第3話 恋愛観


私は「永遠」が嫌いだった。

そんなものは大嘘だと思っていたし、実際今までの彼氏とは別れたのだからそれこそが事実で真実だと信じていた。


ハジメは少なくとも私ほど「永遠」に拒否は示していなかった。

彼は私よりもよく恋愛映画を見て泣いていたし、友情であろうが愛情であろうが、とにかく人との関わりを尊重しているように感じられた。

ただ彼は自分自身を愛さず、それが理由で多くの友情と愛情を捨てているようだった。彼にとっては、自分という絶対的悪以外はすべてが善のようで、だからこそ彼が結婚の話をし始めたのは意外だった。


「俺、実は呪い使えるんだよね。」


ある日同じように私の爪にネイルをぬる彼は唐突にそんなことを言いだした。


「・・・どういう?」

「釘うつやつじゃなくてさ、なんかもっとこう、呪いっぽいやつ。」


返事に困っていると、彼はたとえば、と顔をあげた。


「一週間に数回は絶対、そいつの指を握って、腐り落ちろ、って呪うようなやつ。」


彼の指にはほとんど力が入っておらず、私はきっといつでも彼の手から指を引き抜けるはずなのに、なぜか動かせなかった。これも呪いの一種かしら、とバカげたことを考えた。


「そしたら、腐り落ちるの?」

「・・・どうかな、腐り落ちそう?」

「・・・私の薬指の話なら、まだまだ元気みたいだけど。」


不発の場合もあるかも、と彼は言った。

のんきな声だった。


「今まで成功したことは?」

「うーん、小学校の時、隣の席のやつがうるさくてさ、毎日毎日どっか行けって念じてたら、転校したことがあったかな。」

「・・・転校の理由は?」

「父親が海外に転勤になったとかだった気がする。」

「そういうの、栄転っていうんじゃないの。幸せになってるじゃん。」


おかしいな、俺、絶対俺の呪いのおかげだと思ってたんだけど、と彼は首をひねる。


「ていうか、やめてよ、私の指呪うの。」

「じゃあ魔法かける。」

「どんなやつ。」

「腐りおちるやつ。」

「一緒じゃん、それが嫌なの。」

「・・・次までに考えとく。リンが良いよっていう呪いか魔法。」


彼はなぜか真剣な顔をしてそういうので、呪いは基本的には嫌かな、とだけ返しておいた。

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