第六章 芸能1組編
第151話 芸能1組
「ほら、あの子よ」
「え? あの子が?」
「そんな大胆なことする子に見えないけどね」
「ああいう地味な子に限って身の程知らずなのよ」
「てか、なんであの子芸能1組に来たの?」
「セレブ枠? 金持ちそうにも見えないけど」
「芸能2組から上がってきたらしいから芸能活動はしてるみたいよ」
「テレビでも雑誌でも見たことないけど何の仕事してるの?」
「それが芸能2組の子に聞いても分からないみたいよ」
「どちらにせよ、許せないわね」
「ええ。私達の
「私達だってそんな羨ましいこと、したことないのに……」
「あの麗しい御子柴さんが
「御子柴さんも迷惑そうにしてたし……」
「もう二度とあんなマネ出来ない程度に懲らしめないとダメね」
「ええ。久しぶりに
「ふふ。あの子何日もつかしら?」
◆
クラスのみんなが私を見ながらざわついているのが分かった。
原因ははっきりしている。
編入初日の朝っぱらから、あれほど御子柴さんに馴れ馴れしくしてはダメだと注意されたというのに、脳内ドーパミンの大暴動に屈して、私は御子柴さんの胸にダイブしてしまった。
志岐くんへの大暴動だけを警戒していて、御子柴さんを忘れていた。
まさかこれほど御子柴さんロスを患っていたなんて私も気付いてなかった。
思い返せば、あの志岐くんと並んでも遜色ない絶対的アイドル御子柴さんと毎日のように接していたのだ。
食事を管理し、見事に鍛えられた筋肉を日々マッサージしていた。
モデルのポージングも完璧、ドラマの演技も素晴らしい。
サッカーをしている姿など芸術に等しい。
私の中で志岐くんはダントツの1番だったが、御子柴さんはいつの間にか僅差に近付いていた。考えてみれば当然だった。
若くしてトップアイドルに上り詰めた御子柴さんは、誰が見ても完璧にカッコいい人だった。
そして人柄も尊敬するに充分な人だった。
(自分でも気付かなかったけど……すごく会いたかったんだ……)
御子柴さんがこれほど自分の心を占めていたのかと、驚いた。
だが……。
あまりにタイミングの悪い場所でそれに気付いてしまった。
まさに芸能1組の大勢が見守る、朝の教室前の廊下だった。
御子柴さんは驚いて受け止めたものの、慌てて私を引き剥がした。
「朝から熱烈だね。でも出来ればもう少し目立たない場所でしてね」
ファンの暴挙にも慣れているのか、さらりとかわして立ち去ってしまった。
「す、すみません」
すぐに我に返って頭を下げた私にも、他人行儀な微笑みを残して行ってしまった。
そうして身の程知らずの編入生の話題でもちきりとなっている。
みんなに陰口を叩かれることにはもう慣れてきたが、御子柴さんのよそよそしさはショックだった。
(あれ? 私のこと忘れちゃった?)
結構長い時間を共に過ごしてきたつもりだったが……。
(え? もしかして御子柴さんのマネージャーをしてたのって私の妄想?)
なんだかそんな気もしてきた。
しばらく蘭子になりきっていたのもあって、どれが本当の自分で、どれが本当の世界なのか分からなくなってきた。
そっと隣を見上げる。
「!!!」
志岐くんの麗しい顔がある。
長年垣間見てきた志岐くんが、柔らかい茶色の髪を爽やかになびかせて立っている。
(こ、これも夢?)
憧れ過ぎて妄想の世界に入り込んでしまったのか……。
よく考えればおかしいことばかりだ。
ガングロチョコポッキーだった私が女優気取りで芸能1組?
いや、ない、ない。
なんてことだ。
ファンたるものが、スターの生活に介入するような妄想をするなんて!
私はいつからそんな図々しいファンになってしまったんだ。
「夢の中の志岐くん。どうか私を殴り倒して自分の世界に戻して下さい」
「え?」
「志岐くんに殴られて夢が覚めるなら本望です。どうぞ遠慮なく全力で殴って下さい」
「いや、出来ないから。大丈夫? まねちゃん」
志岐くんは困ったように苦笑した。
「ま、まねちゃん? 志岐くん、私のことを知ってるのですか?」
「いや、さっきまで普通にしゃべってたけど……」
「え? それは私の妄想じゃなくて……?」
「妄想じゃないよ。御子柴さんもまねちゃんと馴れ馴れしくすると、いろいろまずいことになるかもしれないから、他人のフリしたんだと思うよ」
「え? じゃあ私は御子柴さんと本当に知り合いだったんですか?」
「どう考えてもそうでしょ」
志岐くんは不安そうに私の様子を窺っている。
「そんな嘘みたいなことが本当に……? あの……志岐くん。私が目障りになったらいつでも殴り飛ばして現実に戻して下さい」
「いや、しないから……」
波乱万丈の芸能1組での生活が始まった。
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