春の目覚め(お題:彼の春)
花は開く。春風に吹き散らかされると知ってなお。
裏路地はひんやりとしている。今は冬の終わり。硬い蕾が緩むころ。恥じらう花弁が固い殻から零れれば、花の盛りはもうすぐだ。
ごちゃごちゃとした表通りとは違い、ここは人の通りの少ない裏通りだ。鈍色の空、雲の隙間からは僅かに月光がさす。
道端に生えた草も、今はこうべを垂れ、眠っている。地上の冬は眠りの季節だ。
道沿いに歩き、広場に出る。今の時間は誰もいない。つよい風が吹き、足元の草が揺れ、こん、こぉん、と旗の支柱が鳴っている。
冷たい風が体温を奪う。春が来る前の、今が一番寒い時だ。枯れ草色の地面は眠っている。今の街と同じように。
夜が明ければ。気温が上がって、春が来れば、目覚めの季節。花の見ごろだ。花は色とりどりに咲き誇る。種のまま、苗のまま、眠っていられる時間は短い。
春が来て、この広場一面に花が咲けば、彼はそれを摘みとって、遠くの街へ花束を売りに行くだろう。春が来れば。花が開けば。さっと吹いた冷たい風に、彼は帽子を深くかぶり直した。花の盛りはもうすぐだ。
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