第9話 ハゲと金髪

「あら~? あらあら~? そこにいるのはハゲの照山さんじゃないの⁉」


 人を馬鹿にした感じの声が場に響きわたり、皆が振り返るとそこには照山さんに負けずとも劣らないオーラを放つ金髪ツインテールの女子生徒がいた。……うわあ、よりにもよって直角三角形ちょっかくさんかっけいかよ。

 直角三角形こと三角みすみ・ドアフォード・リリィ。

 学園でも有数の美少女にしてイギリス人の父を持ち、町で一番の豪邸に住む正真正銘のお嬢様。

 容姿端麗、金髪碧眼と見た目は女優並みに美しいのだが、去年の準ミス京陵、成績は学年二位と、運動以外で常に照山さんの次点につける、いわゆるライバル的な存在だ。

 クラスは違えど何かと照山さんに張り合っている女なのだが殆ど相手にはされず、さらに三角という苗字と慎ましい胸から『直角三角形』と周りに呼ばれているせいで、照山さんに対してかなりの劣等感を持っている。胸だけに胸を張れない生活を送っている女なのだ。……おっぱいソムリエの俺としては、貧乳は貧乳なりの楽しみ方があるのだけどな。それを語るのは場違いなのでまた次の機会としとこうか。

 機会といえば、この状況は三角にとって日頃の恨みを晴らす絶好の機会ってわけだ。……逆恨みも甚だしい気はするけど。

 そんな今までになく嬉しそうな三角を前にして、照山さんはチッと露骨に舌打ちをしてから、わざとらしく笑みを浮かべた。

「……あら三角さん、なにか用かしら?」

「あ~らそっけないわね~。どうしたの? いつもの優雅で勝ち誇った態度はどこに行ったのかしら照山さん? ……いや、この場合、ハゲ山さんって呼んだ方がいいのかしら?」

「……さっきからわけのわからないことばかり言うのね? ハゲとはいったい誰のことを言ってるのかしら?」

「も・ち・ろ・ん、あなたのことよハゲ山さん。昨日バッチリとこの目で見ちゃったんだから、言い逃れは出来ないわよ」

 そう言うと三角はゴソゴソとポケットから数枚の写真を取り出すと、

「見なさい! これがこの女の正体よ!」

 勢いよく天にばらまいた!

 落ち葉のように舞い落ちる写真を観衆が手に取ると、みながみな驚きの表情をあげていった。

 写真には昨日、俺を追いまわす照山さんやゲロを吐く照山さんの姿などが写っていた。

 なるほど。よく見れば三角の後ろに新聞部の部長がいるし、どうやら新聞に写真を載せたのは三角っぽいな。つまり、この状況は仕組まれたってわけか。普段から派手なことが好きな三角らしいやり方ではあるけれど、こんな相手を貶めるようなやり方、好きじゃないな。

 俺の気持ちなど知りもせずに、三角はドヤ顔で照山さんめがけてビシッと指をさす。

「さあこれで言い訳は出来ないわよ! 観念しなさいハゲ山さん!」

 あふれだす感情を制御しきれないといった様子で笑う三角に対し、静かに聞いていた照山さんは、


「くく…くくくく…」


 不気味な笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る