均衡の守り人(4)
「どこからどう嘘でなにがなんだかまったく分かりませんこっちゃん!!」
「ハーイ一つ一つ丁寧に説明していきますから落ち着いてくださいねタラシさーん」
幼子をなだめるような口調で琴美がぽんぽんと潤の頭を叩く。いつもならここで潤と琴美との軽いやり取りが始まってもおかしくないのだが、余程混乱しているのか、潤は呻き声をあげたままフリーズするばかりだった。
春は視線を泳がせながら、そっと右手を挙げる。
「その、つまり要するに、今までの常識が全部まるっと」
「嘘です」
「えーっ……」
再度きっぱりと言われて、春は頭を抱えた。
他のメンバーより落ち着いてはいるが、左のこめかみに指を押し当てて考え込みながら京也が尋ねる。
「ええと、現に僕らは鍵を外して、それなりに理術を使いこなしたりしてた……ような気がするんだけど、どの辺りがどう嘘なんだい」
「そう、それ! その『鍵を外す』という言い方からしてそもそも嘘なんです」
琴美はびしりと指を差して言い放った。思わず京也はびくりと身をすくめる。
「元々、理術は何からも制御などされていないんですよ。
制御装置と呼ばれるものは確かに存在します。しかし制御装置は、私たちが普段使うような理術を制御しているわけではない。
私たちは制御装置があろうがなかろうが、元々まともに理術など使えないんです」
琴美は麦茶を一口すすってから話を続ける。
「楽器だって自転車だって、使いこなすには練習が要るでしょう。それと一緒です。
全く修行や鍛錬を積んでいないのに、理術を使いこなせる訳がないというだけのことです。
本来であればそれには修験道ばりに修業が必要ですが。それをせずとも、短期間で理術を使いこなせるよう開発されたのが補助装置です。
そして補助装置などを使用して、ある程度まともに理術が使いこなせるようになった状態のことを、私たちは『
『鍵を外す』という言い方は、関係者に聞かれた場合に悟られないようにと適当にビーたちが考えたんでしょう」
「なるほどね……そもそもの前提が違っていたわけか」
「うわ、常識が引っくり返る」
感嘆したように京也は声を漏らし、潤は自分の頬を戯れにつねった。当然ながら彼女の頬には痛みが襲って、潤は顔をしかめながら指を離す。
琴美の説明に頷きながら、春はもっともな疑問をぶつける。
「それじゃあ、制御装置は何のために存在してるの?」
「その答えを提示するには、まず順を追って二つほど先に説明しなければなりませんね」
改めて琴美は唇を引き結んだ。
「ごく限定されてはいますが、理術には開眼よりも更に上の段階が存在します。
開眼の更に上にある段階が『
もっとも覚醒段階へは、開眼と違いほんの一握りの人間しか至れません。
覚醒した人間は、開眼よりも更に強い理術を使用することができます。詳細は省きますが、分かりやすい点を一つだけ。
――覚醒すると、自分の分身たる
琴美は自分の左手にぱっと杖を呼び出した。
だが手元に呼び出したのは一瞬だけで、すぐさまそれを消し去る。
「人によって具現化できる物質は異なります。私の場合は杖ですが、武器やアクセサリーや様々な形状があるようですね。
この術具を使用することで、より理術の能力を発揮することができる。ただし鋼属性だけは特殊で、開眼段階でも具現化できるんですけどね。
……ここまで話せば、言わずもがなですが」
物憂げな表情で、琴美はため息混じりに告げる。
「先程、音叉野郎との戦闘中に、杏季さんは覚醒してしまいました」
裕希との戦いで、杏季は無我夢中のうち杖を呼び出していた。
あれこそが術具の具現化であり、つまり杏季が覚醒したという事実を示しているに他ならない。
当の本人は少しばかりうろたえた様子で尋ねる。
「でも私、開眼した覚えなんてないよ? それをすっ飛ばしていきなり覚醒しちゃうことなんてあるの?」
「おそらく補助装置なしに何らかの弾みで開眼してしまい、自分ではそれと気付かずにいたのでしょう。特殊なケースではありますが、皆無な事例ではありません」
