第214話 禁断の堕天使3
静華さんの紹介と共にスポットライトが消え、ステージは暗転した。
真っ暗なステージにうっすらとドライアイスの煙が広がる。
さっきまでの色とりどりで華やかなステージと一変して怪しい雰囲気になった。
微かに聞こえる鈴のような音色と共に、ステージ中央がぼんやりと照らされる。
そして人影がうっすらと逆光の中に映る。
その途端「わああああ!!」という歓声が上がった。
「え? 1人だけ?」
「いや、違う。後ろにいる。縦に並んでるんだ」
薄闇の中、みんなが目をこらしてステージを見つめる。
そして……。
ダンッというドラム音と共にイントロが始まり、ステージに紫の照明があたる。
「佳澄だ!」
「佳澄ちゃんだ!」
両手を顔の前でクロスした佳澄が、目を閉じたまま立っている。
「佳澄可愛い! 黒の制服が素敵!」
「他の2人は?」
「ほら後ろにいる。やっぱりあの3人だ」
ゆったりとしたイントロが、徐々に早くなっていく。
それと同時に佳澄が手をおろし、目を開く。
「緑の目だ」
「照明があたって、キラキラしてる。綺麗……」
同時にダンッ、ダンッというドラム音と共に早いビートに変わる。
そして佳澄が腕を振り上げリボンのついたバトンを回し始めた。
ダンッ!!
次の瞬間、青の仮面ドール剣士の私が佳澄の後ろから飛び出した。
「わああああ!! 真音だ!」
「仮面剣士だ!」
バトンを振る佳澄と共に、私はブルーのマントを翻し激しい剣舞を舞う。
その肌は陶器のように白く、心のない人形のように無表情に剣を操る。
「え? あれって真音?」
「目が青いぞ。肌も真っ白だ」
「髪型も違うし、別人?」
「剣舞がかっこいい……。すげえ」
ダンスは苦手だが、剣舞は得意だった。
クセになっているストップモーションも剣を持ってれば気にならない。
そして長いイントロを終えて、歌が静かに始まった。
和希の囁くようなハスキーボイスが幻想的な雰囲気を作り出す。
前でバトンと剣を振り回す緑の魔法使いと青の仮面剣士の元に、和希が歌いながらゆっくりと近付いてくる。
ハンズフリーマイクで歌う歌詞は、もういやだ、こりごりなんだ、と怒りをひたすら訴えている。
長い前髪で目は隠れ、和希の口元だけが苛立ちを語る。
そして3人並んだところで和希が客席に向かって、一気に剣を振り下ろした。
敵を見るように観客を見下ろす紫の勇者と、両脇で剣とバトンでポーズを決める仮面剣士と魔法使い。
照明が薄闇の中の3人にスポットライトをあてる。
客席がぞくっと痺れているのが分かった。
「わああああ!!!」と天井を揺らすほどの歓声が響き渡る。
それを合図にしたように、和希の激しいダンスが始まった。
歌う歌詞は、こういう所が嫌だ、ああいう所が許せないとひたすら
反抗心の塊のような和希にぴったりな歌詞だった。
怒りをぶつけるようなダンスが、和希の叫びのような歌と共に観客を釘付けにする。
私と佳澄は、歌詞の語尾だけをハモって剣舞とバトンで和希のダンスを引き立てるようにバックで踊る。
そしてサビに入って3人で叫ぶ。
アイドル界で決っして言ってはいけない言葉を。
私達が堕天使となった最大の禁句を。
「男なんか大嫌いだっっ!!!」
男性が7割を埋める観客席では、怒られても仕方ないような歌だったが、意外にも拍手喝采が巻き起こった。
ピューピューという指笛まで鳴っている。
「いいぞー!」
「サイコー!」
最悪の場合は、男性の観客にヤジを飛ばされて、みんな怒って帰ってしまうかと思ったが、和希の才能が反感さえも
静華さんも、ファンに受け入れられるか、そっぽを向かれるか、賭けだと言っていた。
「でも受け入れられたなら、この曲は話題になるわ」
私は和希の歌とダンスを見た段階から、これは凄いと思った。
あとはファンが受け入れるかどうかだけだ。
そして、この瞬間、成功の手ごたえを感じていた。
客席の男性たちに、あんた達なんか大嫌いだ! と罵る歌詞は、和希が歌うと穢れない少女の全身全霊の叫びのようで、むしろ清らかな聖女のようにも思えた。
大人になりたくない少女の無垢な叫び。
その目新しい聖女に、訳のわからない感動が湧いてくる。
なぜだか涙まで流して感動しているファンまでいた。
この日、堕天使3は、後に伝説とまで言われる、鮮烈のデビューを果たしたのだった。
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