第168話 デンジャラス・ランチ
「わああ! 光栄だなあ。今をときめく御子柴さんと一緒にランチが出来るなんて」
シンくんは、ちゃっかり御子柴さんの向かいの席をゲットして腰掛けた。
丸テーブル席は4人が座れるぐらいの大きさだ。
セレブ3年生達でさえ、御子柴さんと同席して食事するのは遠慮して、周りに立って話しかけているだけで一緒に席についている人はいなかった。
「俺の方こそ、子役時代から活躍しているク○ヨンしんちゃんとランチが出来るとは思わなかったよ。キャリアではずいぶん先輩になるよね」
セレブ女子達は心得たもので、相手が知名度のある芸能人と気付いたら、節度を守るように離れて行って、私達3人になってしまった。
置いて行かないで、皆さん。
私も連れてって下さい。
「キャリアは10年だけど、年下だから気にしないでよ」
「俺はまだ5年だから倍も先輩だよ。よろしくね、野原田くん」
御子柴さん、目が笑ってませんってば。
「真音、何突っ立ってるんだよ。早く座りなよ」
シンくんは不穏な空気に何も気付いてないのか、立ったままの私に声をかけた。
「真音? 名前で呼び合うなんて、ずいぶん仲良しなんだね」
ピキピキと御子柴さんの額に
「うん。昨日もケーキ屋デートしたんだ。ね? 真音」
ぎゃあああ!
もうやめて、シンくん。
昨日も仕事で忙しかったことになってるのに……。
「ケーキ屋デート? ふーん、楽しそうだね。羨ましいよ」
絶対怒ってますよね、御子柴さん。
「真音ちゃんも一緒に食べよう。どうぞ座って」
御子柴さんはにこにこと私に空いている席を勧めた。
「い、いえ……私はここで……」
怖くて食事が喉を通りません。
「そう言わずにどうぞ座って」
これ以上断ったら切り捨てられそうな気迫で椅子を勧められた。
3人で座る丸テーブルというのは、どこに座っても御子柴さんとシンくんの隣だ。デスシートしか残っていない。
私は死刑囚のような面持ちでデスシートにお尻の皮1枚で浅く腰掛けた。
「真音、お腹すいたよ。早くお弁当出してよ」
無邪気なしんちゃん声が更にデスワードを告げる。
御子柴さんは、にこりと黒い微笑みで私を見た。
「お弁当? 真音ちゃんは野原田くんにお弁当を作ったのかな?」
ひいいいい!!
御子柴さん、邪悪なオーラが出ています。
これには事情が……。
何か弁解をしなくては。
「あの……昨日、ちょっとシンくんに失礼なことをしたので、そのお詫びに……」
「シンくん?」
ぎゃあああ!!!
そっちがデスワードだったああ!!
「わああっ! 真音のお弁当美味しいね。うわっ。意外! 料理上手なんだね」
シンくんは私が差し出した弁当を嬉しそうに食べ始めた。
もう余計な感想はいらないので、とっとと食べて、さっさと終わりにして下さい。
「そんなに美味しいんだ。良かったら俺のおにぎりと1つ交換しない? ほら、そのシソの入ったおにぎりと」
シソ入りおにぎりは御子柴さんの大好物だった。
映画の撮影が入ってから作ってないから、ずいぶん食べてない。
「えー、嫌だよ。これ美味しそうだと思って最後にとってたんだから」
シンくん、年上の言うことは聞いて下さい。
ほらみなさい。
御子柴さんがオオカミに変身しようとしてますよ。
「あの……私ので良かったらどうぞ食べて下さい」
私はおずおずと自分の弁当を御子柴さんに差し出した。
「悪いなあ、いいのかな?」
御子柴さんは、ほんの少し機嫌を直して私の弁当に箸を向けた。
しかし、そこでハッと気付いた。
「や、やっぱりダメです!!」
慌てて、自分の弁当にフタをする。
「は?」
御子柴さん、完全に切れてる「は?」になってますね。
「い、いえ。御子柴さんのお弁当はトレーナーさんがカロリー計算までした完璧なお弁当なんじゃないかと思って。せっかく計算し尽くしたカロリーが変わってしまってはダメだから……」
「おにぎり1個ぐらい大丈夫だよ!」
ちょっと幼児御子柴さんになりかけてます。
気をつけて下さい。
「いえ。やっぱりおにぎり1個といえども、せっかくのトレーナーさんの苦労が……」
「言わなきゃバレないよ!」
「ダ、ダメですって!」
早く幼児御子柴さんをしまって下さい。
遠巻きにたくさんのファンが見ていますよ。
「もう食べる気になってるんだ! 絶対食べる! 意地でも食べるっ!!」
幼児御子柴さんを見事に発動してしまいましたね。
もうこうなったら私には止められない。
「怒られても知りませんから……」
結局私のお弁当を差し出してしまった。
ダメだ。
やっぱり私は三分一さんのように断固としてダメだと言えない。
何重にもショックなデンジャラス・ランチはこうして
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