第159話 芸能1組 合同授業
「志岐、パスッ!」
「御子柴さんっ!」
目の前では夢の競演が繰り広げられていた。
今日は御子柴さんも志岐くんも仕事がオフで、学校に来ていた。
そして体育の授業は、なんと3学年合同で4階の校長室の隣りにある体育館で行うらしい。
日焼けすると仕事に響くことの多い芸能1組は、屋外での体育は出来ない。
そのため芸能1組専用の体育館があった。
公民館の室内競技場程度の体育館は、ぎりぎりバスケコートがとれるぐらいだ。
ダンスやヴォイストレーニング、演技指導などの合同授業も主にここで行われる。
思った以上に合同授業は多かった。
そして今……。
縦割りのチーム編成でバスケの試合をしていた。
志岐くんのドリブルから御子柴さんへのパス、そしてシュートという国宝レベルの試合が行われていたのだ。
女子の目は全員ハートになっている。
「これはいいわね。2人ともこんなにバスケが上手なんて。今度のドラマにはバスケシーンを入れましょう」
「きゃああ、麗華様。それいいですわ」
「志岐くんもドラマOKだったんですわね」
「あーん。今から秋のドラマが楽しみ!」
麗華様と取り巻きは秋クールのドラマの構想が膨らんでいるらしい。
(私も楽しみですっ!)
聞き耳を立てていた私に、ふっと麗華様が振り返った。
「あら、あなたまだいたの? とっくに芸能2組に降格だと思ったら。社長ったらあれほど言っておいたのに何をやってるのかしら」
麗華様、私にだけは恐ろしい人です。
あなたの
「継続してる仕事って、あなた何の仕事をしてるの? 誰に聞いてもさっぱり分からないのだけど」
「そ、それは……」
口ごもる私に、思いもかけない救世主(?)が現れた。
「師匠! 僕の華麗なプレイ見てくれてた? シュート入れたやろ? カッコ良かった? 見直したやろ? なあなあ」
「や、柳くん」
ごめんなさい。
御子柴さんと志岐くんしか見てませんでした。
私が芸能1組に編入したのを知ったのはこの合同授業でだったらしい。
柳くんは、思いのほか喜んで、さっきから付き纏ってくる。
「今度大型スーパーで、またお笑いイベントがあるねん。師匠も一緒に出ようや。ちょっと師匠と出来るネタ考えてみてん」
「い、いや、柳くん、私はコンビを組むつもりは……」
言いよどむ私に麗華様が「ああ」と納得したように肯いた。
「なんだ、あなたお笑い枠だったの? それなら分からなくもないわね。道理で……」
道理で何ですか?
違います。決してお笑いコンビを組むつもりなんて……。
え?
みんな凄く納得顔ですね。
まさかそんなところに私の才能が眠って……?
いやいや、私はとても地味で平凡で真面目な、面白みの無い人間です。
人を笑わせる才能なんて皆無のはずです。
どう説明しようかと悩む私の耳にパシャパシャというシャッター音が聞こえた。
隣でバスケの試合を観戦していた1年生女子が御子柴さんと志岐くんを携帯カメラで撮っていた。雰囲気からしてセレブ枠の世間知らずのお嬢様っぽい。
きゃあきゃあ言いながら今度は動画も撮ってるようだ。
麗華様はそれに気付くと、すっと立ち上がって1年生の前に立つと、その携帯を取り上げた。
「なっ! 何するの?」
「ちょっと返してよ!」
どうやら1年セレブ女子には芸能1組の
麗華様は有無を言わせず、携帯を操作して写真と動画を削除したようだ。
麗華様の後ろには取り巻き3人組が腕を組んで睨みつけている。
絵に描いたようなイジメスタイルだ。
「な、なによ! お父様に言いつけるわよ!」
「そうよ。彼女の親は大会社の社長なんだから!」
これまた見事な金持ちのバカ
「それが何? この方は白鳥苑財閥のお嬢様よ」
「Fテレビを傘下に置いて、この学園にも多額の出資をしているのよ」
助さんと角さんが
目の前で時代劇を見ているようだ。
黄門様役の麗華様は静かに決めゼリフを言い放つ。
「あなた達、この学園の校内規則の説明を受けてないのかしら? 芸能1組のタレントには莫大なお金が動く肖像権があるの。写真1枚、動画1つで芸能生活が左右されるのだから当然だわ。本人の了承なしに写真や動画を撮れば停学処分。万が一勝手にSNSにあげたりすれば退学処分よ。内容によっては訴訟を起こすことも出来るの。お分かりかしら?」
1年女子は青ざめた顔で震えだした。
「す、すみません。あまりに素敵だったので、こっそり自分で保存してるだけならいいかと思ってしまいました」
「私達、SNSにあげるつもりなんてもちろんありません!」
「もう2度としませんから停学は……」
私も初日に職員室で厳しく指導を受けたが、美しい御子柴さんと志岐くんを保存しておきたい気持ちは分からなくもない。
麗華様は取り上げた携帯を操作して、ぽいっと2人に返した。
「証拠の写真を削除してしまったから今回は立証出来ないわね。でも次に見つけたら、停学だけで済まないと思いなさい」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
その様子を見ていた他の1年生達も青ざめて聞いている。
な、なるほど。
麗華様の言うことは筋が通っている。
こうして彼女は芸能1組の秩序を保っているのだ。
御子柴さんのような1流芸能人にとっては有り難い存在なのだ。
「他に写真を撮っていた子は、今すぐこの場で削除なさい!」
麗華様が周りに叫ぶと、1年生は慌てて携帯の画像を削除している。
みんなこっそり撮っていたのだ。
2年生以上はよく分かっているらしく、携帯を持ってきている人もいない。
「ちゃんと削除したかチェックして!」
麗華様が命じると、2年ばかりか3年生まで1年の携帯を取り上げて画像を調べている。
「麗華様、この子ったら、まだこっそり画像を残しています!」
1人が画像を見つけて犯罪者を見つけたように叫んだ。
1年生は、ひいいいっっと叫んで土下座して謝っている。
ぐ、軍隊の取調べのようだ。恐ろしい。
その時、取り巻き3人の1人が、1年男子の携帯をチェックして驚いたように叫んだ。
「麗華様、こ、これは!? ちょっと来て下さい!」
何か分からないが、とんでもないモノが映っていたようだ。
な、何が映ってたんだ?
まさか御子柴さんか志岐くんのお宝レアショットが……?
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