第114話 メンズボックス × ポップギャル 合同企画④

「馬車にどうぞ、お姫様」

「ありがとうぴょん」


 廉くんが、りこぴょんをメリーゴーランドの馬車にいざなう。


「白馬の御子柴さんって本物の王子様みたいです」

「はは、ありがとう」


 あずりぃは白馬に乗る御子柴さんに、完全にメロメロだ。


「きゃっ! 私重いでしょ? 恥ずかしいですう」

「いえ、全然大丈夫です」


 志岐くんは馬に登れなくて四苦八苦している亜美ちゃんをひょいと持ち上げている。



 そして……。


「おい、何でドラゴンに乗ってんだよ。普通馬に乗るだろ」

「あ、すみません。珍しかったのでつい」


 妙にリアルで可愛げのないドラゴンにがっつりまたがっている私に、大河原さんのダメ出しが飛んだ。


「だいたいまたがるなよ。横座りするだろ、普通」


「え? そうなんですか?」


 みんなを振り返ると、女子は足を揃えて横座りしている。

 確かに撮影用の衣装はどれもフリフリスカートで、またがるとカッコ悪い。


「あのな、撮影なんだよ。モデルなら衣装が綺麗に見える所作しょさを考えるべきだろう」

 大河原さんはいい加減に見えて、プロ意識が高い人だった。


「た、確かに。ご指摘ありがとうございます」

 素直に反省した。


「お? 見た目の割りに素直なんだな」

 大河原さんは私の意外な反応に少し驚いたようだった。


「じゃあ、あっちの一番大きい白馬に乗ってもいいですか?」


 回ってる時から、乗るならこのドラゴンか一番大きい白馬がいいと思っていた。

 実はメリーゴーランドは大好きなのだ。


「ああ、別にいいけど……乗れるのか?」

「任せて下さい!」


 私はたっと駆け出し、足台に厚底ブーツの先を引っ掛け、ひょいと飛び乗った。


「おお! すげえなお前。身のこなしが軽いじゃん」

「ふふ。運動神経はいいんです」


 得意げに答えると、横からくすっと笑ったような声が聞こえた。


「え?」


 志岐くんがこちらを見て笑っていた。

 

 わ、私を見ていたの?

 まさか本当にゴスロリ好き?


「じゃあ、まず全体の写真を撮りますので、そのまま自然にしてて下さい」


 編集部の人が声をかけても、大河原さんは馬に乗らず私の馬の横に立っていた。


「あの……大河原さんは馬に乗らないんですか?」

「アホ、一番でかい馬に横座りする彼女を置いて馬に乗れないだろ。彼氏なら落ちないように横に立って見守るだろう」


「そ、そういうものなんですか?」

 振り返ると志岐くんも亜美ちゃんの横に立っていた。


 御子柴さんの相手のあずりぃは真横の子馬だから落ちても大丈夫だし、りこぴょんと廉くんは馬車だった。遊園地デートってしたことないから知らなかった。


「お前、遊んでそうに見えるのに、何? デートもしたことないのか?」

「は、はあ……まあ……」

「ふーん、まあその趣向じゃモテないか……」


 いや、ゴスロリは衣装であって、普段は普通なんですけど。

 普通にモテません。


 動き始めると、確かに馬が上下して、横座りだと落ちそうだった。

 大河原さんは期待はずれの私でも、落ちたらすぐに受け止められそうな位置に立って、話しかけてくれた。まあ、仕事と割り切ってるんだろうけど。


 その証拠に一組ずつの撮影になって時間が出来ると、隣の亜美ちゃんに話しかけている。どうやら今日は亜美ちゃん狙いらしい。


 それにしても寒い。


 このゴスロリ服は、フリルたっぷりで体をしっかり覆っているように見えて保温性は皆無だった。


 りこぴょんと廉くんは一番に撮影を終えて、ベンチコートを着てストーブで温まっている。私は、この分だと一番最後だ。


 撮影の時には凍えて見事な死体顔になってるだろう。


「大丈夫?」

 急に声をかけられて、白馬から見下ろすと、志岐くんが横に立っていた。


「え? わ、私ですか?」

 どうやら大河原さんが亜美ちゃんと話しているので、気を使ってこっちに来たらしい。


 うわー。上から見下ろす志岐くん。

 なんて斬新ざんしんな構図だろう。


 これは初めての体験だ。

 上からみても完璧に美しい……。


「寒いんじゃない? 撮影の番がくるまでコートを借りてこようか?」


 うう。白塗り青目の私にも変わらず優しい志岐くん。

 素敵です。


「だ、大丈夫です。ありがとう」

 志岐くんを近くで見ただけで心が温まりました。


「じゃあ、これをあげるよ」

 志岐くんは衣装のポケットからカイロを出して渡してくれた。


「で、でも志岐くんが……」

「もう一個あるから。本当はダメなんだろうけど、衣装に響かないところにこっそり入れておくといいよ」


 いたずらっぽく笑う志岐くんも素敵です。


「あ、ありがとう」


 このカイロは後生大事にして墓場まで持っていきます。


◆    


「きゃあん、志岐くんって素敵じゃないですかあ? 亜美、今日ですっかり好きになっちゃいましたあ」


「うちは同じクラスだぴょん。もと野球部のエースだったぴょんよ。最近は忙しいらしくてほとんど学校来ないぴょんね」


「ああ、怪我して仮面ヒーローになったって言ってた?」


 次のコーヒーカップの撮影も終えて、室内休憩所の控え室で衣装を着替えながら、三人のモデルが女子トークを繰り広げるのを、私は石田さんにメイクを直してもらいながら聞いていた。


 志岐くんはいよいよ亜美ちゃんにロックオンされたみたいだ。


「でもお、大河原さんが亜美のこと気に入ったみたいでえ、すぐに割り込んでくるんですよね。そしたら志岐くんって後輩だから、気を使ってイザベルのところにいっちゃうんですう」


「体育会系だから先輩をたてるんだろうね」

「仕方なくイザベルなんかの相手をするぴょんよ」


 凄い大声で悪口言われてる。


「イザベルさんもぉ、ちょっと気を利かしてくれればいいのに、志岐くんに話しかけられて嬉しそうにしちゃってるんですう。亜美悲しい」

「ちょっとは気を使えってのよね」

「なにか勘違いしてるぴょんよ」


 嬉しそうにしてたのは本当です。

 でも勘違いはしてません。


「もう、ほら聞こえる声で悪口言わないの。次はおばけ屋敷よ。怖がり過ぎて衣装破かないようにね」

 石田さんがモデル三人に注意してくれた。


 しかし……。


 そうだった。


 遊園地にはおばけ屋敷という恐ろしいものがあったのだ。

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