第6話 夏野春風

 照山さんの秘密を知った、その翌日。

 いつもどおり登校していると、アホ毛が目立つ幼馴染に会った。

「けーちゃん、おはようば~い」

「おはよう春風はるかぜ。今日もアホ毛が絶好調だな」

「えへへ~。そうかなあ~」

 褒めちゃいないのに、ぴょこぴょこと嬉しそうにアホ毛を動かす春風。相変わらずこいつのアホ毛は生き物みたいだな……。

 俺がふあ~っと大きなあくびをすると、かがみこむようにして俺の顔を覗き込んでくる。

「けーちゃんけーちゃん、昨日は何ばしよったと~?」

「……漫画喫茶行ってた」

「相変わらずのインドアだねえ」

「うっせ。真のインドアは引きこもりのことを言うんだよ。そういうお前は何をしてたんだ?」

 まあ聞かずともわかるんだけど。

 適当に会話を返すと春風はふんわりと笑った。

「えへへ~。家でお菓子食べとった~」

「だと思ったよ。相変わらずのスイーツ女子だな、お前」

「だねえ。でも聞いて聞いて。昨日お母さんと作ったいきなり団子、めっちゃおいしかったとよ~。今度、けーちゃんと妹ちゃんにも作ってあげるね」

 よろしくって答えると、よ~し頑張るぞ~。と、拳を握ってやる気を出す春風。

 髪の毛といい雰囲気といい、全体的にふわふわっとしてるやつだ。

 夏野春風なつのはるかぜ。俺の幼馴染であり、季節感がはっきりしない名前を持つ天然系スイーツ女子。

 昔遊んでいた奴らでいまだにつるんでいるのはこいつだけ。まあ同じ学校に通って家が近所ということもあるから自然な流れかもしれない。つうか最近ばあちゃんがいないから、よくおすそ分けをしてもらっていて、もはや幼馴染というよりお母さん的な存在になりつつある。……そういえば父さんと母さん、元気にしてるかなあ。

 遠い場所にいる両親のことを思っていると、俺は周りからの視線にふと気づいた。なんだなんだ?

 あたりを見まわすと、学生はおろか道行くサラリーマン、主婦などの通行人がざわざわした様子でこちらを見ている。……どうしたんだろう? もしや、春風のことを見ているのか?

 隣で呑気に鼻歌を歌っている幼馴染に目を向ける。

 顔はおっとりかわいい系。ふわっとしている雰囲気とは裏腹に、制服から溢れんばかりの爆乳と安産型のおしりを持っている。……昔から大きかったけど、どこまで育つんだこれ?

 底が見えない可能性おっぱいに、おっぱいソムリエの俺はゴクリとつばをのむ。

 さすがスタイルだけなら照山さんを超えて学園一と言われる逸材。『女神の照山、実用性の春風』と比較されるだけのことはある。

 ――しかし、大きければいいってものじゃない。大きさはもちろん、形、張り、美しさ。それらすべてを吟味するのがおっぱいソムリエ。ここは絶対に譲れないところなのだ。

 ちょっと話がずれたけど、ちょっとどころかだいぶずれた気がするけれど、無理やり話を戻すと春風がここまで注目されたことは記憶にないってことだ。

 こいつは素材だけはいいのだが汗っかきで訛りがすごいし、時々周りがひくくらいの天然っぷりを見せてくることがある。そしてなにより、――体臭がすごい。

 俺は春風の足元を見る。……やはりな。蟻やカナブン、マイマイカブリなどの行列ができている。

 これは、春風の体臭に釣られてきた虫たち。

 いつも甘いものばかり食べている春風の体臭は、くさいのではなく甘ったるいのだ。

 例えるなら洋菓子屋さんに入ったときのにおい。なんとなく汗も甘そうだけど、さすがに幼馴染の汗を舐めようとは思わない。おっぱいを揉みたいとは何度も思ったことがあるのだが。

 まあ嫌なにおいじゃないし慣れればどうってことはないんだけど……つうか、いつもと特に変わった様子はないのに、なんで注目されているんだろう?


「――楽しそうね。私も混ぜてくれるかしら?」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 バッと後ろに振り向くと、キラキラと輝く光と共に見覚えのあるやつがいた。


「おはよう、モブ&ボッチ君」


 スターのようなまばゆいオーラを出しながら、野性の照山さんが現れた!

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