【第2部】カイホウ編:カーテンコール

BAD END03:傀儡の乙女

 彼女だった。


 けれども。

 何かが、おかしい。


 姿や背格好は確かに見知った彼女のものだ。見間違えるはずがない。

 服装だって、いつもの舞橋女子高校の制服だったし、髪型も、見た目も、普段と変わったところはどこにもないように思えた。


 一つ、気になるとすれば。いつもはころころと楽しげに変わる表情が、すっぽりと抜け落ちてしまっていること。

 その何かに取り憑かれたような虚ろな表情に不安になり。

 じっと凝視して、気付く。




 彼女の目は、赤く染まっていた。




 本来であれば、濃い茶色から黒の間の、日本人によくある色のそれ。

 けれども今の彼女の目は、深く濃い赤色だった。

 暗がりで、その瞳の色は光を宿したように鮮やかに映える。


 その飲み込まれてしまいそうな赤に気を取られて、息を飲んでから。

 遅れて、気がついた。

 いつもの格好の他に、いつもはない余分なものがあることに。




 彼女の首には、首輪が付けられていた。






+++++



 彼は飛び起きた。


「なんなんだよ、今の……」


 くらむ頭をかかえ、息を整える。

 悪夢だった。だが夢だというのに妙に生々しく、まぶらの裏にはくっきりと先程の光景が蘇る。目覚めたというのに、夢の残渣ざんさはなかなか消えてはくれない。


 ちらりと枕元の時計を見れば、まだ五時前だ。それを確認して、彼は額の汗をぬぐい、再びベッドに倒れ込む。

 同室の友人はまだ寝息を立てていた。それもそのはず、普段の彼らが起きる時刻よりまだだいぶ早い。

 しかし朝の早い今の季節、窓の外は微かに白んでいて、部屋の中には白い光が差し込んでいる。


 夜が明けようとしていた。

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