cats and dogs(お題:犬の霧雨)

さあさあと降る雨は夜。月に煙る霧雨だ。

「雨は犬、土砂降りで猫。月夜に霧雨、兎の涙」

隣に座る彼女は変な歌を歌っている。つまりどういうことだと聞いたところ、楽しげな彼女は、犬と猫とで土砂降りの雨、外の標識おしゃぶりの飴、とのことだった。


わからないというのなら、つまり意味などないのだ、と前に言っていたのを思い出す。

意図はない、意味もない。あなたは受け取る素養がない、と楽しげな彼女が、意味も意図も、わからなければ無いのと同じだ、そこには私の思う簡素な快楽と、口の中で転がされた言葉だけがある、としかめ面の彼女がそれぞれ言った。

わからないのなら、意味などない、と言ったのは、後者だ。


しかめ面をした彼女は、苦虫をかみつぶしたような顔で、歌詞の解説をしてくれる。

「こんなことはしないのが一番だ」

それが彼女の見解らしかった。

「わたしが何を言わなくとも”わかる”というのが大切なんだ」

そう、彼女は言った。

「私からすべてを聞いたんじゃ、含みも何もない。鮮やかな赤色のテディ・ベアの綿をプラスチックビーズに替えて作る意味を、足の裏に書いていたんじゃ興ざめだ」

それ、どういう意味、と聞いたら、彼女の頬は一度、痙攣を起こしたように引き攣った。

「グミは好きかな」

「あんまり」

「ドイツの有名なグミがある。とてもかたい。硬いのには意味がある。子供のためだ」

彼女は、赤いクマを投げてよこした。

「このクマも同じだよ。子供の健康に良い、みたいなことが耳のあたりに書いてある。耐候性があって、綿が減らないから、どこへなりとも連れていける。でもあいつが言うのはそういうことじゃない」

彼女は頭痛を堪えるような顔で机に突っ伏した。

「つまり……元ネタがあるって話なんだ」

「……おしゃべりの飴ってなに? 飴が喋るの?」

「おしゃべりじゃない。おしゃぶりだ。外の標識ってことはロリポップだ」

「……?」

「辞書に聞け。英語のやつだ。間違ってもあいつの方には聞くなよ。謎と私の仕事が増える」

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