屋は全く飾り気のない、大きな書庫のようなところだった。明かりも蝋燭だけで、奥の方は暗くて見えない。よく目を凝らしてみると部屋の真ん中に人影があるのがわかった。


 「なんだぁヘルメース、手続きか?」


 しわがれた声が部屋に響く。お姉さん、ヘルメースさんていうのか。


 「オードさん、第三種善行の神身移行の手続きをお願いします」


 ヘルメースさんが言うと、オードさん、と呼ばれた人影がこっちへ向かって歩いてきた。近づいてきてわかったことは、オードさんは見た目は老人だが、かなりでかい。俺の身長の二倍はありそうだ。頭頂部は禿げ上がっており、白く長い髭を蓄えている。ローブをまとっていて、ファンタジーか何かに出てくる魔法使いの様な風貌だ。

 小さい俺に合わせて屈んだオードさんは、様々な角度から俺のことをジロジロと、観察するかのように見た。


 「ウーム……三種ね、なるほど。確かに二種や一種に認定されるほどの人格者じゃあ、ないようだな」


 オードさんは姿勢を元に戻すと、白い髭をなぞりながら言った。


 「その……一種とか三種とか……どういうことなんですか?」


 素朴な疑問を口にする。さっきから専門用語が多くて会話が理解できない。


 「お前さんは死ぬ前に、善行、つまりは良いことをした、それの度合いのことさ。お前さんのしたことは上から三番目、第三種にあたる。まあ……一種や二種なんて、五百年に一人出ればいいペースってくらいの英雄かなにかじゃねえと認定されねえからな」


 そういうとオードさんは、ローブの中をガサゴソと漁り、分厚い本を取り出した。


 「そして第三種善行の神身移行と認定されたお前さんは、神になってより『善行』を積んでもらう」


 ふむふむなるほど。


 「って納得できるかあっ!神になるって?!俺神様になっちゃうの?!」


 チッ、隣でヘルメースさんの舌打ちが聞こえた。


 「頭に陰毛のっけておきながら、騒々しいですね……少しは黙って聞けないんですか」

 「天パは関係なうぎゃえ」


 反論しようとお姉さんの方を向くと、オードさんに頭をつかまれて、恐ろしいほどの力でひねられた。オードさん?首はそれ以上そっちには曲がらないんですよ?


 「まあ待て、落ち着け。最後まで話をきけ。お前さんにとって悪い話じゃない。むしろお前さんの望むところであろう。」


 「それってつまり、生き返る話と関係あるってことです?」


 痛めた首をさすりながら訊くと、オードさんは大仰に頷いた。


 「いかにも。生き返りたければ、お前さんは神として今一度地上へ戻り、人々のために尽くすのだ。お前さんの努力が認められれば、お前にもう一度生きる権利をやるということだ」

 「なかなか、曖昧な規定なんですね……」


 恋人占い並みの曖昧さだ。どれくらい働けばいいのやら。


 「まあ、神になってもらうことが決まっている、といっても、最近はこちらも就職難でね……空き枠がほとんどないのだよ」


 オードさんはそう言うと、手に持った本をパラパラとめくった。


 「ふーむ、これなんかいいんじゃないかな。うむ。君に……ぴったりかもしれん。よし」


 なにやらぶつぶつというと、オードさんは俺の方を見て言い放った。

 「お前さんを、付喪神、『パンツの付喪神』に任命する!」


 

 「……え?それ妖怪じゃね?」

 

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