第153話 夢見プロ枠ドラマ
「志岐くん、私は大物舞台俳優の娘なんです。
「私は広告会社の娘なの。よろしく」
「私は番組制作会社の娘。仲良くしてね」
白鳥苑さんが志岐くんと握手を交わすと、待っていたように三人組がわっと志岐くんを取り囲んだ。
「麗華様って滅多に自分から握手を求めたりしないのよ」
「今まで御子柴さんぐらいしかいなかったわよね」
「麗華様が認めたなんて、あなたきっと凄いタレントになるわ」
「はあ。ありがとう」
志岐くんは何だか分からないままに、三人組と握手を交わした。
「麗華様ってご自分でドラマ枠を持ってらっしゃるのよ」
「ご自身で脚本を書いて、ほとんどプロデューサーに近い仕事をしてるのよ」
「前クールの学園ドラマは深夜だったけど、視聴率が断トツ良かったから、今度は7時からのゴールデンタイムのドラマ枠の脚本を書いているのよ」
三人は口々に麗華様を褒め称える。
いや、でも脚本書くって凄いな。
「ふふ。コネでコンペに参加させてもらったの」
「でもコネだけではさすがに選ばれなかったわ」
「麗華様の脚本が素晴らしかったのよ」
「麗華様は昔から頭が良かったものね」
麗華様は取り巻きのベタ褒めに、まんざらでもなく微笑んだ。
「だって高校生のことは実際の高校生が一番よく知っているわ。面白いドラマを作れる自信があったの」
「へえ。すごいね」
志岐くんは素直に感心している。
「秋クールのドラマだけど、7時台のドラマって最近なかったから、挑戦なの。すでに御子柴さんの主役は決まってて、スケジュールもおさえてるわ」
「御子柴さんなら間違いないね」
志岐くんは深く肯いた。
「御子柴さんとは知り合い?」
「メンズボックスの撮影で一緒になることが多いから。それ以外にもいろいろお世話になってる。本当に凄い人だね」
「御子柴さんは初めて会った時から他の人とは全然違ったわ。もの凄いオーラというか、そこだけ光ってる感じ。無名の頃から絶対売れると思っていたの」
麗華様は両手を組んで夢見るように語った。
御子柴さんの大ファンという情報は間違いないようだ。
「でもあなたも充分すごいわよ。久しぶりにビビッときたわ」
うむ。見る目はあるようだ。認めよう。
「その7時ドラマって実は夢見プロ枠なのよ。キャストはほとんど夢見プロで埋めることになってるの。志岐くんも出てくれないかしら?」
「え?」
まさかこんな場所で仕事のオファーを?
しかしいくら重役の娘でも高校生にそこまでの権限あるのか?
「御子柴さんの親友役を探してたの。実際の人物をイメージすると書きやすいのよね。志岐くんは御子柴さんとも仲がいいんならぴったりだわ」
「麗華様はキャストの選別も任されているのよ」
「御子柴さんと志岐くんが出るドラマなんて絶対人気出るわ」
「このドラマの視聴率がとれれば、7時ドラマは麗華様の固定枠になるわね」
高校生だろうがコネだろうが、視聴率を取れば文句なしの世界なんだ。
「御子柴さんとドラマを一緒に出来るなら、もちろん嬉しいけど、一応社長に確認してみるよ」
なるほど。
麗華様の一言で干される人間もいれば売れていく人間もいるんだ。
これは芸能1組の人間は逆らえないだろう。
「えー、いいなあ志岐くん。亜美もそのドラマに出して下さいですぅ」
亜美ちゃんが横から甘ったるい声で言葉をはさんだ。
す……。
すごいな亜美ちゃん。
私より命知らずだ。
そんなぶりっ子調で図々しいことを言って、反感を買ったら終わりじゃないか。
「……」
麗華様は亜美ちゃんに視線を向けて黙り込んだ。
や、やばいぞ。
こういう人って可愛い女子には厳しかったりする。
まさか干される?
しかし……。
「あなたにぴったりのいい役を思いついたわ。考えておくわ」
え――っ!
言ってみるもんだな。
「やったあ。嬉しいですぅ。亜美、頑張りますぅ」
うむ。大河原さんもそうだが、芸能界は自分を売り込んでなんぼの世界だ。
これぐらいの図々しさを持つか、志岐くんや御子柴さんのような飛び抜けた才能を持つかしなければ生き残れない世界なんだろう。
「私は才能ある人が好きなの。男性も女性も関係ないわ。性格がいいとか悪いとかも関係ない。圧倒的なオーラや図々しいぐらいの野心がある人が好きだわ」
麗華様は、確かに強力な権力もあるが、一本筋の通った人のようだ。
ただの好き嫌いで芸能人を干したりするわけではないらしい。
才能ある人は取り立て、ない人は干す。
とてもはっきりしている人なんだ。
ん?
……ということは?
「だから才能もないくせに芸能人づらしてる人が大っ嫌い! なんのオーラもない地味な人が、なにかのまぐれで仕事を得たとしても、どうせすぐに淘汰されて消えていくわ。そういう人には早い内に現実を教えてあげた方がいいと思ってる。あなたは住む世界が違うのよってね」
麗華様、なぜだかこちらを見ていますね。
「まして、芸能1組にどうやって入ったのか知らないけど、うっかり紛れ込んで、何を勘違いしたのか御子柴さんに抱きつくなんて無法者は容赦しないわ」
うん。真っ直ぐ私を見ていますね。
「全力で思い知らせてあげるから覚悟しておくことね」
終わった……。
初日から私の芸能生活は終わりを告げられた。
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