第243話 片思いのバーベキュー⑤
「さあ、みんなが心配している。一緒に戻ろう」
「でもなんと言って戻ったらいいでしょう。急に逃げ出してしまって……」
「俺に任せてくれ。うまく誤魔化してあげるから」
「ほんとですか? でも御子柴さんって私のことを嫌っていましたよね? どうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
私はバーベキューの場所に
「君を嫌っているというのは誤解だよ。確かに遊園地の撮影の時は少しばかり誤解をしていたけど、あの時のことは悪かったと思っているんだ。きつい言い方をしてすまなかった」
御子柴さんは立ち止まって私に頭を下げた。
「い、いえ。そこまで謝られるほどのことは言われてないです。御子柴さんって本当にいい人ですよね。実力も人気もあるのに、謙虚で親切で」
御子柴さんはまんざらでもない顔でキランと目を輝かせた。
「それほどじゃないよ。でも君にそんな風に言われるのは嬉しいね。これからは今までのことは水に流して仲良くしようじゃないか。困ったことがあればいつでも頼ってくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
二人で他愛のない話をしながら戻ると、志岐くんが遠目で見つけたのか待っていた。
「志岐くん……」
「……」
志岐くんは無言のまま私と御子柴さんを交互に見ている。
やがて何か言いたそうにしたが、一言「見つかって良かった」とだけ呟いた。
なにか答えようとした私だったが……。
「イザベルッ!! 良かった。見つかったんだね。さすが御子柴くんだ」
「今、手分けして探しに行こうとしてたところだったんだよ」
「急に走って行くからどうしたのかと思ったよ」
わらわらとスタッフや和希たちが駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさい、みんな……」
「どうしたんだよ。びっくりするじゃんか」
「イザベルお姉さま、心配しましたわ」
なんと言い訳しようかと焦る私の代わりに御子柴さんが答えてくれた。
「大河原さんに腕を掴まれたのがよっぽどショックだったみたいだよ。男嫌いっていうのは本当なんだね。びっくりして逃げ出しちゃったみたいなんだ」
「なんだ、そうだったのか」
「大河原くん、堕天使三人は男嫌いだって言っただろう?」
「悪いことをしたね。大河原くんも謝りなさい」
「ご、ごめん、イザベル。そんなに嫌がるとは思わなかったから」
御子柴さんのおかげで、なんとか丸くおさまってくれた。
大河原さんには気の毒だけど、これでもう私たちに近付くこともないだろう。
「さあ! みなさーん! 気を取り直してメインディッシュでーすねー!!」
ちょうどグッドタイミングでペリーが叫んだ。
そして料理を持って登場したペリーに全員が度肝を抜かれた。
「ボルケーノ! ボルケーノ!!」
ペリーが叫んだ通り、両手の大皿に火山を持っている。
いや、正確には火山のような形の鍋のてっぺんからボウボウと火が噴き出して、溶岩のようなチーズが流れている。
その様子はまさに、女神ペレと火山を描いた絵画のようだった。
「びっくりしたー! 女神ペレが降臨したかと思ったよ」
「すごいなあー。食べられるの、それ?」
「ふふふ。私の特製ボルケーノ料理でーすねー。鍋を開くと蒸した魚介類がたっぷり入ってまーす。ウイスキーをかけて火をつけてチーズが噴き出てきまーすねー」
みんなの興味はすっかりペリーの料理にいってくれた。
助かった。
ほっと安心した私の目には、和希が映った。
みんながペリーの料理に目を奪われる中、和希だけは別の方向を見ていた。
御子柴さんと並んで料理を見つめている志岐くんだ。
無意識に見てしまっているのだろう。
これは恋の病に
その気持ちが痛いほどに分かる私のこの気持ちは恋ではない。
そう結論付けて自分に言い聞かせる。
私たちの視線の先にいる二人が、どんな会話をしていたのかは知らないままに。
…………………
「悪いな、志岐。しっかり
「御子柴さん。まねちゃんに何を言ったんですか?」
「それは俺とまねちゃんだけの秘密だよ」
「俺を牽制する必要なんてないでしょう? それでなくても避けられてる感じなのに」
「ふふ。お前は何も分かってないな。まねちゃんは昔も今もお前しか見てないのに」
「そうでしょうか? 全然そんな風に思えないんですが……」
「まあ、いいさ。お前はそれぐらい鈍感でいてもらわないと俺の勝ち目がないからな」
「勝ち目がないのは俺の方ですよ」
「そう思ってろ。その間に一気に差を詰めてやるさ」
「日本を代表するカリスマアイドルなんですから、少し手加減してください」
こうして波乱のバーベキュー大会は終わったのだった。
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