第149話 三分一マネージャー
「私は男装しなくて大丈夫でしょうか?」
メンズボックスの撮影現場で、御子柴と志岐は声の主を
「あら、嫌だわ。そんなイケメン二人で見つめないで下さい。心臓が飛び出してしまいますわ。うふ」
「なんで
御子柴は立ってても座っている自分と目線が同じ三分一さんに問い返した。
「わたくし聞いてますのよ。前任のマネージャーが男装してたって」
前任という言い方が、後任になろうとする意欲で
「ああ。若い女の子だったからね。ファンの子にいろいろ勘ぐられると面倒だからそうしてたんだけど……」
「だったら、わたくしなんて花の22才よ。こんなうら若き乙女が御子柴くんの側にいたら、世間が騒がないかしら?」
「……。心配ないと思いますけど……」
御子柴は苦笑した。
「わたくし家で男装出来ないものかとやってみたんですのよ。でも、ほら。私のこのJカップの胸がどうしても目立ってしまって。ああ、うっかり言っちゃったわ。きゃっ! 恥ずかしい。ええ、ええ。Jカップですのよ。着やせするんですの」
「……」
御子柴は無言のまま頭を抱えた。
いろいろ想像したくなかったらしい。
「なんでも前任のマネージャーは、絶望的な幼児体型の貧乳らしいですわね。だから男装してもバレなかったんですわ。ああ、私のこのふくよかな胸が恨めしい」
「……」
御子柴と志岐はチラリとお互い目が合って、慌ててそらした。
貧乳はともかく、小動物のような頼りなげな蘭子を思い出してしまった。
ロリコン趣味はないはずだが、あれはあれで可愛かった。
「ところで大河原さんのあの状態はどうしたんだ?」
御子柴は話を変えて、志岐に小声で尋ねた。
久しぶりに撮影が一緒になった大河原は、スタジオの隅でズンと落ち込んでいる。
「蘭子ロスらしいです」
志岐は気の毒そうに大河原を見た。
「蘭子ロス?」
「まねちゃんがすっかり正気に戻って、自分に懐いてくれなくなったそうです。結構本当の妹のように可愛がってましたから……」
「じゃあ、もうすっかり元のまねちゃんに戻ったのか?」
「はい。演技の時としっかり切り替えられるようになったみたいです」
「そっか。良かった。食事も摂れてるのか?」
「はい。一度電話してみたらどうですか?」
「うん……。なんかまた拒絶されそうで怖くてさ……」
「大丈夫と思いますけど……」
「もうマネージャーは、やってくれないんだろうな」
「どうでしょう。イザベルは映画の後はモデルの仕事だけって言ってましたけど」
「なにイケメン二人でコソコソ話してるんですか? でもイケメンが二人で
三分一マネが、三分の一ではない顔をにゅっと突っ込んできた。
「たわむれる……?」
御子柴と志岐は、気持ち悪くなってお互いに椅子を少し離した。
「御子柴くん、そろそろお昼の時間ですよ。私の特製弁当を食べて下さい。食べた後は、少し筋肉の状態を見たいのでマッサージしますね」
「三分一さん、今日ぐらい別にマッサージしなくていいですよ。田中マネもいるし、ドラマ以外の時は休んでもらっていいです」
「まあ! 私の体を心配して下さってるんですね? いいえ、いいえ! 御子柴くんの完成されたボディーを保つためには休んでる場合ではありませんのよ。私のことなら心配しないで下さい」
「いえ……。三分一さんの心配と言うよりは……」
ドラマ以外の時ぐらい、この三分一地獄から離れたかった。
『彼女も神田川くんと一緒で美しい男が好きでね。美しい男のためなら命を懸けるようなところがあるんだ』
社長は真音とそっくりだと言うが、なんか違う。
いや、全然違う。
一番違うのは外見だろうが、中身も一番大切な部分が違うような気がする。
それが何かと問われると、うまく説明出来ないのだが、全然違う。
「俺もまねちゃんロスになりそう……」
「はは。そろそろ映画の撮影も落ち着いたし、戻ってきますよ。それに噂ではまねちゃんも芸能1組になるみたいですよ」
志岐は先日聞いた噂を思い出した。
「芸能1組に? ホントに?」
芸能1組と芸能2組では学校のフロアが違う。
芸能1組はすべてにおいて特別扱いで、他の生徒と触れ合えないようになっている。ほとんど隔離された教室で、学校で他の生徒が芸能1組の生徒に会うことはない。
だが裏を返せば、芸能1組同士なら、学年が違っても接点は多いのだ。
「そっか。俺も最後の学年ぐらいは、学校行事に参加したいと思ってたんだ。まねちゃんも一緒なら楽しくなるな」
「はい。俺もいろいろ心配なんで、同じクラスで良かったです」
「ああ……。でもそうか……。芸能1組はいろいろ気をつけることがあるからな……。確かにまねちゃんは……ちょっと心配かも……」
「心配?」
「ああ。お前が同じクラスなら良かった……」
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