第117話 観覧車の罠①
志岐くんって……。
意外に積極的なタイプ?
気に入った子は、あんな風に抱き締めたりするの?
真音の私には、いつも紳士的に優しいけど、他の女の子にはもっと情熱的に接するの?
情熱的な志岐くんも素敵だけど……。
素敵だけど、なんでか心が沈む。
隣を歩く志岐くんをそっと見上げる。
私の視線に気付いた志岐くんは、照れたように目をそらした。
そのまま無言で進む。
「あれ? なんで志岐がいるんだよ」
前から私を探しに来たらしい大河原さんがやってきた。
「あの……悲鳴が聞こえたんで気になって……」
「ふーん……」
大河原さんは、無言で歩く私と志岐くんを交互に見た。
「お前ってホントにゴスロリ
「いえ、そういう訳じゃ……」
珍しく口ごもっている。
「あれ? 志岐くんまでいるの?」
棺おけの
「まあ、いいや。じゃあイザベルは棺おけの前に立って。まずは一人で撮るから」
「はい……」
本当に吸血鬼が眠っていそうな棺おけのそばは、禍々しいオーラが漂っている。
こういう場所には禍々しい者が集まり易いのだ。
さっきの怪しい女の人が出て来たらどうしよう……。
「大丈夫。危ないと思ったら俺が助けに行くから」
志岐くんが耳元で囁いた。
「……」
嬉しいのに心が痛む。
どうしてだろう。
イザベルを特別扱いする志岐くんを遠く感じる。
真音の私から遠くに行ってしまうように感じる。
私はいつの間にか、贅沢な望みを持ってしまっていたのかもしれない。
「ああ、いいねえ。その悲しそうな顔。悲壮感が出て絶望的な世界観を感じるよ」
私は見事に『ヴァンパイアの古城』の世界観を表現出来たらしい。
結局志岐くんはおばけ屋敷の撮影の間ずっと、イザベルを守るようにさりげなく側にいてくれた。そのおかげか、その後は妙な気配も感じず、無事撮影は終了した。
◆
「ええっ?! どうして志岐くんも一緒にいるんですかあ? どこに行ったのかと思ったら、なんでイザベルと?」
おばけ屋敷から出ると、亜美ちゃんが非難を込めて私を睨んだ。
「志岐ってゴスロリが好きらしいぞ」
大河原さんが余計なことを言う。
「ええーっっ!! そうなんですかあ? わああん、ショック……」
「志岐くん、今日は亜美ぴょんの彼氏役なんだから亜美ぴょんをエスコートしなさいよ」
「そうだぴょん。イザベルも人の彼氏にちょっかい出すなんてひどいぴょんよ」
「ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ」
志岐くんは困ったように亜美ちゃんを慰める。
「す、すみません……」
謝る私をキッと睨んでりこぴょん達は行ってしまった。
ますますアウェイ感が強くなってきた。
今まで嫉妬される側に回る経験など皆無だったので、どうしていいか分からない。女子同士の男がらみの揉め事とは無縁に生きてきたのに。
◆
最後に観覧車での撮影になった。
一組ずつカメラマンと共に乗り込んでラブラブのシーンを撮るらしい。
りこぴょんと廉くんはキスシーンまであるらしい。
そこまでするとは思わなかった。
「ああ、イザベルはラブラブとかいいから。人形みたいに座ってて」
よかった。
この死体顔でラブラブとか無理だと思った。
しかし観覧車って結構寒い。
すきま風が入って、一周すると体が冷え切ってしまう。
カップルというよりは、観覧車に乗った男女の人形という
「はあっ。やっと終わったか。結構疲れたな」
私と大河原さんの撮影が最後だった。
「休憩所に温かい食事を用意しているみたいなんで、移動しましょう」
カメラマンが言って、みんなでロケバスに向かった。
最後を歩いていた私は、突然遊具の陰から現れた亜美ちゃん達に驚いた。
「わっ。びっくりした。ロケバスに戻ってたんじゃなかったんですか?」
「それがね、女子モデルだけ、最後に遠景で観覧車を撮るからもう一回乗ってくれって頼まれたのですう」
「え? でも休憩所に行くって……」
「今決まったぴょんよ。あっちでカメラマンがスタンバイしてるぴょん」
「そ、そうなんですか」
「さあ、イザベルも来て。いっつも一番最後だったから、一番最初に乗せてあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
ぐいぐい腕を引っ張られ、回る観覧車の一つに押し込まれた。
「あ、あの皆さんは……」
「一人ずつ乗るのよ。閉めるわね」
係員が来て、ガチャリと外ドアを閉めた。
動き出した観覧車に向かって亜美ちゃん達が子供のようにあっかんべえをしている。
え?
まさか……?
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