第234話 お似合いの二人
「御子柴。お前からも何とか言ってくれよ。これは俺の蘭子だろ?」
ひいいい。
大河原さん、誰に余計なことを聞いてるんですか。
ほら、御子柴さんが狼の目で怒りモードに入ってますよ。
確か、御子柴さんってイザベルを夕日出さんの彼女と思っていて敵対視してたはず。
「大河原さんの蘭子じゃありません。人違いです!」
「え?」
あれ? 気づいてない?
そんなことある?
「なんでだよ。よく見てくれよ。仮面を外したら間違いなく蘭子だよ。蘭子、仮面を外してみてくれ」
大河原さんは私の仮面に手をかける。
その手を今度は別の筋肉質な手が掴む。
「大河原さん。彼女が怖がっていますよ」
志岐くんだ。
先輩にはあまり逆らわない志岐くんが珍しく怒りモードになっている。
「な、なんだよ、お前ら。俺は別に蘭子を怖がらせようと思ってるわけじゃないんだ」
御子柴さんと志岐くんにそれぞれ左右の腕を掴まれて、大河原さんは身動きがとれなくなっている。そして和希が私を背にかばって前に出た。
「現に怖がってるんだよ。イザベルに馴れ馴れしく触るな!」
「いや、イザベルって言ってるじゃん。やっぱ蘭子だろ?」
「何を訳の分からないことを言ってるんですか、この男は! 私達は男嫌いの堕天使3ですのよ。イザベルお姉さまを含め、男性に触られると蕁麻疹が出ますの。近付かないでもらえますかしら?」
佳澄も私の後ろに隠れながら、和希を援護する。
「男嫌い? 蕁麻疹?」
佳澄の言葉に大河原さんをはじめ、御子柴さんと志岐くんも意外そうな顔をした。
いや、堕天使3のコンセプトは確かにそうなんだけど、私は別に嫌いというわけじゃなくてバイ疑惑があるだけなんだけど。
だいたいイザベルは夕日出さんと付き合っていることになってたし。
「そんなはずないだろ? 蘭子は俺の恋人役だったんだぞ。しかも撮影中はべったりくっついて離れなかったんだ。それでも蕁麻疹なんか出てなかったし。なあ、志岐?」
大河原さん、頼むから志岐くんに確認しないで~!
「だいたい和希ちゃんだって、さっき志岐に助けられた時に蕁麻疹なんか出してなかったじゃんか。むしろ志岐の胸に顔をうずめて甘えてただろ? そうだったよな、志岐?」
え? そうなの?
和希が志岐くんの胸に顔をうずめて甘える?
この男嫌いの和希が?
私はすぐに崖から離れたからそんな場面は見てないけど。
そんなことを気にしている場合ではないのに、ちくりと胸が痛んだ。
「ばっ!! あ、ああ、甘えてなんかない! 勝手なこと言うな!!」
和希は慌てて否定している。
その背中は珍しく動揺していて、後ろからでも耳が真っ赤になっているのが分かった。
「志岐だって嬉しそうに和希ちゃんを抱き締めて鼻の下を伸ばしてたじゃんか」
「え?」
大河原さんの爆弾発言に、今度は志岐くんが動揺して真っ赤になっている。
「い、いや、俺はそんなつもりは……」
え? 私が見てない間に、二人にそんな胸きゅん出来事が?
空から降ってきた美少女を受け止めるヒーロー志岐くんと、いつも強気で男勝りなのに志岐くんの前でだけ可愛い女の子になる和希。
なに、この素敵な憧れシチュエーションは。
そしてお邪魔虫、大河原さんによって二人の淡い気持ちをお互いに知って……。
初めての恋の始まりに気付くのだった。
めでたし、めでたし。
いや、めでたくない!!
いやいや、めでたいのか……。
男性不審の和希が心許せる相手に出会えたのは素晴らしいことだ。
しかも志岐くんなら間違いなく幸せにしてくれる。
安心して和希を任せられる。
志岐くんにとっても才能溢れる美少女アイドルの和希なら釣り合いすぎている。
私にとって大好きな二人。
これほどお似合いのカップルはいない。
以前の私なら、間違いなく大祝福していたのに……。
どうしてだろう。
つんと心がつねられたように苦しくなるのは……。
私はいつから人の幸せを手放しで祝福できない人間になっていたの?
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