非実在祖父語り(お題:熱い祖父 )

「おじいさんの話?」

「そう。いるでしょ? 貴方にも」

目の前にいるロザリーはそう言って頬杖をついて笑った。私に祖父はおらず、話をしろと言われても困惑するばかりだ。

「……生まれてこの方祖父というものがいた記憶がないから私からは何とも言えない」

「あら。そうなの? そうね。じゃあ、私のお祖父さんの話をしましょうか」

私は目を瞬かせ、少し考えてから、彼女の話を聞くことにした。

「それで、どんな人だったんだ」

「あせらないで。順番よ。そうねえ、まずは……」

彼女は普段と同じように饒舌に話し始めた。胸に灯った情熱の炎が未だ冷めやらぬという、彼女の祖父の話を。彼女が両手を開いて『そうよ』というたびに彼女の黒髪と、髪と同じだけ黒いセーラー服が揺れる。くるくるとひらめく手を見ていると彼女の話がふいに途切れた。

「聞いているの、魔法使い」

「聞いているよ。暁の魔女」

私が答えると、彼女は鼻を鳴らし、『聞いているならいいわ』といって話を再開した。彼女は熱の入った声で、彼女のお祖父さんという話を続けた。

「君と似ているんだね。そのお祖父さんっていう人は」

「ええ。もちろんよ」

彼女は屈託なく笑う。私はなんて言ったらいいのか迷って、口を開いた。

「ねえ、暁の魔女」

「なあに魔法使い」

「こんなときになんだけど、君の名前ってなんだっけ?」

「いやね。人に教えるわけないじゃない。魔女の名前よ」

「そうか。すまない、不躾に」

私が目を瞑ると同時に、チュン、と顔前を通り過ぎる風があった。

「そうよ」

目の前の少し遠いところで、ロザリーが薄く微笑んでいた。目が合うと口の端を釣り上げて、こちらへずかずかと近づいてくる。

「名前なんて簡単に教えるもんじゃないのよ。普通はね。こんにちは、アキちゃん。随分と余裕そうじゃない。まさか、気が付かなかったなんて言わないわよね?」

「気が付かないわけないじゃないか。私には祖父はいない。楽園の靄から生まれたきみにもいるわけがない」

それから、と付け加える。

「きみは私の事を魔法使いとは呼ばない。そうだろ、ロザリー」

「ええ、もちろんよ。アキちゃん。うふふ、暁の魔女なんて、随分とよそよそしい呼び方をするもんだわね」

「魔女の名前なんだろう。逆になんで私に教えたんだい」

「愛してるからよ。他に理由が必要かしら」

「……そうか」

「そうよ」


「ところで、今の、誰だったんだと思う」

「情熱の色の服を着ているって言ってたわね。サンタクロースの孫娘と見たわ」

「本気で言ってる?」

「そんなわけないじゃない。あのこ、私の服をさらっていったのよ」

「ああ、それで、今日は魔女の格好なのか……」

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