第152話 白鳥苑 麗華
芸能1組は1クラスだいたい20人ほどだった。
その内、約半数の10人はセレブ枠で、前列に座っている。
そして休みがちな芸能人は後列で、始業式だというのに空席が目立つ。
海外の仕事で一ヶ月ほど休む生徒も多いらしい。
芸能2組からの編入組はさすがに全員来ている。
一番後列を、窓際から順に亮子ちゃん、志岐くん、亜美ちゃん、私の順で座っていた。
簡単な自己紹介の挨拶のあと、後列に自由に座れと言われて、こうなった。
芸能クラスはすべての発言権が売れてる順だ。
亜美ちゃんは、さすがにエックスティーンの売れっ子モデルで最近ドラマにも出ている亮子ちゃんには敬意をはらっているらしい。
「私はぁ、志岐くんの隣ならどこでもいいですう」
よく考えたら全員志岐くんが好きなのだった。
そうして一番売れてない私は雑用係に使われやすい廊下側の一番後ろになった。
セレブ枠は、男子は二人だけであとは女子だった。
そしてさっきからチラチラと志岐くんに視線を送っている。
セレブ女子達は志岐くんを見て、全員ガッツポーズをしている。
新たなイケメンの登場にラッキーという感じだ。
ここは志岐くんのハーレムクラスになるに違いない。
そして隣りの三年生のクラスは御子柴さんのハーレムなんだろう。
その御子柴さんに胸ダイブしたのだから、私は命知らずと言って過言ではない。
えらいことをしてしまった。
朝、志岐くんに要注意と言われたFテレビの重役の娘はどれだろう?
彼女に見られてしまったなら、私の芸能生活はピリオドとなる。
いや、見てなくても噂はもう伝わっているだろう。
まさか一日で退学?
志岐くんと暮らす日々も今日で本当に夢となってしまうのか……。
私は前列の顔ぶれを後ろから品定めした。
「
朝の送迎車の中で志岐くんが教えてくれた。
そのゴージャスな名前から容姿を想像すると、『ベルサイユの薔薇』に出てくるような、巻き髪のボリュームだけで後ろの人が視界ゼロになるだろう人物に違いない。
だが見渡す限り、そんな髪型の人はいない。
一番ゴージャスでお嬢様っぽいのは、やっぱり亮子ちゃんだ。
ゆるく巻いた髪は、派手過ぎず清楚なお嬢様に見える。
さすがに芸能人は違う。
その次は長めのボブにしている亜美ちゃんだ。
甘ったれな話し方さえ聞かなければ、清楚なお嬢様に見える。
さすがに芸能人は違う。
この対比で見ると、前列はそれなりにお洒落にも気を使っているのだろうが、やはり平凡で地味な容姿の人ばかりだ。
うむ。さすがに芸能人は違う。
いや……。
一番平凡な私が後列に座ってるのが、もの凄い違和感じゃないか!
さっきから三人ぐらいの女子が私の方を見ては、こそこそ耳打ちし合っている。
美人ではないが結構派手めの化粧をしている。
(あの中に白鳥苑麗華がいるはずだ)
どれだろうと考えている内に、一時間目は終わっていた。
休み時間になると、三人組は教室の隅で志岐くんに話しかけたそうにしている。
他の女子はその三人に遠慮して遠巻きにしている感じだった。
そして男子二人は、さっそく亮子ちゃんと亜美ちゃんにそれぞれ話しかけている。
うむ、チャラ男系バカぼんと見た。
「えっ? あのお菓子メーカーの御曹司ですかぁ? 亜美、あそこのCMに出てみたかったんですぅ」
「おやじに推薦しておくよ。じゃあさあ、今度うちに遊びにおいでよ」
「えー? 亜美、男子と二人っきりになるのは禁止なんですぅ」
うそつけい。
夕日出さんと付き合ってたくせに。
「俺、亮子ちゃんのすっげえファンだったんだ」
「ありがとう。でも演技はまだまだで……」
「いや、演技もうまいよ。この間のドラマが初めてとは思えないよ」
「そのドラマの前に他でもちょこっとやったことあるのよ」
うむ。亮子ちゃんは嫌な顔一つせず無難に会話を弾ませている。
その辺の世渡りもうまくないと、芸能界ではやっていけないらしい。
私は……。
うむ。特に誰からも話しかけられてないし、このまま静かに過ごそう。
そしてついに志岐くんに話しかけるツワモノが現れた。
さっきの三人組ではなく、窓際の一番前の席で突然立ち上がったと思うと、つかつかと一直線に志岐くんの席に向かってくる。
長い黒髪ストレートに、黒縁メガネ、目は細く、頭は良さそうだ。
一つの事に集中したら他が見えないという面持ちは、ガリ勉東大生の雰囲気だ。
うむ。タイプは違うが地味さで言うと、私といい勝負だ。
このクラスに仲間がいて良かった。
そして志岐くんの机の前に立ちはだかると、おもむろに口を開いた。
「あなたは元はスポーツ9組のエースピッチャーだったって聞いたわ。怪我をして野球は出来なくなったそうだけど、芸能界にはもともと興味があったの?」
言いにくいことをズケズケ言う人だ。
あの三人に抜け駆けして志岐くんに話しかけたりして大丈夫なんだろうか?
白鳥苑麗華の独裁クラスだと聞いたけど。
「いや、以前は野球のことしか考えてなかったから……」
志岐くんはこの失礼な女子にも丁寧に答えている。
「ちょっとイケメンだからって芸能界をなめてるの?」
なんだ! この非常識女子は!
志岐くんに失礼だろ!
「いや、まさか。自分に出来ると思ってなかったよ」
志岐くんは困ったように苦笑した。
「ちょっとトントン拍子に仕事が決まったから、とりあえずやっておこうとか思ってるわけ?」
「ちょっ……」
私は思わず立ち上がって反論しようとした。
しかしそれより早く志岐くんが答えた。
「最初は確かに嫌々だった時もあるけど、今は全力でやってるよ。野球の時と同じぐらい、どの仕事も全力でやってるつもりだ」
さすがの志岐くんもむっとしたのか、真っ直ぐ失礼女子を睨んでいる。
「……」
しばらく黙ってその志岐くんを見つめていた失礼女子は、突如、ぼっと真っ赤になった。
どうやら志岐くんの目ぢからに負けたらしい。
うむ。当然だ。
この
「し、失礼なこと言ってごめんなさいね。御子柴さんの目ぢからも凄かったけど、あの人に匹敵するような人が他にいるとは思わなかったわ」
「え?」
驚いている志岐くんに失礼女子は握手を求めるように手を差し出した。
「歓迎するわ。志岐走一郎くん。私、白鳥苑麗華。よろしくね」
え?
え――っ! この地味系女子が……?
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