第167話 芸能1組の昼休み
「真音!」
翌日の昼休み、2年の教室に顔を出したシンくんに全員の視線が注がれた。
「あ、シンくん」
さらにそれに答えた私の言葉で、教室中にざわめきが広がった。
中でも一番驚いているのは、志岐くんだった。
「お弁当作ってきてくれた?」
「あ、うん」
な、なんかとても注目されている。
ちょっとこの会話はまずいのではないかと思ったが、シンくんはお構いなしだ。
「えっ? なべぴょんって結局野原田くんとそうなったんだぁ」
亜美ちゃんが更に余計なことを言う。
そうなったって、どうなったんだ!
いや、でも誤解されてもおかしくない会話だった。
亜美ちゃんの向こうに志岐くんの驚いた顔が見える。
「と、友達になっただけですから」
亜美ちゃんにというよりは、志岐くんに弁解した。
「え? え? どっちから? なべぴょん告白されたの?」
人の話聞いてないだろ、亜美ちゃん。
「いえ。だから朝の送迎車で一緒になって、友達になっただけです」
わざと志岐くんに聞こえるように言っている私もどうなんだ。
いつの間にか知り合いになってるのに驚いているだけで、志岐くんにとっては、シンくんが私の彼氏でも友達でも大差ないだろうに。
「え? デートはしたの? どこまで進んでるの?」
いや、だから人の話を聞いて下さい、亜美ちゃん。
「昨日駅前のケーキ屋さんに行ったよ。美味しかったよね、真音」
シンくん、これ以上話をややこしくしないで下さい。
「あ、亜美ちゃんの思っているような仲ではありませんから。誤解しないで下さい。シンくん、ここは目立つので多目的ルームに行きましょう」
私は逃げるように教室を出た。
◆
「シンくん。あんな言い方をしたら、みんなに付き合ってるかと思われるでしょ?」
私は教室を出るとすぐにシンくんに注意した。
「ダメなの?」
「ダメでしょ? 芸能人はスキャンダルはダメでしょ?」
「そりゃあ御子柴さんや志岐くんみたいな人気うなぎのぼりな人はそうかもしれないけど、僕は別にスキャンダルで失脚するわけじゃないもん。むしろ話題性が出来ていいかもしれないよ」
「いや、私とスキャンダルになっても話題になんかなるわけないでしょ?」
「まあ……真音自体は無名に近いもんね。でも正体がイザベルだと分かったら、ちょっと話題になるかも……」
「な! まさかそんなことを考えて……」
「冗談だよ。真音の方こそ僕と噂になったら困ることでもあるの?」
「困ること?」
「たとえばあ、誰か好きな人がいて誤解されたくないとか……」
「好きな人……」
すぐにさっきの驚いた顔の志岐くんが頭に浮かんだ。
そして打ち消すように頭を振る。
いやいやいやいや。
ファンのくせに何を図々しいことを……。
「まったくありません!!」
「じゃあいいじゃん」
何だか納得させられてしまった。
しかし多目的ルームに入って、更にまずいことになった。
とてもとても珍しいことに、御子柴さんが多目的ルームでお弁当を食べていた。
その周りには3年のセレブ女子が取り囲んでいる。
「えー、手作り弁当? 御子柴くん誰に作ってもらったの?」
「え? まさか彼女? 彼女がいるの?」
「それにしてもお母さんが作るような幕の内弁当ね」
「これはスポーツトレーナーもやってるマネージャーの作った弁当だよ。朝からわざわざ届けてくれたんだ」
どうやら三分一マネが、仕事休みの弁当まで持ってきているようだ。
でも、足も普通に歩けているようで良かった。
「シ、シンくん。ここも混雑しているようなので別のところで食べましょう」
私は御子柴さんに気付かれないように、こっそり部屋を出ようとした。
「えー、何でだよお。ここならドリンクサーバーもあるし、丸テーブルならもう一つ空いてるじゃん」
ぎゃああ! そんなク○ヨンしんちゃん声で叫ばないで!
御子柴さんに気付かれてしまう……。
そっと視線をやると、案の定、御子柴さんが驚いた顔でこっちを見ている。
あれから三分一マネと顔を合わせるのも気まずくて、田中マネと相談して、しばらく仕事が忙しいからマネージャーは出来ないと伝えていた。
いろいろ見つかっちゃいけなかった気がする。
「シ、シンくん、ほら3年生の邪魔になるから別のところで食べようって」
私は背中を向けて、小声でシンくんを引っ張って行こうとした。
「なんでさあ。じゃあ聞いてみればいいじゃん」
「え?」
「すみませーん! ここでお昼食べてもいいですかー?」
シンくんはク○ヨンしんちゃん声で御子柴さんたちのグループに尋ねた。
ぎゃあああ! もうやめて!
いろいろまずいんだってば……。
背中ごしにも御子柴さんの怒りのオーラを感じる気がする。
私は、そっと御子柴さんを窺うように振り向いた。
「全然いいよ。なんだったら一緒に食べる?」
微笑んで答える御子柴さんの目がちっとも笑ってない。
助けて、誰かあああ!!!
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