第5話 妹と照山さん
――玄関のドアがバンと乱暴に開く音がした。
『たっだいまー! 兄やん兄やん! お腹が減ったぞい! 可愛い妹は美味しいご飯をリクエストするぞい!』
ドア越しに聞きなれた声が聞こえてくる。どうやら小うるさい妹が帰ってきたようだ。
それを聞いた照山さんはスッと立ち上がり、ワンピースが入ったコンビニ袋からカツラを取り出し頭に装着する――長い黒髪がファサッと払われると、バラの香りが漂ってくる。
その姿はまさに優雅。普段見慣れた、学園の女王と呼ばれる照山さんである。
「それじゃ、私は帰るわね。頭のことを隠すのはもちろん、明日からはちゃんと意識して私と関わらないようにして頂戴。今日は何もなかったし、私とあなたは出会わなかった。いいわね? 少しでも私の頭を気にするそぶりなんか見せたりしたら、牛みたいに鼻の穴を増やしてやるんだから。よろしくお願い――」
唐突に言葉を詰まらせると、顎に手をやり考えるそぶりをみせた。
「……違うか。この場合、お願いじゃなくて命令だから……」
「だから?」
「……よろしく命令するわ」
そう言って俺の反応を確認することなく、照山さんは踵を返し、すたすたと玄関の方に歩いていった。
……ほんと上から目線な奴だ。
「いやいや、命令とか全然よろしくないぞこっちは」
俺が声をかけると、照山さんは勢いよく振り返ってくる。
「モブごときがこの私に口答えするなんて百年はや――」
『い』って言う、まさにそのタイミングだった。
照山さんが着ていたYシャツのボタンが耐えきれなくなり。
ボンッとおっきなおっぱいが顔を出したのは。
「「…………」」
ツーと鼻血が出てくる。
ブラで隠れてるとはいえ、ハリのあるおっぱいと可愛いおへそが見えている。
ミニスカに半脱ぎシャツとか最高。マジ最高。大事なことなので二回言いました。
もはやハゲとか関係ねえ。神々の
エベレストの雪をも溶かしそうな熱い視線を注いでいると、赤ら顔した照山さんがズカズカと近づいてきているのに気付いた。
「ちょっ! 待って! これは俺無実だろ!」
釈明もむなしく、バチンとビンタされて俺は吹っ飛ばされてしまった。
「に、兄やん、これは一体どういう状況なんだ⁉ なんであたしの服を着た女の人が立っているんだ⁉ あとなんで兄やんは顔にビンタのあとをつけて床に転がっているんだ⁉ もしかしてあたしヤバいタイミングで帰ってきちゃった感じなのか⁉」
「違う! 断じてやましいことはしていない!」
必死に弁解するも、リビングに入ってきた年頃の妹は恥ずかしそうに目を押さえながら指の隙間からこちらを見ている。完全に誤解されているな。でも正直、この状況は弁解の余地がない。服が乱れた女性と殴られて倒れている男性。状況だけ見ると、俺がやましいことをしようとして抵抗されたみたいだ。いやまあ、やましい目で見てはいたんだけど。
混乱する俺とは対照的に、照山さんは何事もなかったかのように胸元を隠しながらスッと妹の脇をすり抜けていく。
「お邪魔しました」
「……ひっ!」
なぜか妹が短い悲鳴を上げ、ぎょっとした表情を浮かべていた。どうしたんだろう?
考えている間に照山さんがロビーを出ていき、バタンと玄関のドアが閉まる音がした。
シーンとリビングに静寂が訪れる。
……ふう。ようやくいつもの日常が戻ってきた。まったく酷い目に遭ったぜ。
ひりつく頬をさすりながら妹の方に目をやると、何もされていないはずなのに幽霊を見たように顔を青ざめていた。……さっき照山さんに声をかけられたのが原因か?
「に、兄やん。あの人誰ぞい?」
「誰って俺のクラスメイトだけど……どうした? さっきすれ違った時に悲鳴をあげてたけど、もしかして何かされたのか?」
「い、いや何もされてない。ただ、妹はあの人とすれ違っただけでゾクッとしたぞい。こんなの、あのとき以来だ」
「あのとき? それっていつのことだ?」
「キングデーモンと会ったとき」
「ああ、そういやそんなのいたなあ……」
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