第二話 結婚してやる!
キャピュレット邸は外も中も豪華で気品の漂う建物だった。
僕ら五人が大広間に案内されると、白い口髭を蓄え威厳に満ちたキャピュレット卿、つまりジュリエットの父親が待ち構えていた。
するとすぐさまキャピュレット卿が口火を切り親子バトルが始まった。
「この危険な時期に外を出歩くなと言ったろう! 家で大人しくしていなさい!」
「お父さん達がいつまでも争いを止めないから、止めようとしてるんだぞ!」
「私だって止めようとしているんだ! 向こうが手を出すから終わらんのだ! 争いを止めたければモンタギューに言え!」
「ああ、今から言ってきてやるよ!」
「お前は家にいなさい!」
「今モンタギューへ言えって言ったろう!」
「言うならここで言えばよいわ!」
シェインとタオが面喰ったようにもらした。
「これはこれは……」
「ひでえ。ガキの喧嘩かよ」
ジュリエット親子は更に続けた。
「そうやってロミオと私を引き離すつもりだな!?」
「おおとも! 喧嘩相手に嫁をくれてやるつもりなどないわ!」
「なんだよっ、お父さんの分からず屋!」
僕は会話へ入るのを諦めてレイナに肝心の質問をした。
「はは、すごいね…。どう? レイナ。カオステラーの気配はある?」
「微塵も感じないわ。モンタギュー家が気になるわね」
素早くジュリエットがレイナに目を向けた。
「おっ行くのか? 逃がしてくれる約束だよな」
キャピュレット卿が不審な顔をする。
「ん? 何を言っている?」
僕はみんなに目くばせした。
「仕方ない……かな? 戦う訳にはいかないし」
「シェイン、足にはちょっと自信あります」
タオがレイナを抱き上げた。
「ちょっとタオ!? 何するの?」
「お嬢は走らせるより俺が担いだ方が確実だ」
「やだー! 離せ―! 私は人形じゃなーい!」
キャピュレット卿が慌て始める。
「お前たち、何をしている!?」
タオが号令をかけた。
「よっしゃ、ずらかれ!」
それにジュリエットが威勢よく続く。
「それー!」
「こらっ! どこへ行く!?」
五人で大広間を出たものの、キャピュレット卿の言葉に引かれジュリエットがもう一度広間に顔を覗かした。逃げ足を止めたジュリエットに思わず声が出る。
「あ、ジュリエット?」
ジュリエットは父親に向かって言い放った。
「絶対ロミオと結婚してやる!」
「おてんばが過ぎるとロミオ君に嫌われるぞ!」
「大きなお世話だ!」
僕達は一目散にキャピュレット邸を抜け出した。
青空の下にオレンジ色の屋根を並べた町の中を走り続け、やがて先頭を行くタオが立ち止まって後ろを振り返りながら言った。
「はあはあ、ここまで来れば大丈夫だろ」
タオの背から降りたレイナが恨めしそうな目をタオに向ける。
「タオ、覚えておきなさい」
僕はキャピュレット邸で聞いた最後の一言が気になりジュリエットに尋ねた。
「ねえ。ジュリエットは争いを止めたいの? それともロミオと結婚したいの?」
「両方は欲張りか? 町の人には仲良くしてもらいたいし、ロミオは好きだ」
「いいんじゃないかな。どっちも応援するよ」
そういう僕は無責任かもしれない。ジュリエットの願いは想区の運命と相いれないもので、僕らは想区の運命を正すためにいる。でもジュリエットへの気持ちに嘘はない。
ジュリエットは屈託ない笑顔を浮かべて答えてくれた。
「ああ。有り難い」
するとジュリエットの背後から一人の男の子が勢いよくやってきて、ジュリエットへ嬉しそうに声をかけた。
「ジュリエット!」
「ロミオ!? わーい! ロミオロミオロミオー!」
ジュリエットは途端に大はしゃぎしてその男の子に抱きついた。
僕は呆気に取られたまま男の子の方をマジマジと見つめる。
「ロミオ? この人が」
王子様のような衣装に身を包み、やんちゃで自信に溢れた顔をしていた。
そこへ元来た道から別の集団が押し寄せて来た。
「ジュリエット様―! あっ、モンタギューのくそガキと一緒だぞ。ひっぺがせー!」「おおー!」
タオが振り返る。
「追手かよ。もう一走りすっか?」
けれどロミオは争う気勢を見せるキャピュレット家の人たちを放っておけない様子で叫び飛ばした。
「やめろー、お前たち!」
すると!
「クルルルゥ」
「うわああああああああ!」
タオが空白の書を開き、慌ただしく呼びかける。
「ヴィランがキャピュレット家の連中を襲い始めたぞ! いくぜ!」
皆が戦闘態勢を取るなか、シェインは怪訝な目をロミオに向け何やら考え込んでいた。
「…………」
僕はシェインを催促する。
「どうしたのシェイン? 僕達も行こう」
「あ、はい。合点承知です」
僕達四人はジュリエットの力を借りてヴィランを退治した。
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