第28話side-A リトルモブ、魂の座
今回は第28話side-B 布団ダイバーと全く同じ時間軸で繰り広げられる主人公視点のお話です!
こちらを見れば前回出た主人公の行動やセリフの意味が理解しやすくなると思います!
言うなら前回がサイドBで今回はサイドA。
ぜひ前回のお話と比較しながらお読みください!!!
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――病室の扉がバンっと勢いよく開く音がした。
「兄やん無事か! いつもニコニコ兄やんの隣にそびえ立つキングな妹が治しに来たぞい! さあ悪いところは一体どこだ⁉」
「ぞいちゃん待って! トンカチとノコギリじゃ人間は治せないよ! それに見る人が見たら通報されちゃうかもしれないから、今すぐしまいなさい! あっ、ぞいちゃんのお兄さんお久しぶりです」
ヒカリちゃんがペコリと頭をさげる。的確なツッコミといい、相変わらずできた子だ。
俺は言葉にはせずにニッコリと笑みを返す。
……つうか今それどころじゃないんだよなぁ。
俺は悟られないように、そっと布団の中に目を向ける。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
布団の中では、金髪のツインテールが息を荒げて俺を抱きしめている。
……ほんと、どうしてこうなった。
つうか何でこいつは布団の中に入ったんだよ。
たしかに入る前もヤバかったけど、この状況はもっとヤバいだろ。
慌てて潜り込んだせいか、所々はだけてるし、きめ細かな肌から伝わる体温や汗、さらに人目に隠れてハーフの美少女に抱きつかれているというエロゲとかでありそうなシチュエーションが、思春期男子のいたいけな
………とどのつまり、俺の股間に所属しているリトルモブが目覚めそうなのである。
現在、リトルモブの覚醒度は70%ってところ。
どうやら三角に気づかれていないのが不幸中の幸いだが、こんな状況を妹とヒカリちゃんに見られたりでもしたら、それこそ一生軽蔑されかねない。それはこのツンデレ娘も同じことだろう。
よし、ここは平静を取り繕ってこの場を何とかやり過ごそう。
そして、三角が気づく前に何としてもリトルモブを鎮めなければ!
決意したところで、妹がカンフーのような構えをとる。
「兄やん兄やん、とりあえず具合が悪いのなら頭を叩いとくか? 大抵のものは叩けば治るって、から揚げ屋のおっちゃんが言ってたぞい!」
「ぞいちゃん、叩いて治るというのはテレビとかの家電のことだろうし、そんな眉唾物の民間療法を実のお兄さんに試しちゃダメだよ。それに人間を叩いて出るものは、涙とお金とホコリだけなんだから。あっ、お兄さん少しコップをお借りしますね」
人間を叩いて出るものは、涙とお金とホコリだけって……どんな人生観をしてるんだこの子は。
でもまあ平然と怖いことを言うその姿勢は、なんとなく照山さんを彷彿とさせる。
顔もよく見たら似てるかもな……いやいや、良い子の代表みたいなヒカリちゃんを、あんな悪魔(ハゲ)と並べるだけ失礼ってもんだ。
我ながらひどいことを考えていると、コポポポポポポと水を注ぐ音が聞こえてきた。
おっ、この香りはダージリンか。
俺の好きな紅茶を持ってくるとは、さすができた子だ。
それに比べてうちの子は……なんで呑気にトンカチとノコギリでお手玉してんだよ。いやまあ凄いっちゃ凄いけど、完全にお見舞いのことを忘れてるよなこいつ。
思わずジト目になっていると、カチャカチャと陶器の触れ合う音がして、どうぞと言ってヒカリちゃんが紅茶を持ってきてくれた。
よし。一旦これを飲んで落ち着こう。世界三大紅茶の一つであり、紅茶の王様とも呼ばれるダージリンでリトルモブを鎮めるとしよう。
最低な理由で俺が紅茶を口に含んだ瞬間、
「あれ? そういえば、今日の兄やんはやけに大きい気がするな? つうかなんでそんなに布団が膨らんでいるんだぞい?」
ブーッと勢いよく紅茶を噴き出してしまった。
クソッ、普段はアホな妹のクセに、こんな時に限って勘のいいやつだ。
噴いた紅茶でシミになっていることもあり、ぽかんとした様子で俺の股間に注目が集まっている。
冷静に考えればこれだけ布団が膨らんでいるのは不自然だな。
まあ実際に兄やんのアレも膨らんでいるのだが。
いやいや、くだらない下ネタを言ってる場合じゃねえ。早くこの状況をどうにかしなければ!
