第218話 粘着ストーカー
「あれ?」
私はふと前方の席で立ち上がった人を見て、首を傾げた。
「どうした? 真音」
「うん、なんか知り合いの後ろ姿に似ているような気がして……」
「知り合い?」
「ああ、うん。なんでもない。きっと気のせいです」
田中マネージャーに似ている気がしたけど……。
田中マネは先日まで大御所俳優の友禅寺さんに同行して海外に行っていたと聞いた。
そして帰ったらすぐに今度は御子柴さんたちのメンズボックスの海外ロケに付き添うと聞いたけど……。
「そういえば……。御子柴さんや志岐くんはいつから海外ロケだっけ?」
このところ堕天使3のPV用レッスンで忙しくて考える暇もなかった。
「御子柴さんと志岐も海外ロケがあるのか? 夢見学園でも全然見ないけど……」
和希が尋ねた。
「うん。二人とも仕事が忙しいからね。海外ロケがあるとは聞いてたけど、詳しいことは知らないです。元気かなあ、二人とも」
私達、堕天使3の三人は芸能1組に編入したのだけれど、PVに向けたレッスンや打ち合わせで数えるほどしか学校に行けてなかった。そして御子柴さんと志岐くんも相変わらず忙しい。
志岐くんは同じクラスだけれど、いまだに和希と佳澄が学校で会うことはなかった。
「お二人の話を聞いて、その御子柴さんと志岐くんという人がいい人らしいのは分かりましたが、私は仲良くできませんからね。申し訳ないですけど……」
佳澄が念を押すように言う。
「うん。分かってるって、佳澄。無理に仲良くしなくてもいいよ」
佳澄は正真正銘の男嫌いで、カリスマアイドルの二人もうけつけないらしい。
そのあたりのことは今度会ったら二人に話しておこうと思いながら、全然会えていなかった。
そんな話をしながらなごやかに空の旅を楽しむ私達は、ビジネスクラスの仕切りカーテンから春本さんが顔色を変えて現れたことに気付いた。
そのまま私達の席を素通りして後ろのスタッフたちに何かこそこそ話している。
スタッフたちも話を聞きながら神妙な顔で肯いている。
「なにかあったんでしょうか?」
私達三人は顔を見合わせた。
やがてスタッフに話し終えた春本さんは、最後に私達三人の座席にやってきた。
「困ったことになったんだよ」
「どうしたんですか? 何か忘れ物ですか?」
「そうじゃないんだ。どうやらビジネスクラスに堕天使3の熱狂的な男性ファンが乗っているらしいんだ」
「熱狂的な男性ファン?」
まだデビューもしていない堕天使3のファンなんて、地下ステージの常連など数え切れるほどの人数しかいないはずだ。いや、それよりどうやって私達が乗る飛行機が分かったのか?
私達だって空港に着くまで知らなかったぐらいなのに。
「どうやら夢見プロの事務方に内通者がいたらしい。それで同じ便に乗り込むぐらいだから、相当粘着質なストーカーファンだ」
「ええっ?! 内通者?」
「粘着質なストーカーファン?」
驚く私と和希よりも、男嫌いの佳澄が一番怖がって震えている。
「社長の話では、相当やばい粘着ファンらしい。何をするか分からない」
「そ、そうなんですか?」
あの社長がやばいって言うなら本当にやばい人なんだろう。
「今、スタッフにも充分に警戒するように伝えたが、君達も気を付けてくれ。帽子を深くかぶって、顔が見えないように。それから飛行機から降りる時も全員が降りてから最後に時間をあけて降りよう。現地に着いてからも厳戒態勢で移動する。分かったね?」
「は、はい。分かりました」
「こ、怖いわ、真音、和希」
佳澄は男性の粘着質ファンと聞いて震えあがっている。
「大丈夫よ、佳澄。私が絶対に手出しさせないから」
「そうだよ。そんなやつが近付いてきたら、ぶっ飛ばしてやる」
私と和希が怖がる佳澄をなだめた。
「とにかくそういうことだから、向こうに着いてもスタッフから離れないようにね」
こうして多くの人たちの思惑が交錯する中、飛行機はハワイ島のコナ空港に到着した。
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