☆終幕イニシエイション!

「これで。前段は乗り換えた」

「前段」


 反射的に繰り返すと、相手はひらひらと左手を振ってみせる。

 

「これまでは。紛うことなく、だろ。肝心なのは、ここからだ」

「……そうか。確かに、そうだけど」

「もう少し喜べよ。ひとまずは今日まで、何事もなく乗り越えられたんだからな」

「何事もなく、……か」

 

 その言葉に、やや含むものを持たせながら、深く息を吐き出し。

 やがて、顔の前で手を組みながら、ぽつりと呟いた。


「知っていながら。ただ見ているだけってのは、想像以上にしんどいな」


 どこか自嘲気味に笑みを浮かべ、続ける。

 

「お前と違って。自分は何もしてないから余計に。

 ――本当に、何も」

「『何もしない』のが、お前の役割だろうが」


 頬杖を突いて、静かに指摘する。

 

「そもそも下手に介入するわけにはいかなかったからな。今回は、特に。

 むしろ。この状況で、変らわない未来を目指す方が難しい。

 ……お前の手前、こう言うのは気がひけるが。きっと、自分にゃできなかった」


 ぼそりと最後に付け加えてから、気を取り直すように声を張る。

 

「安心しろ。否が応でもこれからは動かなきゃならないんだからな。指をくわえて手をこまねいている期間は終わりだ。

 お前のおかげで、既定通り、最重要ピースの一つである奴らとも繋がりを持てた。

 ……そろそろ、あいつを元に戻さないとな」

「そうだな」


 顔を上げ、ふと窓の外に目を向ける。

 まだ夏の気配の残る戸外には、雲一つない澄んだ青空が広がっていた。

 

 


「ようやく。

 ――役者は、揃った」

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