第118話 観覧車の罠②

 さっきは撮影のポーズを決めたりしていたので、あっという間に一周したように感じたが、置き去りにされた観覧車は恐ろしくゆっくり回る。


 窓から見下ろす景色の中で、りこぴょん達が乗り込んだロケバスが移動しているのが見えた。どうやらスタッフ達は、私がいないことに気付いていないらしい。


 どこの休憩所に向かうのか、確かめようと思うのに、遊具に隠れてどこに向かったのか分からなくなってしまった。


 まさか、このまま園内に置き去り?


 とりあえずお金は持っていない。

 それから上に羽織るベンチコートもロケバスの中だ。


 日の暮れかかった夕暮れの空からは雪がチラチラ舞い始めた。


(寒くて死ぬ……)


 一瞬死の恐怖を感じた。


 底冷えのする観覧車の中で、冷え切った体は歯がガチガチ鳴るほど震える。

 いや、観覧車の中はまだいい。

 風だけは避けられる。


 ゆっくり地上に着くと、吹き荒ぶ外気の中にゴスロリ服を着た私は一人放り出された。


「ど、どこに向かえばいいの……」


 すでに目に見えるほどに震える体でロケバスが向かった方角に歩くしかない。

 その私の頭に、はらはらと雪が無情につもっていった。


 

◆    

 


「なにキョロキョロしてんだよ、志岐。ラーメン食えよ。体があったまるぞ」


「大河原さん、イザベルは? イザベルがいません」


「あ? イザベル? トイレとかじゃねえの?」


 イートスペースになった休憩所で、スタッフもモデルも温かい食事や飲み物を頼んで、帰る前の腹ごしらえをしていた。


「お前本気であの子気に入ったのか? やめとけって言ってんのに」


「御子柴さん、そんなんじゃないんです。それよりロケバスから出たところを見てないんです」


「……」

 青ざめた志岐を見て、ようやく異変を感じ始める。


「りこぴょん達なら知ってるんじゃない? 僕、りこぴょんに聞いてみようか?」


 三人で固まってココアを飲んでいるりこぴょん達に廉が問いかける。


「ねえ、りこぴょん、イザベルはどこにいるの?」


 三人はドキッとしたように会話をやめた。

 お互いに気まずそうに顔を見合わせる。


「し、知らないぴょんよ。私達ずっと三人でいたぴょんよ」

「話が合わないもんね」

「ロケバスに一人で残ってるんじゃないですかあ?」


「あら、さっき観覧車を出発する時、モデル全員いますって言ってなかった?」

 石田さんが三人に問い詰める。


「そ、そうだったぴょんかな」

「知らないわ」

「いると思ったんですけどお……」


「観覧車……」

 志岐は呟くなり、駆け出していた。


「あ、おい! 志岐っ!!」

「石田さん、ロケバスで探してもらえますか」


「ええ。もちろん。運転手に頼んでくるわ」


「りこぴょん……まさかわざとやったの?」

 廉は少し驚いた顔で尋ねる。


「廉くん……。だ、だってイザベルがむかつくから……」

 りこぴょんは半べそになって答える。


「こえー。女ってこういうとこ残酷だよな。この寒空に置き去りにされたら、凍死するぞ」

 

「やり過ぎだよね。いくらむかつくからって、やっていいことと悪いことがあるだろ」

 最後に御子柴に一喝されて、女子モデル三人はしゅんと黙り込んだ。

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