未演算夢空間(お題:漆黒の闇に包まれし電車)※未完
『漆黒の闇に包まれし電車』
「ねえ」
僕は窓に映る影へと話しかける。夜、終電間際の鉄道、先頭から二番目の車両には人っ子一人いない。僕以外には誰もいない。見咎める人も、返事を返す人も。只々天井の、細い蛍光灯だけがジリジリと可聴域ぎりぎりの音波を放っている日付変更間際。
コン、と扉が叩かれる。
僕は窓の向こうに君を見る。
「ひさしぶり」
扉一枚隔てた向こう側には君がいる。夢のような……いや、これは夢だ。地上を走る鉄道がどこへも止まらず、また街灯も見えないということはありえないだろう。これは宵闇ではない。夢の中、演算が成されていないゆえの真っ暗闇。
コン、とまた扉が鳴った。返事代わりに二度、扉をノックした。ぼうっと浮かび上がったのは君だ。
きみは何事かを繰り返し繰り返し言った。何を言っているのかはわからなかった。僕は扉の向こう側へ出ようと、取っ手を探した。扉はまるでつるつるで、継ぎ目がどこにあるかもわからないありさまだった。僕は、隣の車両へ走った。扉を開け、継ぎ目に飛び込むと、足元には続きがなかった。階段を転がり落ち、顔を上げると地下鉄の駅にいた。後ろにはさっき飛び込んできた階段が、先には、まっすぐな廊下が続いていた。僕は駆けだした。後ろから、湿度を含んだ風と雷の音が伝って来たから。
走って、走って、改札横の低いフェンスを飛び越えた。誰もいない。僕はホームへ駆けて言った。電車はいまついたところの様だった。飛び乗り、二両目を目指す。途中、息が切れて、手すりにつかまった。
ばちっと目が開く。喧噪。人ごみの中にいた。
「どうしたの」
君が目の前にいた。頬を包むように伸ばされた手、あたたかなてのひらが触れそうになる。僕はそれに応えようと、手を……
はっとすると、そこは誰もいない。僕はてのひらを見た。手すりに触れても、それはもう何の効力もなく、ただただ冷たい感触を伝えてくるばかりだった。
僕はまた走り出した。
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