第134話 志岐くん 対 洗脳少女蘭子
「おう、志岐か。お前も今日こっちの撮影か」
「はい。出番は午後からですけど……」
私は驚いて、さっと翔の後ろに隠れた。
「え? イザベル……ですよね……?」
志岐くん……。
それが志岐くんだとは分かるけれど、真っ先に浮かぶのは、それが『翔以外の男』ということだけ。
つまりは私を傷付ける『敵』だ。
「なんで隠れて……? 俺がなにか……?」
なんだか凄いイケメンだけど、翔以外の人は怖い……。
特に男の人はみんな私の敵……。
「あの、イザベル……」
翔を回りこんで私を覗き込む。
私は驚いて、さらに回りこんで翔の後ろに隠れ直す。
「イザベル……」
超絶イケメンは驚いたように翔を見た。
「ああ、こいつ今、丹下マジックに
「役に? どういう役なんですか?」
「まあ、簡単に言うと、俺以外の男はすべて敵だと思ってる」
「敵……。俺も……?」
「まあそうだな。こうやってるとゴスロリ女イザベルも可愛く見えてくるから不思議だ」
「だ、大丈夫なんですか? こんな状態で……」
「まあ……日ごとに洗脳が深くなってるな。とりあえず撮影の間は俺かスタッフがついてるし、後は家に帰って寝るだけだから。田崎マネが家までしっかり送迎してるみたいだし」
「でも……」
「日常生活が出来ないわけじゃない。セリフも演技もちゃんと覚えてるし。撮影はとても順調なんだ。凄いよ、丹下マジック」
「だからって……また痩せたみたいに見えるし……。俺が誰かも分かってないみたいだし……」
「そんなことないよ。蘭子、こいつ誰だか分かるよな?」
私は翔の袖を持ったまま、そっと片目だけ出して志岐くんを見上げた。
「志岐……くん……」
「ほらな。ちゃんと分かってるだろ?」
「……」
超絶イケメンの志岐くんは戸惑った表情をしている。
翔よりずっと私好みのイケメンだけど、この人は私に害成す敵なのだ。
心を許してはならない。
でも何かを言いたそうに私をじっと見つめている。
その真っ直ぐな瞳に、心が揺さぶられる。
私は何か大事なことを忘れているような気がする。
でも……思い出してはいけない気もする。
今思い出したら、私はまたみんなに迷惑をかけて、全員に憎まれる。
翔にも嫌われる。
だから……。
この人から全力で逃げなければならない……。
掴まってはダメだ。
「翔……この人、怖い……」
私は震えながら翔の腕に顔をうずめた。
「怖い……? 俺が……?」
「ああ、役に入ってるだけだから、悪気はないんだ。許してやってくれ、志岐。蘭子も俺がいるから大丈夫だよ。な?」
翔はポンポンと私の頭を撫ぜた。
「うん……」
それでも衝撃を受けたような顔で私を見つめる彼が……怖い。
力ずくでこの
「もう戻ろ……、翔」
「ああ、そろそろ撮影も始まるし戻ろうか」
翔の腕を引いて、立ち去ろうとする。
その私を志岐くんがもう一度呼び止めた。
「イザベル!!」
私はチラリと振り返ったが、逃げるように翔の腕を掴んで駆け去った。
その私達を見送りながら、彼が盛大に頭を抱えて呟いた言葉は私の耳には届かなかった。
「結構……ダメージ大きいんだけど……」
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