それ以上の疑問を差し挟む余地なしに、琴美は二本目の指を立てて話を続ける。
「そして二つ目。杏季さんの属性である『古』の隠された能力についてお話します」
「隠された能力?」
杏季が首を傾げた。琴美はどこか弱々しく微笑んでみせた。
「他の属性は覚醒したとて、使用できる術の種類がガラッと変わるわけではない。しかし『古』には、覚醒できるかできないかで天地ほどの大きな違いが存在するんです。
覚醒した古は。『全ての事象』を召喚できます」
「……全ての、事象?」
うわ言のように杏季が呟く。
その言葉で、思い出したように奈由が指を鳴らした。
「あ、……もしかしてつまり、そういうこと。……え、いやマジで? うっそ」
「え、何なっちゃんどうしたの?」
潤の言葉に、奈由はいつも以上に真剣な眼差しで、しかし口元は引きつらせながら、彼女を仰ぎ見る。
「どうしたもこうしたも、今さっき私たち全員が目撃してるじゃん。
さっきあっきーが覚醒したとき、風に地に炎っていう、あの場に誰も術者がいなかった筈の自然系統の術が発動した。
つまり、こっちゃんの言葉の意味をそのまま素直に解釈すれば。
自然系統全ての術を、あっきーは使えるってこと?」
一瞬、部屋の中が静まり返る。
その静寂を破り、琴美はぱらぱらと手を叩いた。乾いた音が部屋に響く。
「ご名答、ですよ。
杏季さん、すなわち古属性の人間が覚醒したらば。
全ての自然界に属する事象、つまり炎や水などの自然系統に属するもの全てを『召喚』し操ることが出来る」
「はあぁぁぁっ!?」
ワンテンポ遅れ、またしても彼女たちは叫んだ。
杏季はまるで人ごとのように、呆けて目を瞬かせる。
「なにそれすごい」
「すごいんですよ。……ですから私がいるんです。古を守る為の、護衛者が」
琴美は不安気にため息をついた。
これまでのことを思い返して、杏季は今更ながら苦笑いする。まだ無自覚な当人からしてみても、それはあまりにとんでもないことだと思えた。
琴美は「今まで散々はぐらかしてきましたけど」と、申し訳なさそうな面持ちで杏季に告げる。
「護衛者が護衛をするのは『古』属性の人間。
それも、覚醒する可能性がある人物です。
覚醒の可能性をどうやって知っているかは、機関独自の調査によるものなのでお教えすることが出来ないのですけれど。
『ヒトの能力』に関するもの以外、全てを古が
自己防衛本能が働くのもその為です。自然系統のものにとって古は、自分そのものを内包する存在。故に自然系統の術では古に敵わない、手出しできない。
敵意がないと判断されるほんの戯れの術なら古にも有効ですが、危害が及ぶ程の術は通用せず無効化される。その辺りは葵さんが経験済みでしょう。
しかしながら人為系統は対等に並び立つ別種の存在であるため、古に攻撃を加えられる。
これが自己防衛本能と、人為系統が古に攻撃できる理由ですよ」
もはや何がなんだか、と潤が頭をかいた。状況をおもんばかってか、普段よりは幾分温かい眼差しで潤を眺めながら、琴美は補足する。
「因みに少し話が逸れますけど。
何故、あの時に杏季さんは理術性疾患を発症したのだと思いますか?」
目線を向けられた潤は怪訝に眉をひそめた。
「へ? そりゃ、疾患が発症したってことは理術が逆流し……うん?」
「いや、……確かにそうだ」
言おうとして、しかし何かが引っかかり首を傾げた潤に、横から京也が口を挟む。
「理術性疾患は、知っての通り理術の逆流で発症する。要するに自分の攻撃が自分に当たった時にだけどさ。
けどあの時、逆流は起こってなかったはずだ。杏季ちゃんの術は本人に触れるどころか、随分離れたところで発動してた。
僕は逆流以外で発症したことなんかないんだけど、月谷、お前はどうだ」
「私だってそうだよ。自分の呼び出した水がかかったときだけだ。普通に使ってるだけじゃ、疾患は発症しない」
「……私も、そんなこと今までなかったよ。六年生の時以来、ずっとなったことなんかなかったから分かんないけど」
