第17.5話 SS(サイドストーリー) ~妹のお買い物~
ぞい。
妹だぞい。
家で待ち構えていた兄やんの彼女?さんに命令されて、近所のスーパーにタコ焼きを買いに来たんだぞい。
でもいざ来てみたものの、少し困ってるんだぞい。
恐る恐る財布の中身をのぞく。
……やっぱり何度見ても、妹の財布の中には貰った百円含めて666円しか入ってないんだぞい。
うぅ、今月はキングサーモンを買いすぎたせいで金欠状態なのにどうしよう。これじゃタコ焼きと一緒にキングサーモンが買えないぞい。
キングと名が付くだけに、キングサーモンはそこそこの値段がするのだ。
……タコ焼きだけを買えばいいって話かもしれないけれど、キングである妹が同じキングの名を持つ食材を見過ごすわけにはいかないんだぞい。これは前世から決められた運命なんだぞい。
ていうか、どう考えても百円しか渡さないあの人が悪いんだぞい。どこの百均でもタコ焼きは売ってないつーの。
あの人、頭おかしいんじゃないか?
……でも、百円じゃ買えませんでしたと正直に言えば、タコ焼きではなく根性焼きを入れられそうだぞい。タコ焼きで一生ものの傷を付けられそうだぞい。
……ほんと今日は最悪だ。延髄切りで殴られるわ、先生たちや高飛車金髪ツインテールに土下座する兄やんの姿を見る羽目になるわ。……なんで妹はこんな目に遭ってるんだろうか。
とりあえず、兄やんのせいにしておこう。こうしてパシらされているのも、兄やんがいやらしい写真を撮っていたせいだからな。うん、全て兄やんが悪いぞい!
……でも、たとえ兄やんがいやらしい写真を撮っていないとしても、恐らく妹は買い物に行ってたぞい。
それくらい、妹はあの人が苦手だぞい。できるなら二度と会いたくない。
江頭と同じくらい嫌いかもしれない。……まあハゲてる分、江頭の方が嫌いだけど。
でもあの人はなんか一緒にいるだけで寒気がして、本能的に逆らっちゃいけない気がする。
例えるなら、ゴキブリみたいな存在。
……まともに話したことがない相手をゴキブリ扱いするのは、さすがに気が引けるのだけど。
でも、本当にあの人は誰なのだろうか。
可愛い妹がいるとか言っていたが、キング妹を超える存在などいるはずがないぞい。
たとえいたとしても、そいつはきっと準キング妹だぞい。
キング妹を脅かす存在などあってはならない。
……もし本当にいるとするならば、探し出してこの世から
「――ぞいちゃーん! こんなところで何してるのー?」
考え事をしながら総菜コーナーをウロウロしてたら、同級生であり親友のヒカリンに会ったぞい。
ふむ、ふりふりの服とボーダーのストッキング。なかなかロリ可愛いぞい。
ピーコのファッションチェック並みに厳しいとされる妹の目にかなうとはなかなかやるぞい。褒めてやろう。
まあそれでも、キング妹にはかなわないのだけれど。
フフンと鼻高々に胸を張る。
「ヒカリン、見れば分かるぞい。総菜コーナーにいるということは、食物連鎖に散っていったたくさんの食材たちに、敬意の念と懺悔をささげているところだぞい!」
「全然分からないよ! そんなことしてるの世界でぞいちゃんだけだと思うよ!」
「ふん、世界どころか男も知らないバージンが。軽々しく妹を語るんじゃない!」
「世界も男も知らないけれど、惣菜と全く関係ないってことだけはわかるよ!!!」
……まったくヒカリンは相変わらず頭が固いんだぞい。
一応ヒカリンも妹キャラだけど、キング妹には程遠い。準キング妹すら危うい、そこら辺に転がっている石ころレベルだぞい。
いや、そもそもヒカリンごときが準キング妹のはずがないか。
親友を『ごとき』呼ばわりするのには少し抵抗があるけれど、それほどキング妹の壁は高いってことで許してほしいぞい。
とりあえずイシツブテみたいな存在であるヒカリンに向けて、妹は手を差し出すぞい。
「ちょうどよかった。タコ焼きとキングサーモンを買うお金が足りないから、お金を貸してほしいぞい」
「全然ちょうどよくないよ! 私にとってはバッドタイミングだからそれ! そもそもなんでお金を持ってないのに買い物来たの⁉」
「それは、かくかくしかじかで…………――」
妹はここまでの経緯をヒカリンに話したんだぞい。
「――へえ。それじゃぞいちゃんは、またお兄さんの彼女……じゃなくて綺麗なお姉さんに会ったんだね」
「ぞい。会ったのは会ったけど、ひどい目に遭った気分だぞい」
「あはは。……でも、タコ焼きをピンポイントに買いに行かせるなんて、よっぽどタコ焼きが好きなんだろうね、その人。まるでうちのお姉ちゃんみたい」
「ぞい? ヒカリンのお姉ちゃんはタコ焼きが好きなのか?」
「うん。基本三食全てタコ焼きで、アイスピックやタコ焼き器の手入れを毎日欠かさないくらいに大好きだよ。たしか学校の食堂でも、ジャンボタコ焼きパンしか食べないとか言ってたなあ」
「ふーん。タコ焼きの化身みたいな人だね」
ていうかジャンボタコ焼きパンとは一体なんだろうか。がっぺ気になるぞい。
妹は会ったことはないけれど、品行方正なヒカリンのお姉ちゃんだから、きっと素敵な人に違いないぞい。
ついこの間まで学園の女王と呼ばれてたらしいし、ゴキブリ女とは大違いである。
そんな素敵なお姉ちゃんを持つヒカリンはがま口の財布を取り出すと、そこから薄っぺらい野口英世を差し出してきた。
「仕方ないなあ。今日はお金を貸してあげるけど、本当はしたくないんだからね、こんなこと。お金の切れ目は縁の切れ目っていうでしょ? ぞいちゃんとはずっと友だちでいたいと思っているんだから、そこをちゃんと理解してね」
「分かってるぞい。とりあえずトイチだけは勘弁してください!」
「全然わかってないから! 友達に土下座しないで! ここスーパーだからほんとやめて! 私は萬田銀次郎じゃないんだからね!!!」
おおっと、中学生でミナミの帝王を知ってるとは、さすが『ぞいピカコンビ』の頭脳担当。
じゃじゃ馬を操縦させたら世界一と言われるだけのことはあるぞい。
……あれ? 今気づいたけど、じゃじゃ馬ってもしや妹のことなのか?
