第三話 一番傍に

 ヴィランを退治した僕達六人はキャピュレット家の人たちから逃げ回り、ようやく町の一角に落ち着いた。

「結局ヴィラン倒すより逃げ回る方がしんどいね」

 タオがうんざりという顔で頷く。

「ああ。それにしても……」

 と、ロミオとジュリエットの方へ目を向けた。

「ロミオロミオロミオー!」

 ジュリエットはロミオにべったりだ。シェインがタオの言葉を引き継ぐようにジュリエットへ告げた。

「人目もはばからずにイチャつきすぎです」

「いいだろ。一週間も会えなかったんだ」

 するとロミオがジュリエットに顔を近づけ言葉をかけた。

「たしかに離れていた。しかしジュリエット、俺の心はいつだって一番お前の傍にいる。忘れるな」

「ああロミオ、お前はどうしてロミオなの?」

 シェインの目が光る。

「頂きました! 有名なやつですよ!」

 レイナの目が燃える。

「見せつけてくれるわね!」

 僕は照れ臭く話した。

「はは、見ているこっちが恥ずかしくなるね」

 続いてレイナが質問する。

「ジュリエットはロミオのどこが好きなのかしら?」

 僕、タオ、シェインの三人は内心で同じことを思ったに違いない。

(((それ聞いちゃう!?)))

「それは…」

 ジュリエットは顔を真っ赤にして汗を飛ばしながら、それでも丁寧に教えてくれた。

「似た者同士だから、かな。二人ともお屋敷に囲われて、争いを止めない相手を憎んで、でも話し合ったらお互い同じ気持ちであることに気付いて。私は一人じゃ何もできないお嬢様だったけど、ロミオと一緒だから頑張れるんだ。この強さも、反戦も、想いも、あの日ロミオに飛び蹴りを喰らわせた時から全てが始まった気がする」

 レイナが小さい声で呟いた。

(飛び蹴り…?)

 シェインは何気ない顔をしてそれを制した。

(姉御、そこはスルーで)

 タオが誰となく尋ねる。

「で、この後どうすんだ?」

 ジュリエットがロミオとくっついたまま答えた。

「私達は機を見て二人で落ち合い、争いを止める有志を密かに集める予定だったんだけど」

 そこへレイナがきっぱりと話す。

「モンタギュー家へ行きたいわ」

 ジュリエットが驚いて返事を返した。

「本丸に斬り込むつもりか!?」

 ロミオが続く。

「親父は話の通じる相手じゃないぞ?」

「カオステラーは争いに執着を持っているようだから、モンタギュー卿にも会っておきたいのよ」

 シェインが確認するように尋ねる。

「カオステラーの気配はどうなっているのです?」

「一瞬表に出るけどすぐ消えてしまうの。暴走しない心の強さを持った手強い相手だわ。決定的な瞬間を間近で掴みたいところね」

 ロミオが思わしげに言った。

「想区が潰れればジュリエットともいられなくなる、か。戻るのはいいが、抜け出すのがな…」

 タオが『待ってました!』と言わんばかりに踊り出す。

「俺達も手伝ってやるから任せとけ!」

 ジュリエットが威勢よく合わせてくる。

「ロミオ、こいつらメチャクチャ強いんだぞ?」

「そうだな。あの石頭に話が通じる気はしないが。あと、俺が反戦行動していることは親父には内密ってことで宜しく」

 僕はロミオに応えた。

「うん、分かったよ」

「じゃあ、行きましょう」

 レイナの言葉に従って僕達はモンタギュー邸へと向かった。


 モンタギュー邸は物々しい重厚な造りの建物だった。

 応接間へと通された僕達六人を待っていたのは、軍人然とした厳しそうな雰囲気のモンタギュー卿、つまりロミオの父親と、兵隊さんのようなモンタギュー家の人達数人だった。

 モンタギュー卿はやはりロミオのことが気にかかるようだ。

「帰って来たか道楽息子が。争いへ参加もせず敵の娘にばかり気を取られるとは」

「俺は俺のやりたいようにやるぜ」

「まあ都合いい。お前がその娘をこちらに取り込めば、我が方の有利。貴様の道楽を役立ててもらうぞ」

「俺とジュリエットはそんなんじゃねえよ!」

 ジュリエットも勇んで発言する。

「そうだ! ロミオは道楽息子なんかじゃない! お前とお父さんとの争いを必死で止めようとしているんだぞ!」

「「「あっ…」」」

 ジュリエット以外の僕ら全員が思わず声を漏らした。

 ジュリエットは困惑する。

「え?」

 モンタギュー卿が難しい表情をして話しだした。

「近頃、我が方にも反戦分子ありの情報を聞く。まさか遊び惚けていた貴様がその指揮を…?」

 『親父には反戦行動のことは内密で宜しく』。ロミオの言葉をうっかりたがえてしまったことにようやく気付いたジュリエットはどう取り繕えば良いかとワタワタし始めた。

「あ、あああ…」

 けれどロミオは落ち着いた様子でそっとジュリエットの方に手を伸ばし伝えた。

「いいんだジュリエット」

 そしてモンタギュー卿へと顔を向ける。

「そうさ! 親父が聞く耳持たず小競り合いばかり重ねるから、俺が止めてやるんだよ!」

「バカな!? 事はこの町にとどまらぬ。外部勢力は水と油。大海に浮かぶ一滴の油としてこの町を孤立させる訳にはいかんのだ。一色に染めねばならぬ!」

「その海が、水に染まったこの町を守る保証はあるのか? あるいは海に化けた一滴の水に踊らされている可能性は? 手を取り合ってこの町を支えるべきじゃないのか!?」

「貴様本当に…。何故だ!? その女か!? 敵の小娘にたぶらかされたか!? 者ども、その小娘を捕まえろ!」

 モンタギュー家の人々がこちらへ向かう気勢を見せると、ジュリエットは大いにうろたえた。

「わっ、きゃっ」

 見かねたシェインが声をかける。

「ジュリエットさん、強いはずじゃ」

「私は人間と戦うのは得意じゃないんだ」

 ロミオが強い憤りを発する。

「てめえら…」

 するとレイナが打たれたように鋭く反応した。

「はっ!? カオステラーの気配!」

 ロミオが咆哮を上げる。

「ジュリエットに触るんじゃねえ!!」

 その瞬間!

「ガルルルルゥ」

「メガ・ヴィラン!?」

 まるでロミオの呼び掛けに呼応するかのように獣型の巨大なメガ・ヴィランを中心にした勢力が現れ、モンタギュー家の人々を容赦なく襲い始めた。

「ひいいいいい!」「うわあああああああああ!」

 歴戦の猛者を思わせる流石のモンタギュー卿も状況を理解するのに精一杯の様子だ。

「これは、キャピュレットの策略か!?」

 レイナが、モンタギュー卿よりもさらに強い悲壮感と焦燥を浮かべ、口を開く。

「違うわ、これは…」

 シェインが冷静かつ迅速にレイナを促した。

「ともかくヴィランを何とかしましょう」

 メガ・ヴィラン相手に大剣を振り回すジュリエットと一緒に僕達四人はヴィランの勢力を根こそぎ倒し、その足でまたしてもその場を逃げ去った。

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