潤と杏季も口を揃えて否定した。
一斉に琴美を見遣れば、彼女はあっさりとその答えを示す。
「それもそうでしょう。一般には知られていないんですが、理術性疾患というのは理術の逆流以外に、強すぎる術を使用した場合にも発症するんですよ」
「強すぎる理術?」
「ええ。具体的には開眼よりも上、覚醒段階の術です。だから知られていないんですよ」
だって覚醒という概念を知らないんですから、と琴美は何てことないように言った。しかし杏季は、やはり疑問符を浮かべたまま彼女に尋ねる。
「けど私、覚醒した段階の術、いっぱい使ってたよね? 強すぎる術が駄目なんだったら、そもそも最初に使った時点で発症しちゃうんじゃないのかな」
琴美は杏季の髪の毛を見つめた。そこから目線を反らさぬままで、彼女はぽつりと杏季に尋ね返す。
「杏季さんが髪を結んでいたゴムが、あの時にタイミングよく切れたのを覚えていますか」
「あっ! うん、そうなの。幼馴染から貰った大事なものなのに、切れちゃって」
哀しそうな声色で言い、杏季はポケットの中から切れた髪ゴムを取り出した。今の杏季の髪は、別のヘアゴムでいつものツインテールに結わえられている。
琴美は杏季の手の中にあるヘアゴムへじっと目線を落とす。花の形をしたピンクの飾りと白い球の石とをあしらったそのヘアゴムは、大抵いつも杏季が身につけているお気に入りのものであった。戦いの時についたのか、白い球には亀裂が走っている。
「実を言えばこの髪飾りですね。
「え?」
耳を疑い、杏季は目を凝らしてそれを見つめた。
「分からないのも無理はありません。付いている白い飾りそのものが抑制具です。飾りとして不自然のないように加工して取り付けたようです。
これがあったから、杏季さんはしばらく術を使用できたんですよ。負荷に耐え切れず切れて、身体から離れてしまうまでは」
「……あぁ」
潤が独り言のように声を漏らした。聞きつけた京也がそれを拾う。
「どうしたんだ、月谷」
「あ、いやさ。大したことじゃないんだけど」
潤は手をひらひらと振りながら、どこか合点がいったような笑みを浮かべた。
「結構、私はお遊びで理術を使っちゃうし、その所為で逆流することも多いんだけど、たまぁーに逆流しても疾患が発症しないことがあったんだ。思えばそういう時は、あっきーが近くにいた時だったなぁって。
ジュールをしたあっきーが近くにいたから発症しなかったのかって思ってさ」
「……なるほど」
京也は納得して頷いた。聖精晶石と同様に、本人のみならず近くの人間にも多少の影響を及ぼすのだろう。
潤と京也とが話している隙に、琴美は杏季から髪ゴムを受け取る。それをしばらく調べてから、彼女は分かりやすく顔をしかめた。
「そして話は変わるんですが。……腹立たしいことにですねぇ」
はっきりと苛立ちを交えて彼女は言い放つ。
「ジュールのみならず……これには、聖精晶石が付けてありやがるんですよ。こっちは急ごしらえで仕込んだもののようですが」
言いながら琴美は、花飾りの裏に巧妙に隠され貼り付けてあったものを引っぺがした。ごく小さな黒い石の粒である。その小ささの為、よくよく見なければ気付きはしないだろう。
潤は、琴美と春とを見比べながら尋ねる。
「聖精晶石……って、はったんが飲み込んだやつ?」
「ええ。珍しい物質ではありますが、世界に一つという物でもないですからね。
補助装置を持っていないと知りながらあいつらが攻撃してきたのはコレが仕込んであったからですよ。聖精晶石は、覚醒段階にまで促す作用がありますから」
杏季はビー達の本拠地であるビルへ連れ去られた時のことを思い返した。あの時、杏季が眠っている時にでも密かに取り付けたのだろう。
厳重に聖精晶石を仕舞い込んでから、にわかに居住まいを正すと、コップをテーブルにかたりと置いた。
「さて。一通り、皆さんの知る範囲での事象をご説明したところで。
――今から、突拍子もないことを言うので信じてください」
