民話とパンとフリーダイアル(お題:小説の民話)
クリームパンを食べていると、目の前のそいつは先ほどまでの与太話に結論を付けた。
「つまりさ、それは遺伝子なんだ」
民話の話をしていた。そのはずだ。よく分からなかったので適当に頷いてクリームパンの袋をもう一つあけた。
「人から人へ口伝いに流れ流れて変容していく。民話ってそういうもんだろ。ライブラリが発達した今はどうかしならないけどさ」
返事を返さなかったことに何か思うところがあったのか、そいつは補足を口にした。情報遺伝子の話をしたいのなら最初からそう言ってほしいと思った。
「民話といえば電話だろ。伝播は電磁波を介しているに違いない。いや、音波って電磁波にはいるんだっけ? まあ、なんでもいいや」
ぶつぶつとこぼしながら、そいつはアンパンの袋を眺めていた。好物なのだ。取り出して半分に割り、がじがじと齧っている。お世辞にも上品とは言えない食い方だ。
そいつは自分の作った話の流れを切って、突然言い放った。
「そしてそれは、作らない人の理論だ」
「さて、我々は遺伝子を任意に組み替えることができる。二次創作って捉え方が嫌いなら翻案だ。好きな物語に好きな要素を好きなだけ組み込むことが出来る。無論好きな解釈で」
そう言って、そいつはもそもそと何事かを話しだした。アンパンをかじると饒舌になる。そういうやつなのだ。
「桃太郎を書くのなら、桃に理想郷の陰を見るのだっていい。中華風に箱入りの娘っこを出すのだって楽しそうだ」
遮って口をはさむ。
「書く人間が情報遺伝子的解釈下に置いて遺伝子組み換え製造工場だっていうのは良いんだけど、まずそもそも桃太郎って民話?」
そいつは黙った。わたしも黙った。口の中は、クリームパンの味がしていた。
「……どうなんだろう」
「電話かけてみる?」
「……掛けてみる?」
パンをもふもふかじりながら、二人で黒電話のダイヤルを回した。スマートフォンを使えばイヤホンを共有して聞けることに気付いたのは、二時間後の事だった。
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