第196話 問題児トリオ
ステージが無事終了した後、私達3人は静華さんの楽屋に呼び出された。
部屋に入ると、さっきと同じく春本さんもいた。
ソファで向かい合う2人の前に3人で並ぶ。
楽屋挨拶に来た時と同じ状況になっていた。
「落ちこぼれトリオから問題児トリオになったわね」
静華さんが苦笑しながら口を開いた。
「すみません……」
一番まともだろうと思われていた佳澄が、一番の問題児だった。
佳澄は尊敬する静華さんに嫌われたんじゃないかと、もう涙目になっている。
「あなた、男嫌いのくせにどうして地下アイドルになろうなんて思ったの?」
静華さんが真っ先に出てくる疑問をぶつけた。
佳澄は真っ赤になって俯いた。
「す、すみません……。あの……初めて夢見
「私のファンだったってこと?」
静華さんが困ったように聞き返した。
「はい……」
どうやら佳澄は
「どうしますか? 春本さん?」
静華さんが前に座る春本さんに伺いをたてる。
「そうですねえ……。いろいろ問題はありますが、これはこれで面白いかもしれない。男嫌いと分かっても佳澄さん推しのファンが出来たみたいですし」
そうなのだ。
あの後、男の人とは握手の出来なかった佳澄だが、それでもサインが欲しいという男性の列が出来ていた。
そして亜美ちゃん推しだった女性ファンの何人かが、佳澄推しに変わったようだった。
「まあ、少なくともエイコのような恋愛スキャンダルは起こさないだろうしね」
グループを率いる静華さんとしては、メンバーの恋愛スキャンダルに一番頭を悩ませているらしかった。
「それで、和希はどうなの? あなたも男嫌いって聞いたけど」
静華さんは、今度は隣に立つ和希に尋ねた。
「嫌いです。でも握手が出来ないわけじゃありません。アイドルの仕事はちゃんと割り切って出来ます」
「割り切ってねえ。その割にはファンに対するあの挑戦的な態度はなに?」
ファン1人1人を食い殺しそうな目で睨みつけていた。
「私のファンを名乗るなら本気でかかってこいという覚悟の現れです」
「かかってこいって、ファンと格闘技でもするつもりですか?」
春本さんが苦笑した。
「あと真音は……頬の傷を早く治してね。顔に傷をつくるなんてアイドルとしての自覚が足りないわよ」
「はい」
「それから、まさかと思うけど、あなたも……」
「え?」
「男嫌いとか言う? 見た目はジェンダーな雰囲気があるけど」
芸能界に入ってからやたらに男装をする機会が増えたのは確かだ。
でも、志岐くんのストーカーだった私が男嫌いのはずがない。
「いえ、男嫌いでは……」
はっきり否定しようとしたが、ふと最近の胸キュンを思い出した。
初めて和希を見た時のドキドキと、今も和希に話しかけられただけでトキめいたりするこの感情はなんなのか。
まさか両方いけるタイプ?
バイセクシャル?
全然気付かなかったが、そうなんだろうか?
自分でも分からなくなってきた。
そして正直に答えた。
「あの……男も女も……両方好きです……」
「……」
静華さんと春本さんが目を丸くしたまま顔を見合わせている。
「信じられない。3人ともノーマルじゃないの?」
「時代も変わったものですね。こういう若者が増えているんでしょうか」
2人で頭を抱えて悩んでいる。
「とにかく、少なくともあなた達3人は、初ステージにして自分推しのファンを作った。あの握手会の列は尋常じゃなかったわ。亜美の初ステージでもあんなに列は出来なかった」
私は仮面を外せば一気にゼロになりそうだが、和希と佳澄の列は確かに凄かった。
「でも歌とダンスにはまだまだ課題が残ってますけどね。『夢見エンジェル』以外の曲はまだ覚えてもないでしょう?」
春本さんが考え込む。
「すべての楽曲をいつでも踊れるようにしてもらわないと、ステージ組に入れるわけにはいかないわ」
「ステージ組……?」
私達3人はお互いに顔を見合わせた。
「そう。アイドル業界では旬のメンバーはどんどんステージに立たせるの。迷ってる間に旬が過ぎてしまうこともあるから。だからあなた達にはこれからステージに立ってもらうわ」
「ええっ!」
驚きの声を上げたのは、私だけだった。
和希は小さくガッツポーズを決め、佳澄は静華さんと毎日会えることに胸を弾ませている。
「でも、そうですね。最初はステージとレッスンを交互にしましょうか。レッスン日を挟んでステージに立ってもらいましょう。レッスン日に他のダンスと歌も覚えておいて下さい」
春本さんが決定事項のように告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます