第2話 出会い
彼と出会ったのは、近所のコンビニだった。
その日の朝に電車でおじさんが食べていたチョコレートがやけに印象的で、どうにもたまらなくなって出かけた深夜。
コンビニの周りはしんとしていて、信号が点滅していた。家から徒歩数分圏内だからと油断してジャージで出かけた私に後ろから声をかけたのは、ずいぶんと前に別れた元彼だった。
「久しぶり。」
相変わらずまぶしそうに笑う元彼のすぐそばで、息をひそめていたのが、彼だった。彼はまるで(僕はここに存在していません)というような顔をして、上とも下ともつかない場所に目を置いていた。
「どうしたの、こんなところで。」
名前、なんだっけ、そんなことを考えながら聞いた。確か、ゆう、と呼んでいた。
「こいつ、俺の友達なんだけど、近くに住んでんの。」
こいつ、という時にゆうは一瞬彼に目を向けた。彼はああ、とかうう、とかそんなかすかな声だけあげて、やはりまっすぐこちらを見ることはなかった。
「こいつん家で飲まない?」
「迷惑でしょ。」
「俺は、いい、すよ。」
いいという割に表情を変えない彼は続けた。
「とりあえず俺、タバコだけ買ってきていいすか。お姉さんも、なんか、買いにきたんでしょ。」
ぱっと私の腕をつかんで彼は一瞬先にコンビニに入り、小さな声で、あの人お姉さんのことストーカーしてるっすよ、と言った。たぶんですけど、と付け足して彼は手を離した。
すぐにゆうは私たちに追いついたので、私はそれ以降何も聞けなかった。
そのあと、結局彼、ゆうにはイチと呼ばれていた、ハジメの家で私たちは少しお酒を飲んで話をした。ゆうの名前は思い出せないままで、ゆうはたぶんそんな私の心情に気づいてか、途中から深く考え込んだ様子だった。
朝方私たちはハジメの家から出て、ゆうにじゃ、さよならと言った。
ゆうはしばらくうつむいた後に、うん、とつぶやいた。
数日たって、私は行きつけの喫茶店でハジメがアルバイトをしていることを知った。彼が私の席にアイスティーを置きながら、ども、と小さく言って、私たちは再会したのだ。
その後、その喫茶店はつぶれてしまって、ハジメは無職になった。一応定職にはついていた私が彼に声をかけてごはんに連れて行ってから、私たちは付き合うようになった。
当然のことながら、周りからは大反対された交際だった。
しかし実際に私が彼にごちそうをしたのは、交際前の数回だけで、それ以降は彼は私に財布すら出させてくれなかった。一体どこで何をして稼いでいるのか、と聞くと彼はにやりと笑い、悪い事、と楽し気に言った。
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