突然言われ、彼女らは戸惑う。
構わずに、琴美は口を開いた。
「私たちの住むこの世界。そことごく近い場所に、また別の世界が存在します。
いわゆる、異世界」
「……へ?」
理解できないでいる面々を置き去りに、琴美は言い放つ。
「直接に干渉することはほとんどありません。
が、あまりに近しく、隣り合うように寄り添って存在している為、互いに影響を受け合ってしまった世界。
理術が存在するのも、杏季さんが狙われるのも、そして葵さんのお兄さんの事件も、全てはそこから始まっています」
一同はしんと静まり返った。
これまでの話とて、彼らからすれば常識を覆される突拍子もないものばかりだったのだ。だが今告げられた事実は、それを更に上回っていた。
春は恐る恐る口を開く。
「こっちゃんが言うからには……嘘じゃないんだろうなとは思うけど。
ただそれにしても、……訳が分んない話だよ」
「そうでしょうね。ですが残念なことに、この馬鹿げた
皆を見回しながら琴美は杖を担ぎなおす。先端の飾りが揺れ、しゃなりと澄んだ音が鳴った。
「理術とは元々、向こうの世界に存在するものです。
しかしなまじ世界と世界の距離が近かった為に影響を受け、こちらの世界でも理術を使うことが出来るようになっている。
この世界で理術の存在と扱いがおざなりなのは、その所為です。理術がこの世界のものでなく、私たちが本質的に使いこなせるものではないから。
だから誰もが使えながらほとんど有効活用されない。今までの歴史でも記録がない。科学技術の発達したこちら世界において、理術は異端なんですよ。
……ああ、難しいことはこの際抜きにしましょう。
要するに『理術は本当は向こうの世界のもの』で、だから『理術が中途半端に存在している』。そういうことです」
琴美は深く息を吐き出してから、ただ淡々と話し続ける。
「そして一つ。ちょっとした問題があります。
それが先ほどお話しした『覚醒した古』。こちらの世界でのそれは、ある意味では正統で、ある意味では異端な存在なんです。
先ほど私は向こうとこちらが直接関わることはないと言いました。ですが古属性には、世界間での干渉をも可能にする力がある。
制御装置があるのは、覚醒した古が世界に干渉をすることを防ぐ為なんです。
これら特殊な力があるから、杏季さんは狙われているんですよ」
杏季の様子も含め、周りの反応は気に留めない。もっとも他の者も、あまりに話が突飛で、上手く反応することすらできずにいた。
少しだけ固い口調を緩め、琴美は指を立てながら告げる。
「古の能力を段階ごとにまとめるとですね。
開眼前の古は、この世界に存在する生き物しか召喚できない。
しかし開眼した古は、『精度が高く』かつ『世界を超えた召喚を行うことが出来る』。つまり開眼した古は、異世界のものをこちらに召喚することができるんです。ゲームの中で使われるようなものと、ほぼ同義の召喚を。
そして覚醒した古は、ヒト関連を除き『全ての事象を召喚できる』。加えて、『世界に干渉することができる』」
数日前、杏季がビーから逃げていた時に、カラスの直彦を呼び出していたことを不意に思い出し、奈由は声をあげた。
「そうか。よく見てたから特に気にしてなかったけど。開眼前だったら、自分のごく近くにいる生き物を無作為に召喚することしかできいないはず。
ビーのに追われてた時に、伝書鳩みたく役割を果たせるほどあっきーに懐いてるカラスを、特定の個体をピンポイントで呼び出すことなんかできるはずがない……!」
「そういうことです。普通に考えれば、出来る筈がない。
ですから既にあの時点で、杏季さんは開眼していたと言えるんですよ」
ここまで話してからようやく琴美は一旦、口を
「それから。私たちのいるこの世界と、本来の理術が生きる異世界。この二つの世界の間には、『世界の裂け目』と呼ばれる場所が存在します。
裂け目は、世界と世界とを繋ぐ隙間か
ですが稀に、この裂け目への入り口、扉が開いてしまうことがあります。