頭をフル回転させていると、布団の中でゴソゴソと何かが動くのを感じた。
見ると俺の足元の方から外へ出ようとしている三角の姿。
いかん! そのコースで布団の外へ出られると、三角の顔が俺の股間の上を通過してリトルモブの存在に気づかれてしまう! いや下手すれば顔面に直撃するコース!
俺は慌てて三角の頭を手で押さえる!
「いいところに気づいたな妹よ。いやな、兄やんはここでたくさんのナースを見ているうちに、なんとなくムラムラしてきたのだ。そんな時に思春期の男子がする事といえば、中学生になったお前なら言わずとも分かるだろう?」
……
これじゃただの変態じゃないか……ムラムラしてるのは間違いじゃないんだけど。
俺の言葉を聞いた二人は青ざめた顔で、
「……いや、全く分からないし実の兄の性の事情なんて分かりたくもなかったぞい。兄やん、いくら妹でもさすがにドン引きだぞい」
「最低ですねお兄さん」
……はい、どこからどう見ても最低な男です。
こうして俺の黒歴史にまた1ページ刻んだところで、
「ぞいちゃん、邪魔しちゃいけないからそろそろ帰りましょうか?」
「そうだなー。ビッグダディならぬビッグブラザーとなった兄やんを、そっとしておくのもある意味妹の役目なんだぞい」
ベッドの端に置いていた荷物を妹が持ちあげ、ヒカリちゃんと一緒に入口の方へと歩いていく。
よっしゃ! 過程はあれだったが結果オーライだぜ!
思わず今年一番のガッツポーズを決めそうになっていると。
「……あれ? 今気づいたけど、なんで妹がよく行くハンバーガー屋さんの袋の隣に、ミスミンのカバンが置いてあるんだ? この鳩のキーホルダーはミスミンのもので間違いないぞい」
…………あのバカァ! 分かりやすい証拠を残してどうすんだよォ!
使えない直角三角形なんて誰も買わないぞオイ!
追い詰められた犯人のように冷や汗をだらだらと流す俺。
やばい、マジでどうしよう。このままでは三角がこの部屋にいることがバレてしまう。
つうか何でこいつはこんな状況なのに、もじもじとこすり付けるように俺の体に引っ付いてくるんだよ。
おかげで俺のリトルモブが、80%まで成長したじゃないか。
学園のアイドル的存在であり、胸以外スタイルのいい三角の体を全身で感じることができるなんて本来最高のことなんだが、今この状況に限って言えば最悪である。
80%を超えたリトルモブが、下着を突き破らんばかりにパンパンに張ってきたせいで、もはや身動き一つ取れない。少しでも動いてしまえば、熱くたぎったリトルモブが三角の腰に当たってしまう。
いかん、もうなんか逆にヤバすぎて変な笑いが出てきた。
……よし、こうなったらもう開き直ってやるぜ。
男が発情して何が悪い。バレてもその時はその時だろ。
普段見せることのない自分の男らしさに若干驚きながらも、俺は余裕の表情で口を開く。
「ふふふ、それはな妹よ。貧乳という業を背負ってしまった悲しきツンデレ娘が忘れていったものなのだ。ほら、兄やんはこんな状態だから、よければお前が代わりに返しといてくれないか?」
「おお! やっぱりこれはミスミンのだったのか! そういえばここに来る前ミスミンから連絡があって、兄やんの病室は何号室かスマホで尋ねてきたんだぞい。まったく、カバンを忘れるなんてミスミンは優しいけど、おっちょこちょいな奴だなあ。……わかった! あとはこの妹に任せるんだぞい!」
イエスイエスイエス! 三角と妹が仲良くて良かったぁ!
ホッとするのもつかの間、
「ッ⁉ いだだだだっ!」
なぜか三角に背中を思いっきりつねられてしまう。
「兄やん急にどうした⁉」
「大丈夫ですか⁉ もしかして具合が悪いんですか⁉」
痛みのあまり答えることができない。
こ、この野郎っ!人が助けたっていうのに何て事をしやがる!