いやいや、妹はじゃじゃ馬よりじゃじゃ丸の方が好きなんだぞい。
変な言いがかりに、にこにこぷんじゃなくて、おこおこぷんだぞい。
まあ、実際にじゃじゃ丸を操縦してるのは中の人なんだけど。
「――あれれ~。誰かと思ったら、妹ちゃんとヒカリちゃんば~い」
どこか優しさを感じられる声と甘ったるい香りに振り返ってみれば、お兄ちゃんの幼馴染である春風ちゃんがいた。
見れば、いきなり団子やシュークリームなどの甘いスイーツを買い物かごいっぱいに詰め込んでいる。
……相変わらずの甘党だな。しかし、今はそんなことはどうでもいいぞい!
「春風ちゃんだーっ! わーいわーい! とうっ!!!」
妹は飛び込むように春風ちゃんに抱き着いた。
そして、忠犬のように頭をごしごしと大きな胸に押し付ける。
「も~、相変わらず妹ちゃんは甘えん坊たいね~」
春風ちゃんは嫌がることはせずに優しくなでなでしてくれる。……あぁ、全てが癒される……ぽよんぽよん、ぽよんぽよん……もうこのおっぱいの感触といったら堪らない! 天国とはまさにこのことだぞい!
甘ったるい匂いも相成って、マシュマロに包まれたような気分になる。
……最近少し、兄やんに似てきたかもしれない。まあ兄妹だから仕方ないけど。
そんなわけで久しぶりの春風ちゃんおっぱいを堪能していると、ヒカリンがペコリと頭を下げてきた。
「春風さん、お久しぶりです。今日は一人なんですか?」
「そうば~い。お母さんとお父さんはジムに行っとるとよ~。ヒカリちゃん、元気にしとったね?」
「はい、おかげさまで。お姉ちゃんがいつもお世話になってます」
「相変わらずヒカリちゃんはしっかりしとるね~。照子ちゃんもよか妹さんば持って幸せもんばい」
「あれ? ヒカリンって、春風ちゃんと知り合いなの?」
「うん、お姉ちゃんと春風さんが同級生で友だちなんだよ」
へー、知らなかった。まあ春風ちゃんは優しいし、友達が多いのもうなずける。
田舎は狭いものだ。互いの知り合いを辿っていけば、すぐ友だちにたどり着く。
スーパーに知り合いが三人も集まるのがいい証拠だぞい。
「私は妹ちゃんとヒカリちゃんが仲良しなの知ってたよ~。たしか二人は、『ぞいピカコンビ』とか言われてるんでしょ? ここら辺じゃ有名ば~い」
「そ、そんな……私はぞいちゃんをフォローしてるだけで、特に何もしてませんから」
「そうだぞい! ヒカリンがしてるのは、お金を貸したり妹の代わりに謝るくらいのことだぞい!」
「それ完全に私が被害者だよね! まあ大体合ってるけど!」
「被害者じゃないぞい! ヒカリンは妹ができないことをしてくれる、頼れる親友だぞい!」
「あ、ありがとう……嘘でもそんなに言ってくれているなんてうれしいよ……」
もじもじしながら顔を赤らめるヒカリン。
相変わらずちょろいぞい。将来、悪い男に騙されそうで少し心配だぞい。
でも、嘘を言っているつもりはない。
できないことをヒカリンがしてくれるからこそ、妹はなんでもできるのだ。
するとここで、春風ちゃんが妹とヒカリンの肩に腕を回してきた。
「思った以上に二人は仲がよかつたいね~。うんうん、よかこつ、よかこつ。二人はそのまま仲良しでいなっせ~」
脇に挟む形で二人の頭を撫でてくる春風ちゃん。
あぁ……ほんと、この人は癒される。この人が兄やんだったらいいのに……。
よし。今度、春風ちゃんの両親にトレードを持ちかけてみよう。
そんなヒカリンを困らせるようなことを考えながら、妹の買い物は過ぎていったんだぞい……。
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