四肢真鍮の虫(お題:犯人は痛み)

痛み。じくじくと。ずきずきと疼くこの痛みは。

あなたがもたらしたものだろう、と、私はそういった。


『犯人は痛み』


畢竟、そいつは私の手足を奪っていったのだ。


食材だと言って。贖罪だと言って。

私の四肢を供物に捧げて、何かを成したのだろう。何を成したのだろうか。私はそれを知る由もない。


私の手足はなくなった。代わりに今は鉄、正確に言うなら黄銅……の腕が嵌まっている。

獅子身中の虫。覇王であったはずの私は臣下の一人に殺されかけた。うねうねと地を這う私はさながら、羽をもがれた蝶の様であったことだろう。


羽は戻ってきたが、私はもう飛べない。鉄の羽は駆け抜けるには重すぎる。


目の前でうっそりと何事かを呟いたあなたは、一体私へ何を見たのだろうか。


犯人は痛み、犯人は悼む。

私の腕や足は、私の知らないところで何らかの祈りを体現したのだという。

私の腕はもう祈れない。揃った指は曲がらない。


私の腕はうまかっただろうか。許されたのか。許されたかったのか。



私はその者の首を刎ねた。



内政、内省。

私には無縁のものだった。これからも縁遠いものであると思っていた。そしてそれも私次第。


私は痛む手足を抱え、城を出る。

私の目の前に現れたものが、痛みごと全てを奪い去ってくれることを望みながら。

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