ツインテールを引っ張って引きずり出したいところだが、残念ながら今それどころじゃない。
あ、あまりの痛みに腰が浮きそうになってリトルモブが三角の体に当たりそうだ!
つうか何でこいつこんなに怒ってるんだよ⁉ ――あっ! もしかして俺が貧乳のことを言ったからか⁉︎
くそ! 俺が睨んでもやめる気配は一向になさそうだ……でも何とかしなければ!
こ、この状況を打破する一言と言えば……っ!
俺は焼けるような痛みに堪えながら、半ば涙目でヒカリちゃんに言う。
「だ、大丈夫だよヒカリちゃん。……ひとつ聞きたいことがあるんだけど、おっぱいって大きさじゃないよな?」
「中学生に何てことを聞いてるんですか⁉ その質問自体が全然大丈夫じゃありませんよ!』」
だよねーっ! 知ってる知ってる!
ヒカリちゃんの俺に対する評価はガタ落ちだろうな。
けどこれで、貧乳は悪いものじゃないってことが伝わったはず……っ!
自分を貶めた甲斐もあってか、三角の手が背中から腰に移り、ようやく痛みから解放された。
そのことにホッと胸をなでおろしていると
ブブブブ~ブイブイン。ブブブブ~ブイブイン。
ぬおおおおおおおおお⁉︎
今度は俺の股間のあたりから、突然バイブレーションが鳴り始めた。
俺のスマホはマナーにしてないから、恐らく三角が持っているスマホが振動しているのだろう。
振動音が部屋に鳴り響いて、思いっきり音が漏れている。
その状況も問題だが、一番問題なのはスマホが振動している場所である。
そう、それはリトルモブにピンポイントに振動が伝わる場所だった。
やばいやばいやばいやばい!!! 立っちゃう! 俺のクララが立っちゃう!!!
全身が女の子の体に包まれ、ダイレクトに振動を与えられているせいで気持ちがいい。
いけない。これは非常にいけない。
俺の頭の中に真っ赤なパトランプが点灯する。
このままだと100%どころか、限界を超えたリトルモブからケチャップがドバドバと出てしまうかもしれない。
いやいやいやいや! それだけは本当に勘弁してください! 社会的に死んじゃうから! 妹の前とか本当に死にたくなっちゃうから!
つうか、誰だよこんな時に電話をかけてくる奴は!
『あれれ? ミスミンのやつ、いくらかけても電話に出ないぞい』
妹、お前かーーーーッ!!!
そうこうしているうちにリトルモブが90%に達してしまう。
もうフル勃起まで秒読み状態。
だけど、ここまで来てバレるわけにもいかない。
そうだ俺は諦めない! 絶対にこの苦難を乗り切ってみせる!
そのためにはまず電話をやめさせることだ!
「そ、そうなのか! それなら仕方ないな! もしかするとあいつ今、忙しいかもしれないから、その電話は今すぐ切った方がいいんじゃないかな?」
わざとらしい言葉を吐いてる途中で、初めてポルノシーンを見る子供のように指の隙間からこちらを覗いている、ヒカリちゃんの存在に気づいた。
「……って、どうしたヒカリちゃん? そんな恥ずかしそうな顔をして」
これにヒカリちゃんは震える手で俺の股間を指さし、
「あ、あの……その…………非常に言いにくいんですが…………な、なんでお兄さんの股間のあたりからブーブー
この子、もしかしてスマホをバイブと勘違いしてるのかっ⁉
いやいやいやいや! それは無いから! つうかなんて勘違いをしてるんだよこの中学生は!
今すぐ誤解を解きたいけど、『バイブじゃないよ』なんてとてもじゃないが言葉にできない! いやできるわけないだろうが!
落ち着け! 落ち着くんだ俺! ここの選択肢を間違えると、人生を間違えることになる!
そうだ、何も慌てることは無い! 普通に話せば分かるはず!
俺は感情とリトルモブの両方を押さえながら、必死に口を開く。
「あ、ああこれかー! ヒカリちゃんこれはね、……そ、そう! 俺のスマホが鳴ってるんだよ!」
「へっ? 兄やんのスマホは机の上に置いてあるぞい?」
妹は何言ってんだこいつといった感じで、机の上に置いてあるスマホを指さす。
だからなんで今日に限って勘がいいんだよお前はァァァァ!!!
