第158話 久々のメンズボックス

「いたたた、ちょっと待って、まねちゃん」


「まねちゃんじゃなくて魔男斗ですから。さっさと歩いて下さい。御子柴さんの無遅刻記録が今日で途切れてしまいますよ!」


「ちょっと筋肉痛が……」


「もう! だから無茶しないで下さいって言ったじゃないですか! 夕日出さんに対抗したりするからですよ! ホントに負けず嫌いなんだから! 早くメイク室に入って下さい」


 今日は久しぶりにメンズボックスに魔男斗として付き添うことになった。

 出来れば学校には行きたくなかったので、今日もマネージャーが出来て助かった。

 三分一さんにはちゃんと休みを取るように厳しく言ったらしく、今日は私1人のようだ。


「珍しいね。御子柴さんが夕日出さんとジムに行くなんて」

 今日は志岐くんも一緒だった。


 廉くんと、後から大河原さんも来るらしく、久しぶりのメンズボックス四天王が顔を揃える。


「成り行きでそうなっただけなんですけど……」


 もう2度と一緒にジムには行かせまいと心に誓った。


 トレーニング計画も何もあったもんじゃなかった。

 お互いムキになって、全然言うことを聞いてくれない。


 あんなことを続ければ2人とも筋を痛めてしまう。


「でもまあ、2人ともなんだかんだ言って楽しそうでしたけどね」

 あまりに生き生きと張り合ってるものだから、止めきれなかった。


「御子柴さんと夕日出さんは、お互いを認め合ってるからね。結局張り合いたくなるほどお互いが気になるんだろうね」

 志岐くんは2人の良き理解者だった。


 


 今日はロケでの撮影だった。

 都内のお洒落なオープンカフェの一角を使って撮影する。


 学生服の高校生パターン。

 カジュアル服の大学生パターン。

 スーツ姿の社会人パターン。


 どれも不思議に違和感なくしっくりと着こなす。

 4人がカフェにいると、そこだけ輝いて見えた。


 朝早い時間からの撮影だったが、いつの間にかカフェの周りは黒山の人だかりになっていた。

 私はファンがなだれ込まないように、人垣となって見学の人々を押さえて防御する。


「きゃあああ。御子柴くんよ!」

「かっこいい……。生で見るとオーラが違うわね」


 うむ。生の御子柴さんは殺人的な麗しさだ。

 この人達なら私が胸ダイブしてしまった気持ちも分かってくれるだろう。


「廉くんよ。かわいい!」

「りこぴょんと別れたって聞いたけどホントかしら?」


 え? そうなの? 知らなかった。


「大河原くんだわ。今度映画に出るらしいわよ」

「へえ、楽しみ!」


 もう半分以上撮り終わっているが、公開は来年だ。


「え? あのイケメン誰?」

「知ってる! 仮面ヒーローの悪役で騒がれてる人よ」


「そうなの? あの硬派な雰囲気が好みだわ」

「確かに。若いのになんか貫禄あるわよね」


 うむ。


 志岐くんの認知も広がっているようだ。

 ブレイクの予感がプンプン匂っている。


「じゃあ撮影裏話のページ撮りますから、4人で自由にして下さい」


 スタッフの声掛けで、4人はスーツのネクタイをゆるめてくだけた様子になった。


 途端にきゃあああ! という黄色い悲鳴があがる。


 大河原さんは真っ先に見学者に手を振ってファンサービスをする。

 蘭子ロスからはすっかり立ち直ったらしい。

 また、きゃああ! と悲鳴が上がった。


 御子柴さんはチラリと視線を向けて微笑む。

 それだけできゃあああ! と地響きがするぐらいの悲鳴が上がる。


 志岐くんは、御子柴さんにうながされてこちらを見ると、照れたようにペコリと頭を下げた。

 またしてもきゃあああ! という悲鳴があがる。


 こういうことに免疫のない志岐くんは、戸惑ったようにうつむいて照れてるようだ。


(かわいい……)


 ふと気付くと、見学の女子達もキュンキュンしているっぽい。


 うむ。


 志岐くんは御子柴さんとはタイプの違う女殺しの素質があるようだ。


 そして廉くんは……。


 あれ? 真っ先に調子に乗って騒ぎそうな廉くんは、しゅんとうつむいたままだった。



「りこぴょんと別れたらしいよ」

 帰りのロケバスの中で御子柴さんがこっそり教えてくれた。


「じゃあ……ホントに? あんなに仲が良かったのに……」


「どうやら遊園地企画の時にりこぴょんがイザベルを騙して置き去りにしたのが原因らしい」

「えっ? なんでっ?」


 まさかの私が原因? 

 そんな……。


 あれは結局志岐くんが探しに来てくれて、イザベルの私としては孫の代まで語り継ぐ貴重な胸キュンエピソードとなっているのに……。


「廉は、りこぴょんって天使みたいに心が清らかで優しい子だと思ってたみたいだからさ。人を騙したり陥れたりしたのが信じられなくなったみたいだよ」


 それは、廉くんがりこぴょんをデフォルメし過ぎてた訳で……。


「それだけで、あんなに好きだったのに嫌になっちゃうんですか?」

「まあ、高校生の恋愛ってそんなもんじゃない?」


 数多あまたの恋愛を経験してきた御子柴さんは、あっさり肯定した。


「だから……」


「え?」


「だから、本当に失いたくない相手には簡単に告白なんか出来ないのかもしれない」


 

 御子柴さんは考え込むように窓の外を見つめて呟いた。



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