第165話 シンくんとのお出かけ①
「目的は何ですか?」
私は後部座席の隣に座る野原田くんを射るように見つめた。
「目的?」
「私の写真を撮ったり、朝の時間を合わせたり、私に近付いて何をしたいんですか?」
野原田くんは突然、私の左手をとって両手で握りしめた。
「神田川さん、好きです! 付き合って下さい」
「えっ!!!」
人生で初告白を受けて唖然とする私に、野原田くんはブッと吹き出した。
「なあんてね。嘘、嘘。そう言って欲しいのかなと思ってさ」
「そ、そ、そんなこと思ってません! からかわないで下さい!」
「あはは。もしかして告白されたことないの? そんな芸能人いるんだ? それでも映画のヒロイン役をゲット出来るんだもんね。ホント、誰が売れるか分からないよね」
なんだか、いちいちトゲのある言い方をする人だ。
「ねえ、どうやってヒロイン役をゲットしたの? どうやって御子柴さんのマネージャーになったの? そのルックスでどうやって芸能1組まで昇りつめたの?」
「そ、そんなこと……」
私にだって分からない。
なんでかこうなってたのだ。
一番不思議に思っているのは私なのだ。
「ねえ、駅前に美味しいケーキ屋さん見つけたんだ。今日の帰りに一緒に行こうよ」
野原田くんの話は、あちこち飛んで突拍子もないことを言い出す。
「な! なんで私が野原田くんとケーキ屋さんに……」
「来ないと皆にイザベルだってバラしちゃうよ。御子柴さんと……それから志岐くん? 今、一番伸びしろが期待されてる新人だよね。彼にも内緒なんでしょ?」
野原田くんは、私の弱みをすべて知っているようだった。
◆
「僕のことはシンって呼んで」
「は? なんで私が……」
放課後、送迎車で駅前まで送ってもらった。
私用で使って申し訳ない気持ちで車を降りた。
そもそも私も野原田くんも車移動しなければならないほどの熱烈なファンはいなかった。野原田くんは知名度はあるけれど、遠目に指差すぐらいのファンばかりだ。
だから駅前のケーキ屋さんに入っても、特に騒がれることもなく普通に席についてケーキを注文した。
そして相変わらずの突拍子もない会話が始まる。
「僕も
「いえ、呼ばなくていいです」
「なんか名前で呼んだ方が親密度が増すでしょ?」
「別に親密度なんていりませんから」
「もう! いいから名前で呼んで! じゃないとバラすよ!」
二言目にはこれだ。
ほっぺを膨らませて可愛い顔をしても、もう騙されない。
「野原田くんは……」
「シンでしょ?」
「野原田くんは……」
「シン!!」
「……」
結構くだらないことにしつこくこだわる性格らしい。
こういうとこはク○ヨンしんちゃんのキャラにピッタリはまっている。
もう面倒くさい。
「シンくんは一体何をしたいんですか? 私とケーキ食べて楽しいですか?」
「うん、楽しいよ。ほら男1人でケーキ屋さんって入れないでしょ? 僕、こう見えて凄い甘い物好きなんだ。意外でしょ?」
見た通りです。何の驚きもありません。
「真音も食べなよ。今日は特別に僕がおごるからさ」
「結構です。怪しい人に借りを作りたくありません」
「嫌だなあ、借りだなんて。僕達もう友達でしょ?」
「いつ友達になったのか、見当もつきません」
「えー、ひどいなあ。僕、傷ついちゃったよ。くすん、くすん」
男のくせに擬音を口に出すなああ!!
しかもちょっと可愛い顔するなああ!!
いや、しかし近くで見るとホントに可愛い顔だなあ。
さすが子供時代から芸能人をやってるだけはある。
はっ! いかん!
シンくんのペースに巻き込まれている。
「と、とにかく、何を企んでいるのか知りませんが、私と一緒にいてもろくなことはありませんよ。友達なんて言ったら白鳥苑さんに目を付けられます。私はどうやら自分では気付いてなかったのですが、疫病神らしいですから」
「疫病神?」
ほっぺをケーキで膨らませながら、シンくんが聞き返した。
むむ。仕草がいちいち可愛い。
「そうです! 私と一緒にいるとトラブルに巻き込まれて酷い目に合うんです」
そういえば志岐くんも、最初は危ないストーカーかと思ったと言っていた。
無難に生きようとする志岐くんを表舞台に引きずり出そうとするとかなんとか。
あれ?
あの時は何だか嬉しい言葉だと感じていたけど、それって褒めてる?
実はすっごい迷惑がってない?
志岐くんや御子柴さんの器が大きいから受け止めてくれているだけで、普通の人なら迷惑極まりない人間なんじゃないの?
「ふーん。じゃあどうして御子柴さんは、そんな疫病神をマネージャーにしてるの?」
「そ、それは御子柴さんが優しいから……」
「じゃあ真音はその優しさに付け込んで芸能界にしがみついてるんだ」
「優しさに付けこむ……?」
あれ? そうだったの?
私も自分の今のポジションが不思議で仕方なかったけれど……。
思い返せば芸能2組になっても仕事がなくて、寮費も払えず退学寸前のところを御子柴さんに拾ってもらった。それがなければ、私なんてとっくの昔に転校するしかなかったはずだ。
(私は御子柴さんの優しさにずるずると甘えて、ここに居させてもらってるんだ)
今頃になって初めて気が付いた。
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