第239話 片思いのバーベキュー①

 撮影終わりの夕方からビーチでのバーベキュー大会が始まった。


 総勢三十名ほどのバーベキューは、ハワイの珍しい食材もあって、色あざやかで豪快だ。

 真っ赤なハイビスカスを飾りつけ、ホテルのレストランに注文した前菜料理も並ぶ。

 網の上には骨付きの大きな肉がじりじりと美味しそうに焼けている。


 堕天使三人はスタッフが用意してくれていたお揃いのプルメリア柄のノースリーブワンピースに着替えている。


 佳澄は文句なく清楚なワンピースが似合っている。


 和希は「こんなもん着られるか!」と拒否していたが、着てみると思った以上に似合っていて、スタッフに懇願されるままにしぶしぶ着たままでいる。


「和希はそういうワンピースも似合いますね。可愛いです」


「うるせー! き、今日だけだからな。せっかくスタッフが用意してくれたから仕方なく着てやってるだけだ」


 真っ赤になって照れている和希が可愛い。

 同性から見ても、かっこ可愛くて愛されるキャラだ。


「和希、かわいいです~。大好き~」


 ぺとっと和希の腕にからみつく佳澄。

 この可愛い二人を見ているだけで癒される私は、やっぱりバイ疑惑を否定できない。


「イザベルお姉さまは、ワンピースでも仮面をつけるのですか? はずした方が素敵なのに」


 佳澄は残念そうに私に言う。


「ぶ、部外者もいますから、できるだけ素顔を出さない方がいいんです」


 私はこの白地の清楚なワンピースに黒紫の仮面をつけて、どこまでも怪しい。

 この愛らしい二人とは別物になっている。


 もうイザベルだというのがバレバレなのは分かっているが、バーベキューなんてくだけた席で、イザベルが真音であることまでバレたら大変だ。


 それに……。


 この超絶美少女の二人と同じワンピースで並んで比べられたくないなあ……なんて思ってしまう。


 特に志岐くんと御子柴さんには……。


 同じ土俵で比べられるぐらいなら、一人だけ仮面をつけた変なやつがいるぐらいに思われた方が全然いい。


 最近の私はおかしい。


 こんなくだらないことばかり気にしてしまう。


 どうしちゃったんだろう私は。


 以前はブスと言われようが地味顔と言われようが大して気にしなかったのに。



「さあ、お腹がすいたでしょう? 好きなものを存分に食べてね」


 田崎マネが私たちに飲み物を用意してくれて、乾杯の音頭とともにバーベキューが始まった。


 一応、堕天使組とメンズボックス組でテーブルを分けているが、スタッフは始まりからすでに入り乱れていた。


 お互いに仕事のつながりもあり、すっかり仲良くなったらしい。


 私たちは男嫌いということで、女性ばかりの島をつくってもらっている。


「よし! 肉だ! 肉だ! 佳澄もイザベルも食べるだろ? 取ってきてやるよ!」


 食いしん坊の和希がさっそく大皿を持って肉を取りに行った。


「気を付けてね、和希」


 佳澄が心配するのは、肉を焼いている網の周りは男性ばかりだからだ。


 腹ペコ男子たちが網の周りを陣取っている。


 小柄な和希がぴょこぴょこと頭を出して肉を取ろうとしているが、背の高い男性にはばまれて中々肉に辿り着けないようだ。


「あ、くそ、取られた! この……邪魔なやつらだな」


 口の動きで和希の呟きが分かってしまう。


 いつもなら、お節介好きの私が真っ先に行って男性陣を払いのけて肉を取ってあげるはずだが、今日ははらはらしながら席についたまま見守っている。


 なぜなら網の周りに陣取っている中にメンズボックスの四人がいるからだ。


 あまり近付きたくない私としては、ここで見守るしかない。


「もう、なんだよ。でかいやつらだな!」


 ブツブツ文句を言いながら、隙間から菜箸を伸ばそうとしている和希が可愛い。

 腹減り男子たちは小柄な和希に気付かず、焼けた肉をどんどん取ってしまう。


 いらいらする和希だったが、ひょいと持っていた皿に肉がのせられて顔を上げた。


「取ってあげるよ」


 気配りの志岐くんが真っ先に気付いて、和希の皿に焼けた肉をのせてくれていた。


「志岐……」


 爽やかに微笑む志岐くんと、戸惑う和希が見つめ合った。


「あ、ありがとう……」


 和希は戸惑いながら両手で大皿を持つ。

 そこに、人一倍背の高い志岐くんが、ひょいひょいと肉を取ってのせていく。


 私はドラマのワンシーンを見るように、それを見つめていた。


 恋が始まるときめきシーンだ。

 なんてお似合いの二人なんだろう。


 はたで見ている私がときめいてしまう名シーンだった。

 志岐くんはやっぱり素敵で爽やかだ。

 こんなピュアラブなシーンがよく似合う。


 やがて周りの男性陣も和希の存在にようやく気付いた。


「おお、なんだ、和希ちゃん。言ってくれれば取ったのに」

「そのワンピース可愛いね。ほらほら、ウインナーも持っていきなよ」

「悪い悪い。気付かなかったよ。こっちの肉も焼けてるの持っていきな」


 戻ってきた和希の皿はてんこ盛りになっていた。


「な、なんか調子狂うな。ここの男達はみんな優しいんだよな」


 今まで男の恰好で男言葉だった和希は、こんな風に女の子扱いされたのは初めてだったらしい。今までが本当にろくでもない男達に囲まれていたのだ。


 本来、この美少女に優しくしない男子を探す方が難しい。


 それほど今日の和希は可愛かった。




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