第169話 思いがけない珍客
翌日は久しぶりにポップギャルの撮影だった。
ゴスロリページには珍しく、ロケが入っていた。
アンティークカフェを巡る特集で、りこぴょんと2人の撮影だ。
「おはようございます、りこぴょんさん」
イザベル姿で会うのは遊園地特集以来だ。
あの時はずいぶん敵対視されていた。
少し緊張して挨拶したが、りこぴょんは私に気付くとすぐに涙目になった。
「イザベル、この間はごめんなさい。酷いことをして反省しています。許して下さい」
メイク途中なのに立ち上がって、深々と頭を下げた。
「え?」
どうしたことだろう?
しかもぴょん語が封印されている。
「いえ、それはあの時もう謝ってくれましたし、別にもう……」
そういえばりこぴょんが廉くんと別れたという噂を聞いたのだった。
「本当に? 許してくれる? じゃあ後で一緒に写真撮ってもいい?」
りこぴょんは、すっかりしおらしくなって私の手をとった。
「え? はい、もちろん」
「それで2人の写真をSNSにあげてもいい?」
「は、はあ……。別にいいですけど……」
「よ、良かったぴょん。断られたらどうしようかと思ったぴょんよ!!」
途端にぴょん語が復活して、いつものりこぴょんに戻った。
「実はね廉くんがあの後、こんな意地悪なことをする子だと思わなかったって、私が信じられなくなったから、少し距離を置こうって言われたぴょんよ」
りこぴょんはメイクの椅子に戻って、しんみりと話し始めた。
「そうだったんですか……」
「廉くんはりこぴょんのこと、
その過大評価もどうかと思うが……。
「だからイザベルと仲直りをして、今は親友のように仲良しだってことをSNSを通じて廉くんに見せ付けたいぴょんよ」
「親友のように仲良しですか……?」
そこまで仲良くならなくてもいいと思うが……。
「そしたら廉くんも思いなおしてくれると思うぴょんよ」
そんな簡単なことだとも思えないが、2人の関係に私が影響を与えてしまったのには責任を感じている。出来る限りのことは協力してあげたい。
◆
ロケは都内の3ヶ所のアンティークカフェで行われた。
早朝から昼前までの
3件目は今話題になっている中世風のゴージャスなカフェだった。
ここならゴスロリ服でも浮いた感じがしない。
「ああ、イザベルちゃん、久しぶりねえ。映画の撮影がほぼ終了して、私も気が抜けてしまったわ。今は年末の映画の宣伝全国ツアーの衣装を構想中なのよ。最高の衣装を考えているから期待していてね」
マダム・ロココが腰を振りながら現れた。
今日も子ネズミ帽子が頭を飾っている。
映画の宣伝ツアーなんてものがあったのか。
頼むからあまり華美にならない衣装にして欲しい。
「もうスケジュールは決まっているのかしら?」
マダム・ロココは私の隣に立つ田崎マネージャーに尋ねた。
イザベルの時は田崎マネが専属になっている。
「決定ではありませんが、だいたいのスケジュールは決まっています。ちょっと待って下さいね」
田崎マネはロケバスに置いた資料を取りに行った。
「じゃあ私はその間に、りこぴょんの衣装をチェックしてくるわね」
マダム・ロココは常に動き回ってる人だ。
今回は黒ゴスロリのイザベルと白ゴスロリのりこぴょんがテーマらしい。
私は全身真っ黒のドレス姿だった。
りこぴょんの白ゴスロリは、着替えに時間がかかっているようだ。
そして……。
先に戻ってきた田崎マネには信じられないモノがくっついていた。
「!!?」
あまりの意外さに脳みそが混乱している。
「え? なんで?」
まったく想像もしていなかった人物が田崎マネの後ろから出て来た。
「ごめんね、イザベル。私が今日ここでロケだって言っちゃったもんだから、来ちゃったみたいなの。友達なんだって? 知らなかったわ」
「イザベル! えへっ、来ちゃった」
「シンくん……」
野原田シンくんが、舌をてへぺろっと出して田崎マネの後ろから顔を出している。
いや、なんで?
何がどうなってシンくんが?
「ほら、僕って甘い物が好きでしょ? ここのカフェのケーキは見た目もゴージャスで美味しいって聞いたからさ」
そんなことはどうでもいいです。
なんで田崎マネと知り合いなのかが知りたいのです。
「ん? ああ、田崎マネはイザベルの専属になる前は僕の専属だったんだ。知らなかった?」
初耳です。そんなこと一言も言わなかったじゃないですか。
「事務所を移籍して田崎マネが専属になって、二人三脚でこれから頑張って行こうって思ってたんだ。田崎マネも親身になってくれて、キャラの路線変更も2人で考えた。そしていよいよこれからって時に、急遽、映画のヒロインに抜擢されたイザベルのマネージャーをやることになったんだ。知らされた時はホントにショックだったなあ」
ま、まさか、じゃあ情報源は……。
「でも僕は根にもたないタイプだからさ。全然気にしてないからね」
いや、めっちゃ根に持つタイプですよね。
すんごい気にしてますよね。
「田崎マネからいろいろ聞かされたことも、誰にも言わないから。ほら、僕が口が固いのはよく知ってるでしょ?」
口が固かった思い出など1つもありません。
そ、そういうことだったのか……。
私はあんぐりと口を開けたまま、シンくんの言葉を呆然と聞いていた。
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