「そ、そうだったな……えっと……これはだな……」
思わず言葉に詰まってしまう。
どうする⁉ 何かこの現状を打破するものはないのか⁉
……もの?
「そ、そうだ!」
ひらめいた俺は間髪入れずにズボッと勢いよく布団の中に手を入れた。
そして、スマホを取り出すため三角の身体をまさぐりはじめる。
変に言葉で説明しようとするからダメなんだ。実際に物を見せればいい。
で、どうして三角のスマホがあるのかってツッコまれたら、また忘れたってことにすればいいだけの話なんだけど……くそッ! どこだ! 一体どこにスマホがあるんだ!
そうだ! 三角に取り出してもらえば話は早いんじゃないか!
それを伝えるため布団の中をのぞいてみると、
「……ッ! ぁんっ……くぅ……そ、そこはらめェっ……!」
見れば、狭苦しい布団の中でエロティックな具合になった三角が息を荒げていた。
こんな時に何を感じとるんだこいつはァァァァァァッ!!!
くそッ! マジで使えない直角三角形だ! こっちはもう下着がパンパンでリトルどころかビッグモブになりかけてるっていうのによォ! このままじゃマジでケチャップが出そうだ! こうなったらもう俺がやるしかない!
なりふり構わず三角の身体をまさぐってみると、三角のスカートのポケットからスマホを取り出すことに成功した。
「おお、あったあった! さっきからこれが鳴っていたんだな! これは多分三角が忘れていったスマホだぜきっと!」
「なんと! そうだったのか! カバンとスマホを忘れるなんて……ミスミンの奴、今すぐ会いに行って忘れん坊将軍と呼んでやらねば! ほら、ヒカリンも一緒に行くぞい!」
「……でもなんで知り合いのスマホがそんな場所にあったのかなぁ」
納得していない様子のヒカリちゃんの襟を引っぱる形で妹が出ていき、バタンと勢いよく病室の扉が閉められた。
シーンと静寂の時が訪れる。
難所は超えたようだが、これで終わりじゃない。
俺は静かに目を閉じ、リトルモブを鎮める儀式に入る。
落ち着け…………心を平静にするんだ……『素数』を数えて落ち着くんだ……。
2……3……5……7……11…………
――よし。ビッグモブがリトルモブになった。
俺は額にかいた汗を拭う。
「……ふう~~~。助かった助かった。三角、もういいぞ。出て来いよ」
俺が言うと、三角が布団の中から出てくる。
「いやあ、危ないところだったなぁ。ひやひやしたぜ。でもこれで大丈夫だ。お前のプライドはちゃんと守られたぞ」
共に苦難を乗り越えた仲間と感動を分かち合おうと思っていたのだが、
「プライドなんてもうズタズタよこの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!!」
俺の頬に思いっきりビンタを浴びせてから、三角は病室を後にしていった。
なんでこうなった……。
呆然と痛む頬をさすっていると、
コンコン。
病室に響くノック音。
……ああもう今度はいったい誰だよ!
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あとがき
どうも、法律を順守する変態紳士こと久永道也です。
今回は前回の三角サイドと全く同じ時間軸での話ですが、かなりエロに寄っている気がします。
そこらへんは男と女の考え方の違いを意識した結果でしょうか。
ちなみに作中には書かれていませんが、今回の話で三角が履いている下着の色は水色の縞パンです。
ここだけは譲れないので、みなさんそのつもりでお願いします。
あと、自分はアニメのフィギュアをいくつか持っているのですが、白の下着を履いているものが多い気がしますね。
理由を小一時間ほど考えた結果、『色を塗る必要がないから楽なんじゃね?』という理由に落ち着きました。
もし違ったらごめんなさい。
その時は、作者が謝っているところを想像してください(笑)
ちなみになぜフィギュアの話をしたかといえば、実は今回の話が、『前回のセリフがそのまま使えるから楽なんじゃね?』という理由で書かれたからです。
……はい、正直楽でした(笑)
でも個人的には楽というよりも下ネタ直球勝負って感じでかなり楽しく書けました。
人生楽ありゃ苦もあるさ。
すでにハゲという苦を背負った作者からでした。
……ちなみに次話で病院シリーズは終わりです。
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