第112話 メンズボックス × ポップギャル 合同企画②

「あれ? なに? 一人だけ特別扱いぴょんか?」


 すっかり完成形のゴスロリになったところで、りこぴょんとあずりぃと亜美ちゃんが控え室に入ってきた。どうやら別室でメイクをしていたらしい。


「うっわ真っ白! おばけかと思った」


 あずりぃが私を睨みながらあざけるように言った。


「なんか怖いですう。さちょぱさんが良かったのに……」


 亜美ちゃんが可愛くりこぴょんの後ろに隠れた。


「ほんと。さちょぱも一緒だと思ってたから楽しみにしてたぴょんよ。あんたどんな手使ってねじ込んできたぴょんよ」


 どうやら、急にさちょぱと交代になった私は、すでにアウェイらしい。

 いや、私だって出来ることなら代わって欲しいのに……。


「すみません……」


「イザベルだっけ? 変な名前。うちらあんたなんか認めてないからね。だいたいどっから現れたのよ。気味悪いったらないわ」


 どうやらなべぴょんだということも知られてないらしい。

 いや、とりあえず今日は知られてない方がありがたい。


「もう、ほらほら仲良くやってよ。今日はグループデート特集なんだから」


 石田さんがなんとかあいだをとりもとうとしてくれたが、りこぴょん達は私と仲良くするつもりはまったく無いらしかった。


 これはきつい撮影になりそうだ。


 

 遊園地デートなのでロケバスで移動することになったが、三人は後ろの席を陣取り、私は一番前の席で一人ポツンと座ることになった。

 私だとバレないのはいいが、空気がトゲトゲしくて辛い。


 りこぴょんと亜美ちゃんは仲良くなかったと思うが、一人嫌われ者がいると結束が固まるようだ。三人で見せ付けるようにお菓子を交換し合ったり写メを撮り合ったりしてきゃあきゃあ騒いでいる。


「なんかマダム・ロココがなべぴょんの存在とイザベルを結び付けたくないらしいのよ。だからりこぴょん達には話してないんだけど、辛かったら話そうか? なべぴょんってりこぴょんと仲良しだったよね」


 石田さんが隣に座って耳打ちしてくれた。


「いえ、いいです。私もなべぴょんだと知られたくないんで。それにそんなに仲良しってほどでもないですから」


「そう? でも言いたかったらりこぴょんには言ってもいいわよ」


「ありがとうございます」



 やがてロケバスは遊園地に到着した。


 今回の撮影は春に発売のもので、6月ぐらいの気候に合う衣装だったが、今は1月。外は寒風が吹き荒れていた。


 モデル達はみんな分厚いベンチコートを着て、撮影の間だけ初夏の陽気の中にいるような顔でコートを脱ぎ捨て薄い衣装になる。そして撮影が終わったら、暖房のきいたロケバスか控え室に駆け込むらしい。


 今までスタジオの中でしか撮影していなかった私には経験がなかった。


 メンズボックスは多少ロケもあったが、季節が女性誌ほど前倒しではないし、衣装もペラペラではない。女性モデルは、思った以上に過酷な仕事だった。


「さ、さむっ!」

 ベンチコートを着て出ても、底冷えする寒さだ。


「亜美ぴょん、コートの中にカイロを貼っておくといいぴょんよ」

「ありがとうございますう。りこぴょんさん」


「ほら、やってあげるよ」

「わああん、あずりぃさん優しい。亜美、感激ですう」


 私に見せ付けるようにりこぴょんとあずりぃが亜美ちゃんの世話を焼く。

 亜美ぴょんなんて呼んだのは初めてなんじゃないのか?


 うむ。私がモデル達の結束を高めるのに一役ひとやくかったようだ。

 良かった。


 いや、全然良くない。

 私にもカイロプリーズ。


 私は何ものにも負けない強靭きょうじんな体力と精神を持っているつもりだが、おばけと寒さにだけ弱い。なにせ元ガングロチョコポッキーは、皮下脂肪が少ないのだ。


「あら、カイロ全部使っちゃったぴょん。ごめんぴょんよ、イザベル」

 りこぴょん達は意地悪く笑って行ってしまった。


 うむむ。りこぴょんめ。廉くんに言いつけるぞ。


 そして……


 最初のメリーゴーランドの撮影場所には……。



 すでにメンズボックス四天王が立っていた。



「きゃあっ!! 御子柴さんよ」

「廉くんだぴょん」

「え? きゃっ、誰? あの背の高いイケメンはぁ」


 前を行くモデル女子三人が色めきたつ。


 簡易のストーブを囲んで立つ四人は、遠目に見ても別格にカッコいい。

 しかも……。


 ああ、志岐くん。


 黒いパーカーがよくお似合いです。

 イケメンの中にいても、やっぱり志岐くんに目が釘付けになる。


 外で見る志岐くんに、私はなぜか鼓動が止まらなかった。


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