第184話 男嫌いのアイドル
「ちょっと失礼なこと言わないでよ和希!」
「その辺のイモ男と
「何枚皮をむいても全然違うから!」
ここは皆の意見に賛成だ。
いきなり和希に話しかけられて嬉しかったが、同意は出来ない。
「あんた達はお子様だから男の生態を知らないんだ。男なんてゲスで最低なヤツばかりだ」
冷めた表情で呟くように言い切る和希に、全員が黙り込んだ。
長い前髪からのぞく顔は、童顔と言っていいほど幼く見えるが、発言内容は何人もの男を渡り歩いた経験豊富な熟女のようだった。
「な、なによ。知ったかぶりして」
「まるで何人もと付き合ったことがあるみたいに言うのね」
「地下アイドルは恋愛禁止なのよ。彼氏のいる人はグループを脱退しなきゃならないんだから。あんたったら彼氏がいるんじゃないの?」
みんなは
返答によっては、この場で退学が決まるほどの大問題だ。
「ふ……」
しかし和希は皆の緊張を
「バカバカしい。私が男なんて低脳な生き物と付き合うわけがないだろ?」
どうやら和希というのは極度の男嫌いらしい。
それでよく地下アイドルをやろうなんて気になったと思うのだが、考えようによっては恋愛禁止のタブーには絶対引っかからないので安泰かもしれない。
「そんな人が握手会なんて出来るの? 私達の仕事は男性ファンがいてこそ成り立つのよ」
「そうよ。私達にとったら男性ファンは神様みたいなものなんだから。心をこめて手を握り返せるの?」
「ふん! 金づるだと思ったら全然平気だ。ゲスな男どもを食いものにしてやる」
みんな唖然と和希を見つめた。
これは地下アイドル世界では絶対言ってはいけない禁句ではないのか。
ある意味、ふわふわとアイドルを夢見ている子よりはプロ意識は強いのかもしれないが。
「和希! ちょっと話があるの」
「好き放題な発言で、このクラスの風紀を乱さないでくれる?」
「あなたは少し更生する必要があるようね」
遠巻きに見守っていたトップ3が、我慢の限界とばかり口を挟んできた。
和希は面倒なことになったという顔でトップ3を見た。
「談話室で話しましょう。こっちに来て」
「はい……」
和希は諦めたように3人に連れられて教室を出て行った。
それと同時に私と佳澄の周りに集まっていた他の女子も自分の席に戻っていった。
2人きりになると、佳澄は他の子に聞こえない小声で私に耳打ちしてきた。
「和希ってね母子家庭で、お母さんが夜の仕事をしてるんです。かなり男性遍歴もすごいみたいでバツ3って言ってたかな。和希も母親の恋人に結構ひどい目に合わされてきたみたいで男性不信なんです」
「そ、そうなんだ」
そう言われてみるとあの極度の男嫌いも納得出来る。
「母親の恋人に暴力をふるわれて家出してたところを春本さんに拾われたみたいです。今の生活から抜け出せるなら何でもやるってグループに加入したらしいですよ」
あの何にも動じない大物感は、それなりの修羅場をくぐってきたかららしい。
「だから春本さんが母親を説得して今はウイークリーマンションに住んでるみたいですね。売れたら学園の寮に
なんだか私ごときが寮に住まわせてもらっているのが本当に申し訳ない。
御子柴さんのおかげ以外の何ものでもないのに。
「そんな話をしてる場合じゃありませんでした。えっと朝はじゃあ寮に住んでるなら亜美さんに遅れることのないように出てきて下さい。2年では亜美さんが断トツのトップだから」
「亜美ちゃんが?」
「そうです。地下のステージでもファンの数がケタ違いだし、モデル雑誌のポップギャルの専属だし、ドラマとCMも決まってますから。このクラスのみんなの目標なんです」
「そ、そうなの?」
芸能1組では、エックスティーン専属モデルの亮子ちゃんや志岐くんに
「地下ステージでは
「
「はい。歌、ダンス、人気すべてを兼ね備えた5人が2ヶ月に1回ファン投票で選び直されるんです。でも1人はグループ総長の静華さんに決まってますから、実質は4人が選抜されるんです。ステージでは基本、名前の呼び捨てなんですが、5エンジェルにはみんな、さん付けで敬語を使います。まあこのクラスには、亜美さんと昔からの知り合いも多いから呼び捨ての人もいますが」
「その4人が2ヶ月に1回選び直されるの?」
なんという厳しい世界なんだろうと思った。
「今の4人は、亜美さんと3年の芸能1組のサラさん、20才のリナさん、それから今月脱退が決まっている22才のエイコさんです」
「脱退が決まっている?」
「はい。噂によると以前に恋人とホテルから出るところを撮られてたらしいですね。その時はもみ消したみたいですが、今頃になって写真誌に出ることになったようです。だから卒業公演もラストシングルも全部無くなったみたいで、この間からひどく荒れてます。エイコさんにはしばらく近付かない方がいいかもしれません」
そ、それはまさか……。
いやまさかでなくとも、私と御子柴さんのスクープ記事の交換条件になった人だ。
もし私がその張本人と知ったなら、今度こそ半殺しだ。
いろいろ言えない話が多すぎる。
針のむしろを歩くような日々になるだろう。
(ホントにやっていけるだろうか……)
不安だらけの私に追い討ちをかけるように佳澄が告げた。
「2週間後には初ステージに出ることになりますから、今日からダンスと歌の猛レッスンですね」
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