第120話 仮面ヒーロー撮影

「きゃっ、ねえねえあの人カッコよくない?」

「顔合わせの時、あんな人いたっけ?」


 今日は、初めて仮面ヒーロー達と一緒の撮影だった。

 正義のヒーローと悪のヒーローでずっと別撮りばかりだった。


 きゃあきゃあ騒いでいるのは、ヒロイン薫子かおるこ役の和歌泉わかいずみココちゃんと、その友人真子役の奈美ちゃんだった。


 二人は童顔で幼く見えるけれど、実は18才らしい。

 てっきり同い年かと思っていた。


 道理で色っぽいと思った。

 高校は通信制で、すでに本格的に仕事をしているらしい。


 主にグラビアが中心らしく、私とは対照的な体型をしていた。

 つまり巨乳ということだ。


 リハーサルはTシャツにジャージを羽織っていたが、同じTシャツでも着る人間が違うとこうなるのかと、二度見してしまうぐらい、胸がきつそうだ。


 みんなお揃いのTシャツを着ていたが、ゼグシーマッチョ団はもり上がる筋肉でピチピチ。

 グラビア女子二人は巨乳でピチピチ。


 そして志岐くんは、理想的に素敵に着こなしていた。


 痩せてスカスカに着ているのは、私と……主役の大井里おおいざと竜二くんだけだ。

 背の高さも、私の方が少し高いぐらいで、ちょっと親近感が湧いた。


 顔も男にしておくのは勿体無いぐらい可愛いベビーフェイスだ。

 しかし、なんと年齢は20才ということだった。

 芸能界はみんな驚くほど若作りだ。


 入念なリハーサルを済ませて、いよいよ本番スタートだ。

 まずは変身前の姿で撮影する。


「お前達なんかに、この地球は渡さないぞ! 俺がこの星を守ってみせる」

 大井里くんが、Gジャン姿で私と志岐くんに啖呵たんかを切る。


 志岐くんは青の学ラン姿で、私は白の短パンとブーツ姿だった。


「ふははは! お前なんかに何が出来る。偉大なるゼグシオ様に太刀打ち出来ると思っているのか」


 この憎ったらしいセリフは私、ゼグロスが言う。

 ゼグシオの志岐くんは、長い黒髪を背に垂らし黙って私の後ろに立っている。


 そう。

 美しくも偉大なゼグシオ様は、こんなチンケな悪役ゼリフは吐かないのだ。

 汚れセリフは私にお任せ下さい、志岐くん!


「おのれえ! 見ていろっ!! 仮面ヒーローPW、へーんしーんっっ!!」

 大井里くんが変身ポーズを決める。


 大井里くんは、ここからはスーツアクターと入れ替わる。

 あとでアフレコで入れ直すが、とりあえず声だけでの参加になる。

 

「お、お前は何者だっ! まさか……」

 私は驚愕の表情を浮かべ、ゼグシオを守るように背に庇う。


「お前達のような悪者を倒すため、この星の女神に選ばれし戦士だ!」


「なんと生意気な……。私が相手をしてやるっ!!」


 私は仮面ヒーローと殺陣たてを繰り広げ、最終的にボコボコにやっつけられる。見事なチンピラっぷりだ。


「ゼ、ゼグシオ様、すみません……。つ、強いです……」

 私は瀕死の状態でゼグシオの元に戻る。


「ゼグロス……」


 志岐くんのセリフは、その一言だ。

 後は傷ついたゼグロスを助け起し、仮面ヒーローを睨み据える。

 ゴーオオオオッッ!! と風が吹いて怒りのゼグシオが変身を遂げる。


 ここからは先に撮っておいた変身シーンをCGで組み合わせ、志岐くんが着替えてから撮影再会となる。


………………


 そして中世の騎士のような姿で現れた志岐くんに、スタジオ内は再びため息に包まれる。女性陣ばかりか、まっちょ軍団まで目がハートになっている。


 ココちゃんと奈美ちゃんも、きゃあきゃあ騒いでいる。

 この二人は中世のお姫様のようなドレスに着替えていた。

 可愛いけど、ちょっと金髪のカツラがコントみたいだ。


 私もドン〇ホーテのSM女王衣装に着替えて志岐くんの隣りに立つ。

 顔も黒い口紅とアイラインで魔女のようなメイクになっている。

 その後ろにはゼグシーまっちょ団が立ち並ぶ。


 煙幕をたいて、白いもやの中から風を受けてゼグシオが現れる。

 なんだかヒーローよりも凝った演出になっていた。


 ゼグシオに力を入れ過ぎなんじゃないかと思うが、この美しい志岐くんを見たら、入れ込んでしまうのも仕方がない。


「仮面ヒーローよ、お前の命も今日までだ。覚悟するがいい。ふはははは!!」


 うむ。

 小者こもの感満載のセリフは私にお任せ下さい。

 志岐くんは黙って立っているだけで充分な存在感がありますから。


「やれ!」

 志岐くんのセリフは、その一言だけだ。


 ゼグシオの命令を皮切りに、まっちょ軍団がじりじりと仮面ヒーローににじり寄る。


 絶対絶命の仮面ヒーロー。


 しかしその時。


「やめて!!」

 薫子姫が仮面ヒーローの前に立ちはだかる。


「彼を傷付けないで!! どうかやめて下さい」

「姫様、危険です。おやめ下さい」

 奈美ちゃんは、薫子姫の侍女らしい。


「……」

 志岐くんは目を見開き、驚いた様子で薫子姫を見つめる。

 ここでゼグシオ様は薫子姫を見て、恋におちるのだ。


「どうされましたか? ゼグシオ様。あの女もろともやっつけてしまいましょう」


 うむ。見事なクズ発言だ、ゼグロス。


「待て。今日のところはここまでにしよう」

「ええ!? どうしてですか? 今ならみな殺しに出来るというのに」


 ゼグロスよ。

 どこまでもクズなヤツよ。


「ここまでと言ったらここまでだっ!!」

 ゼグシオに唸るように怒鳴られて、一瞬本当に怒られた気分になる。


「す、すみません、ゼグシオ様……」


 役とは分かっていても、ちょっと傷ついた。

 本当に志岐くんに呆れて失望された気分だ。


「次は容赦しない。仮面ヒーローよ」

 ゼグシオは言い残し、まっちょ軍団を引き連れ去っていく。


「はい、カーット!!」

 今日の撮影はここまでだった。


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