第173話 最後のメンズボックス
今日は御子柴さんは朝から別の仕事が入っていて、昼からメンズボックスの表紙撮りになっていた。今日は廉くんと大河原さんの3人表紙だった。
最近志岐くんは忙しくて、優先される御子柴さんのスケジュールになかなか合わせられない。
昼からのメンズボックス撮影に急遽マネージャーで入ってくれと言われたのは朝のことだった。田中マネが切羽詰った様子で電話をかけてきたので、余程人手がなくて困ってるんだろう。
だから少し気まずいけれど受けることにした。
それにちょうどいいとも思っていた。
(今日を最後に御子柴さんのマネージャーをやめさせてもらおう)
ずるずると甘えていてはいけない。
三分一マネも田崎マネも、もちろん田中マネも、素晴らしいマネージャーだ。
時にはタレントを叱ったり、時にはつきっきりでサポートしたり。
私ではあまりに役不足で、いつかもっと御子柴さんに迷惑をかけてしまう。
そうなる前に私から離れていこう。
御子柴さんの優しさに甘えてはいけない。
「ねえねえ、魔男斗、このインスタどう思う?」
私がスタジオに着いた時には、まだ廉くんしかいなかった。
廉くんは先日の、りこぴょんとイザベルのインスタを見ていた。
「りこぴょんがイザベルと撮ってるけど、これって仲良さそうじゃないよね? イザベルは無表情のままだし。
しまった。
もっと無理にでも笑顔で撮るんだった。
「そ、そんなことないと思いますよ。これはイザベルにとっては、最高級に喜んでる顔ですよ」
「えー、これが? 全然笑ってないじゃん」
「そういう顔なんですよ、この人は。これが最大限の笑顔なんですよ」
「これが笑顔? そうかなあ……」
「りこぴょんと別れたって噂になってますけど、私は2人はお似合いだと思いますよ。りこぴょんも友達思いが高じて、ちょっと違う方向に行っちゃっただけで……。もう仲直りしたらどうですか? 廉君もりこぴょんと別れたくないんでしょ?」
「そりゃあ別れたいわけじゃないけど……」
「イザベルはたぶんもう観覧車のことなんて、全然気にしてないと思いますよ。むしろ自分のせいで別れたとか知ったらショックだと思いますよ」
「そうかなあ……」
廉くんは意外に頑固なところがある。
案外亭主関白になるタイプかもしれない。
「あれっ? ちょっと見せて、そのインスタ!」
次に現れたのは大河原さんだった。
廉くんのスマホを奪って、りこぴょんのインスタを凝視している。
そして……。
「蘭子……」
少し涙ぐんだまま呟いた。
いや、死んだみたいになってますから。
「それはイザベルですよ。蘭子じゃないです」
まあ、見た目は同じだけども……。
「いや、この絶望を背負った表情は蘭子だ。俺の蘭子がこんなところに……」
いつ大河原さんの蘭子になったんだ。
「やっぱり絶望を背負ったような表情だよね。全然楽しそうな顔じゃないじゃん」
廉くんが余計な言葉に食いついた。
もう話がややこしくなるから変なこと言わないで下さい、大河原さん。
それにしても、まだ蘭子ロスを引きずっていたとは……。
「よし、イイねを押しておこう」
「あ、ちょっと、それ僕のスマホだってば! りこぴょんと喧嘩中なんだから勝手にイイね押さないでよ!」
面倒くさい2人の相手をしている内に、御子柴さんも到着した。
◆
「おはようございます、御子柴さん」
「おはよう」
地下の駐車場に到着した田中マネの車まで迎えに行った。
結構広い駐車場だ。タレント1人で歩かせるには距離がある。
田中マネは撮影の間、別の仕事があるらしい。
終わる頃にはまた迎えに来ると言って、すぐに行ってしまった。
「あのさ、まねちゃん。後で話があるから撮影が終わったらちょっと時間いい?」
「あ、はい。私も話があったんで良かったです」
「話って?」
「いえ、今はちょっと……」
万一にも私の言葉で今からの仕事に支障があってはいけない。
御子柴さんが不安そうに私を見ていた。
また余計な心配をさせてるようだ。
そして……。
無事に撮影を終えて、迎えの車が来るまで控え室の1つを借りて休憩することになった。
ソファセットと洗面所のついた小さな個室だった。
「あの……しばらくマネージャーを休んですみませんでした」
まずは仕事が忙しいなんて嘘をついて休んだことを謝りたかった。
ソファの向かいに座った御子柴さんは、妙に深刻な顔をしている。
あれ? 思った以上に怒ってる?
いや、当然か。
忙しいなんて言って、シンくんにお弁当を作ってたんだから……。
もしかして私が言うまでもなく御子柴さんの方から解任を言い渡されるのか?
でも御子柴さんの口から出たのは思いがけない言葉だった。
「野原田のせい?」
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