第238話 プライベートビーチの撮影
「じゃあ三人で砂浜を走ってみようか」
「好きなように
撮影最終日はメンズボックス撮影班がおさえていたプライベートビーチでの撮影だった。
朝早くメイクを済ませ、社長とスタッフが泊まっている西海岸の豪華ホテルに、ペリーが車で送ってくれた。
朝のビーチは人通りもなく、ほとんど貸し切り状態だった。
その一部を念のため通行止めにして撮影に使わせてもらっている。
撮影班以外は立ち入り禁止だ。だが……。
……………
「なんだ。ビーチの撮影っていうから水着なのかと思ったら、昨日の衣装のままか」
「そういう大河原さんは、すっかり泳ぐつもりみたいですね」
「ビキニの海パンって恥ずかしくない? 僕は無理だよ。ねえ、志岐」
「ど、どうなんでしょうか」
撮影の邪魔にならないところではあるが、パラソルを立ててデッキチェアを並べて座るメンズボックス四天王がいた。
サングラスとアロハシャツも粋に着こなす御子柴。
ビキニの海パンに上着を羽織る大河原。
ピンクのアロハに短パンでトロピカルジュースを飲む廉。
ハワイでも普通のTシャツにジーパンの志岐。
編集部のスタッフが甲斐甲斐しくトロピカルドリンクやフルーツをテーブルにセッティングして世話を焼いている。
前日までに充分すぎる仕事をこなし、今日は約束通りご褒美の一日だ。
四人が望む通りのバカンスを提供しようと張り切っている。
カメラマンだけがプライベートな四人を撮影させてくれとシャッターを切っている。
雑誌の撮影裏話のページに載せるためのものだ。
「本当にこのビーチで過ごすだけでいいの? 希望があれば、牧場とか観光地とかどこでも連れていくのに」
スタッフがパイナップルの添えられたジュースをテーブルに置きながら尋ねる。
ゆうべどこに行きたいかと尋ねたら、四人とも堕天使3の撮影を見学すると言い出した。
「大河原さんは好きな所に行って可愛い子をナンパしてきたらいいじゃないですか」
「超絶可愛い子がここに三人もいるのに出歩く必要ないだろ?」
ゆうべから何度も御子柴と大河原の間でかわされた会話だ。
「廉は体調悪いなら部屋で休んでてもいいんだぞ?」
「もう元気になったよ。一人で部屋にいてもつまんないもん」
廉は海外で一人になることが不安らしい。
「志岐は……。一緒にいろ。お前は連れて行く」
「は、はい。分かりました」
……ということで、四人はここにいる。
「まあ、もともとメンズボックスで確保しておいたビーチだからね。邪魔にならない程度なら見学しても許してくれるだろう。じゃあ夕方には合同でバーベキューをできるように手配しておくよ。それでハワイ島の打ち上げということにしよう」
夕方からは両方のスタッフを交えて、大バーベキュー大会と決まった。
「お? 休憩に入ったみたいだぞ。よし、ちょっと話しかけにいってくるか」
堕天使3の撮影が中断すると、すぐさま大河原が上着を脱ぎ捨て立ち上がった。
「え? ちょっと、大河原さん、その恰好で三人のところに行くつもりですか?」
ぴちぴちの海パンに薄手のパーカーを羽織っている。
朝のビーチは思った以上に寒かったので、さらにその上に分厚い上着を着ていたが、わざわざそれを脱ぎ捨てていた。
「当たり前だろ。俺の美ボディを三人にお披露目するんだ。みんなシックスパックの刻まれた俺の肉体にメロメロになるはずだ」
「いや、それはどうかな。やめた方がいいと思うけど」
「ふ。御子柴。俺様の完璧なボディに嫉妬してるんだな。この鍛え抜かれた肉体を嫌がる女の子なんていないだろう。なあ、志岐」
「さ、さあ……。でもあの三人は……」
男嫌いの堕天使だからと言おうとしたが、すでに大河原は行ってしまった。
そして、すぐに。
「きゃあああ!!」
化け物を見たような悲鳴に迎えられている。
「いやあああ! 気持ち悪い! なんて破廉恥なかっこうですの!」
「おい! てめえ、私たちに近付くな! この変態!!」
恐怖に震える佳澄をイザベルが抱き締め、和希が罵声を浴びせている。
「え? なんで? このシックスパックがどれほどの努力で完成したか分かってる? 女の子が大好きなシックスパックだよ?」
「うるさい!! ここにはそんな変態はいない! さっさと散れ!」
「な、なんでだよ。蘭子、なんとか言ってくれ。俺の蘭子なら分かってくれるだろ?」
「こら! イザベルに近付くな! 私たちは男嫌いの三人組なんだ! 来るな!」
なじる和希と震える佳澄と、ひたすら無視して佳澄をなだめるイザベル。
そして間に入っておろおろするスタッフたち。
離れたパラソルの下で頭を抱える御子柴と志岐。
「志岐。早く行って、あのバカを連れ戻してこい!」
「は、はい。分かりました」
御子柴に命じられ、しぶしぶ大河原を強制連行する志岐であった。
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