裂け目と繋がりやすくなっている場所、というのがありまして。そこへ何らかの原因により理術のエネルギーが加わりますと、裂け目へ繋がる扉が開いてしまうことがあります。
しばらくすると扉は閉まり元の状態に戻りますが、収まるまでの間、しばらくは裂け目へと引き込む強い力が働く。
そしてこの引力により、不運にもその場に居合わせた人間は扉に吸い込まれ、裂け目に引きずり込まれることがある。
……発生する行方不明事件の何割かは、この扉の事故が原因だと言われています」
「……それは、まさか」
葵は思わず息を止め、目を見開いた。
彼の言葉に頷き、琴美は肯定する。
「そう。葵さんのお兄さんは、おそらく扉から裂け目へ投げ出された。
この現象は、裂け目の存在が機密であるので、公にされていません。なので扉の事故で消えた人間は、適当な理由を付け行方不明として処理されます。
そしてこの扉の事故に居合わせて無事だった人間は、総じて『被害者は白い空間に引きずり込まれた』との証言をしている。この点からも、お兄さんの件と一致します。
葵さんのお兄さんが消えた現象、それはほぼ間違いなくこの扉の事故に因るものでしょう。……事故か否かは別として、ですが」
葵は唇を噛んだ。
彼女から提示されたのは突拍子もない真実。あまりに荒唐無稽な話の延長線上である。
しかし夢物語のような内容ではあったが、琴美の話には葵の見たことへ一定の説明を付けている。彼女の説明をまるごと信じるのなら、あの時に事故と下された結論よりはまだ納得がいく。
ふと葵は底知れぬ虚脱感を覚えた。ひっそりと自分の手首をもう片方の手で強く握り締める。気を抜けば、どうにも意識が遠のいてしまいそうな気がした。
黙り込んだ葵を一瞥してから、琴美は静かにまた口を開く。
「話は戻りますが、最後に。……世界への干渉について。
一般人の場合、裂け目に飲まれると……基本、そのままそこを漂い続けます。
しかし覚醒した古は、裂け目を自在に動き回ることが出来る。そして裂け目からはこちらの世界を概観することができ、いわば『神の視点』から世界と対峙することが可能である。そこから世界の仕組みにまで手を加えることすら可能である、と言われています。
けれども。ここまでの話は流石に私もどこまで本当なのか分かりませんけどね――」
そう締めくくり、琴美は長い説明を終えた。
誰も何も喋らない。室内は、ただ沈黙が支配した。
やがて数秒にも数分にも感じられる時間が過ぎたのち、ぼそりと口を開いたのは京也である。
「……信じるしか、ないんだろうな」
「信じるも信じないも皆さんの自由です。お願いするのは、さっきの盟約だけ。私からそれを皆さんに強制することはできません」
琴美は弱々しく微笑んだ。
が、真面目な面持ちで潤が右手の拳を左手に叩きつける。
「確かにとんでもねー規模の話だけどさ。
こっちゃんの言うことを信じない理由がないだろ。
それに、世界がなんだろうが、あっきーがなんだろうが、やることは別に変わらない。あいつらとのケリをつけるだけだ」
静かながら力のある潤の言葉に、春は思わず笑みをこぼす。
「そーだね。背景に御大層な事情があろうと、結論は変わらない」
「術をかけてまで壮大にでっち上げる理由も、全部を信じた上で方向性を変える理由もないしね」
言いながら、奈由は隣の杏季をぐりぐりと撫でた。
杏季は黙ったまま、けれども少しだけ表情を緩めて静かに頷いた。
京也は腕を組み、無言で壁にもたれた。しばらくそうして考え込んでいたが、不意に鳴り響いた携帯電話の着信に、現実へ引き戻される。
「……来たな」
ディスプレイに表示された文字を見て、思わず京也は口角を上げる。
画面に表示されているのは、重々見覚えのある名前。そしてこの場にいる全員が嫌というほど耳にし口にしている名前。
それは、ビーからの着信だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます